さて、今回が、この本についての最終回です。
誤解のないように、申し上げますが、翻訳より、原文の方が優れてる、ということではありません。
翻訳を読む体験と、原文を読む体験は、場合によっては、かなり異なっている、と申し上げたいのです。
そして、原文を読む体験には、それ独自の、すばらしい味わいがあります。
それに気づかないのは、もったいないことなのではないか。
僕が長い間、英語の絵本を、ご紹介し続けて来た結果、気づいたのは、そういうことです。
もちろん、英語には、人によって、得意、不得意があるでしょう。
でも、我々は、たとえば英語の試験を受けるみたいに、正確に英文を読む必要があるのでしょうか。
多少不正確でも、誤読であっても、とにかく読んでしまって、いいのではないでしょうか。
辞書を引くのがおっくうでも、今はスマホで簡単に、英単語の意味を調べることができます。
それに、困ったときには、最後の手段、翻訳を読んでしまうこと、だってできるのです。
むしろ、英語が不得意だからこそ、たどたどしくしか読めないからこそ、原文の魅力に気づきやすいのではないか。
一歩進んで、僕は、そんな風にも思っています。
なぜなら、他ならぬ僕が、英語が得意ではないからです。
どうか、少しだけ手を伸ばして、英語の絵本に、触れてみませんか。
それが、いちばん申し上げたかったことです。
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ところで、この作品で、僕が、ラストシーンに次いで好きなのは、実は、本文のないシーンです。
リディアが、都会の駅に到着したシーン。
大きく見開きいっぱいに描かれた、駅の構内の片隅に、ちっちゃなリディアが、ひとりでたたずんでいます。
明るく元気なリディアの、でもその内心に秘められた不安が、一枚の挿絵で、とても見事に表現されています。
そんなところも、どうぞお見逃しなく。
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「リディアのガーデニング」 ISBN 4-900656-30-5 アスラン書房 刊
「The Gardener」 ISBN-13 978-0-312-36749-7 SQUARE FISH 刊
(原書は、廉価のペーパーバック版をご紹介しています。)