幼い日のあなたの夢は、かないましたか?

子どもの頃って、自分に何ができて何ができないか、はっきりわかりませんよね。

でも、逆に空想だけはどこまでも豊かに広がり、ふとしたきっかけで心に住みついた憧れが、芽をふき葉を出しすくすくと成長を続け、やがては大木になって心の中でざわざわ揺れていたりすることがあります。

その大木を現実にも根づかせられるかどうか…さあ、それは人それぞれということになるのでしょう。

きっと人の数だけ夢があり、夢の数だけ幸せと失望があるに違いありません。

かなった夢とかなわなかった夢。

信じ続けている夢と、消えそうな夢。あなたはどれを、心に宿していますか?

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 エレメノペオは、大きなしっぽを持った、ふかふかの猫。

サケの薫製とクリームチーズの入ったベーグルを食べたり、バードウォッチングを楽しんだりと、静かで優雅な生活を送っています。

ムクドリとかカケスとか、鳥の種類まで見分けられるかしこいエレメノペオ。

ほんとは鳥たちと遊びたいのですが、近づくといつも逃げられてしまうので、お昼寝をしては空を飛ぶ夢ばかり見ています。

背中には羽、まっすぐたなびく大きなしっぽ。

足をぴーんと伸ばし、風の中に頭をそびやかして、のびのび気持ちよさそうに空を飛んでいる夢です。

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 ある日、エレメノペオがいつものように外に出ようとすると、猫用のドアが修理中で開きませんでした。

何かおもしろいものはないかなあ、と家の中を探していると、見つけたのはイーゼルと絵の具箱。

体が汚れないようにスモックを身につけ、筆とパレットを手にして、エレメノペオは大きな大きな絵を描き始めます。

でも、いったい何の絵を?

 

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 サアフのイラストはちょっと不思議。

厚いべたぬりで線も力まかせにうねっているのに、微妙なところでしっかりバランスがとれていて、猫のふんわり丸まった背中の質感や、ピンク色した美しい雲が浮かぶ空の、思いっ切り広々した感じなどを、深みを持たせながら描いています。

子どもの絵の持つ野放図な力強さをそのまま真ん中に据えながら、シックな大人のセンスで縁どりしたような、こくのある味わい。

素敵です。

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 エレメノペオはさしずめ、どんなに体をふくらませても届かないような、大きな夢を抱えた猫だったと言えるでしょう。

でもその夢には、晴れ渡った日に空をすーっと流れるひこうき雲のような、どこかを目指してまっすぐのびて行く無邪気な美しさがあります。

こんなまっすぐな夢をあなたも見ていらっしゃいますか。

かなった夢。

それは確かに幸せのしるしですが、かなわなかった夢の方が、はるかに美しく、そしてちょっと哀しく、心に残り続けるのかも知れません。
 

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 以上は、1998年のおそらく11月に、あるリーフレットに掲載されたレビューです。(一部加筆修正)

 

まだ翻訳が出てなかったので、Elemenopeoを独断で「エレメノペオ」と表記しました。

 

翻訳では「エレメノピオ」になっていて、音(おん)としては、その方が近いのかも知れません。

 

もともとは、「L,M,N,O,P」という、アルファベットの一部から着想された名前じゃないでしょうか。

 

今回、昔のデータをいろいろ見ていて、こんな素敵な絵本があったなあと思い出し、アップすることにしました。

 

この、少し長めのレビューも、いくつかストックがあるので、不定期にアップして行こうと思います。

 

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「Elemenopeo」 作 Harriet Ziefert 絵 David Saaf、Donald Saaf