No.35 府中市の武蔵国府跡 :制作2014年4月、銅板12㎝×12㎝

   筆者は、1994年から東京都府中市に住んでいる。年数の割には地元のことを知っているわけではなかったので、府中市らしさを探すことにした。

   同市内を東西に走る京王線の府中駅で下車する。同駅の西側には、線路と直交して南北に約600mに及ぶ「けやき並木通り」がある。この通りを南に向かうと大國魂(オオクニタマ)神社に至り、その境内東側の玉垣越しに、朱塗りの円柱が立ち並ぶ一角が現れる。ここが今回紹介する「国史跡 武蔵国府跡 国衙地区」である。以下その案内板を参照する。

   今の府中市には、奈良時代から平安時代にかけて、武蔵国(ムサシノクニ:現在の東京都と埼玉県、神奈川県の一部)を治めた国府(コクフ)が置かれた。国府とは役所の所在地のことで、国衙(コクガ)は、その中枢の役所があった場所を指す。因みに府中の名は、「国府の中」に由来する。発掘調査により出土した柱穴跡から、南北に2棟の建物が並んで立っていたことが判明したという。

   本作品は、国衙地区として整備された敷地を南から見たもので、東西方向に6本、南北方向に3本の円柱が立ち、敷地の北側はガラス張りの展示館となる。

   周辺は道路ならびに近隣に住宅があるため、このかつての役所を実物大で再現していない。そのため、展示館壁面に使用したミラーガラスによって手前の柱を映し出して、建物全体の広がりが理解できるように工夫している。本作品において、奥の影の方向が手前とは反対になっているところが、ミラーガラスに映った柱の幻影となる。

   この史跡は、屋根を伴うまでの復元をしていないが、そもそも建物が敷地に収まらないため、不確かな復元は好ましくない。ミラーガラスが建物の規模を演出しているように、ここではいにしえの姿を心の中で想像したい。