No.1 松方ハウス(旧松方正熊邸):制作2003年7月、銅板24㎝×18㎝

 地下鉄大江戸線の麻布十番で下車し、一の橋方面の出口から地上に出る。そこは港区六本木・麻布界隈の谷筋に当たる。ここから急坂となる大黒山坂を歩き、さらに一本松坂を登る。この坂がくの字に折れるところを右折すると、3階建ての瀟洒な木造の洋館が現れる。

 この洋館は、麻布の高台に位置したかつての武家屋敷跡に、ヴォーリズ建築事務所の設計により、大正10(1921)年に建てられた。施主の松方正熊は、学生時代をアメリカで過ごした実業家で、次女の春子は駐日アメリカ大使ライシャワーと結婚し、3女の種子は、同所に現在の西町インターナショナルスクールを創設することになる。

 通称松方ハウスと呼ばれる家屋の外壁は、全体にグレーの色調を持つモルタルを掃き付けて仕上げている。建物は立方体状の躯体を持ち、ここには洋館に特有なクラシカルな装飾はなく、何様式という名を当てはめることはできない。類例を上げれば、米国において1890年から1930年の間に盛んに建てられた郊外住宅に近い。

この作品は、玄関のある東側の光景で、前方に大きく張り出したパーゴラ状の庇が印象的なアクセントを添える。この玄関口を中心に左右対称となるファサードは、均衡の取れたプロポーションを持ち、それは上方で出窓のある起伏に富んだ大きな屋根と相まって傑出した外観と記念性を生み出している。なお、松方ハウスは東京都の選定歴史的建造物に認定されている。(筆者は、2001年6月から同年8月に行われた復原改修工事に監修という立場で参加した。)