新Gon's_Bar

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ブログって何? 2004年10月より私生活から高校演劇に関することまで自由に書いてきた記事のアーカイブ。時折更新?

 少し前の話になるが、2025年度の兵庫県大会で、また一つ魅力的な作品に出合えた。市立六甲アイランド高校の『わたしたちの話【栞】』だ。学校で日常的に行われているであろう何気ない会話の積み重ねで出来上がってるこの作品の魅力を改めて振り返ってみよう。
 幕開きは4人の女子高生によるサス芝居。これは私の話で、あなたの話で、私たちの話ですと宣言する。誰にでも存在する何かを、意味のある言葉の謎の向こうに見つけてくださいねという言わば短い宣誓布告のように感じた。

 お芝居に引き込まれていったのは次のシーン。学校の朝の日常風景である。どうでもいいことを楽し気に語る二人。正式名「英語コミュニケーションⅡ」とかの授業を何と略すかでワイワイする。

  恵理  「結奈って」さー、
  結奈  ん?
  恵理  「英コミ?英コミュ?どっち派?」
  結奈  何、急に。
  恵理  ええから。
  結奈  うーん、「英コミ。」
  恵理  「マヂ?」
  結奈  「マジ。」
  恵理  …キモ。
  結奈  ひどない?

 楽しそうなのである。しかも「 」が付いたセリフだけで情報は伝わるのだが、余計な語尾、間、動作が盛り込まれていて、会話自体がリズミカルな言葉遊びになっている。横で眠りこけている別な女の子をバンバン叩いて起こしてまで同じ質問をするのだが、返ってきた答えはどちらでもなく

  栞   …コミュ英かな。

   間

  結奈  バケモンきた。
  恵理  いや、これが天才や。
  栞   ほんまに何の話してんの

 バケモンって…。そんな言葉選びする?ってワードセンスに笑っちゃう。終始こんな調子なのである。ほんまに何の話を見せられているのだろうと思うと同時に、いるいるこんな子らって楽しんでいる自分がいた。こんな楽しそうな姿は何時間でも見てられるわって気にさせられるのだ。と同時に、目の前で展開されている舞台が、まるで俯瞰で覗き見る学校の風景へと変化していくのを感じた。リアリティーってこんなにイキイキと輝くものなのだと気付かされる。
 当然後半にかけて、物語は高校生ならではの心の揺れや葛藤にシフトしていくのだが、登場人物たちのリアリテー指数は下がることなく見事に駆け抜けて行った。彼女たちはみんな違っていて、可愛くて、生意気で、そしてそれぞれに輝いていた。作者はきっと切れ者で目つきの悪い生意気な女の子だろうって決めつけてたら、男子だったってのも小さな「え?」 よっぽど仲間を観察しているに決まっているのだ。
 これは高校演劇である。手練れの女優さんが演じても、けして再現できないリアリティーの前では、手練れの顧問による完成度の高い作品でさえ作り物に見えてしまう。そんな魅力と怖さを持った作品であった。目の前で展開する舞台はまさに、高校生の今を生きる「わたしたちの話」であり、客席に座っている多くの今を生きる「わたしたちの話」だったのかも知れない。
 この作品はクリスマスごろ開催される近畿大会でもう一度上演される。興味を持たれた方は是非、滋賀県の会場までお運びください。高校演劇は生ものですので、賞味期限にはお気を付けください(笑)。
 

「本公演には、在校生以外のキャストが出演しますので、審査対象外となります。」
 上演前アナウンスで告げられた一言は、高校演劇においてはある意味絶望的である。コンクールなので当然賞が決定され、上位校は上位大会へ進む。暗黙の了解として、最初から選ばれないと分かっている上演には望みがないのである。それでも…。
 幕が上がる。「ゾンビ部増殖版」と題されたその作品は、顧問の光武先生の顧問創作。不法に教室を占拠して活動する闇部活ゾンビ部をせん滅させるべく、生徒会役員たちが登場する。軽快なセリフのパスに、客席が引き込まれていく刹那、おどろおどろしい照明とBGMと共に3人のゾンビ部員が血まみれの衣装を着て現れた。だが観客は見逃さなかった。ゾンビ部部長、台本持っている…。

 そもそもこれはよほどのことである。主要キャストの一人が出演できない程の状況に陥っている。昨年の阪神大会でも、顧問の田中先生が高校生男子であるという設定の役を演じ切り幕を降ろした。暖かい客席の反応に部員たちも「ひょっとしたら優良賞ぐらいは」と淡い期待も持ったようだが現実は厳しかった。それがコンクールなのである。死ぬな、休むな、怪我するな。役者に代打無しなのである。
 それでも光武先生の熱演は続く。ゾンビ部部長は挫折したバレリーナであったという設定なのだが、それを変更せずダンスのシーンも乗り切った。部員たちは誰も舞台上にいる「在校生以外のキャスト」を、ここにいない仲間だと信じて演じ切った。観客ももはや、出オチだと感じた人はいなくなっていた。
 人生の失敗や悔しさを乗り越えていく逞しさを、死体を乗り越えて迫りくるゾンビとの二重構造で表したこの作品はまさに、彼ら彼女らが降りてくる緞帳の向こうで見せてくれた笑顔で具体化されていたのではないだろうか。けっして褒められた出来事ではなかったかもしれないが、僕は客席で大きな拍手を贈らざるを得なかった。

 

上演の様子は、11月30日(金)の神戸新聞明石版に掲載されています。ご覧ください。


 

 個人的な話だが、芸能界で同い年といえば出川さんとうっちゃんそれからマッチ。昭和です。何かの記事で出川さんが還暦祝いされてて、ちょっと思ってたわけです。うらやましいなぁ~って。
 そんなこんなを聞いたか察したか、尼北OBのとっさんが企画、それも伊丹西、県伊丹のOBOGにも声掛けし、実現しました3校合同還暦記念パーティー。多分声かけるのも久しぶりのメンツを集めるのは大変だったと思うのですが、総勢60名ほどの皆様にお越し頂けました。秀逸だったのは現兵庫県高等学校演劇研究会事務局長を務めるタナチン(尼北51期)が、阪神支部の先生方にも声掛けしてくれたこと。どっかの学校の現役校長先生にまでお越しいただきました。ありがとう桑ちゃん。
 場内は3校合同同窓会のようなものですが、やはりお芝居という共通の言語を相当に取得済みのメンバーぞろい。この学校はこんな特徴があるとか、やらかしエピソードは? 部内恋愛禁止やけど、子供連れてきてる奴いるぞ、そもそもお前はどうやねんと笑顔が絶えない4時間。赤いちゃんちゃんこ着せられていますが、かれこれ33年、夢中で駆け抜けてきた歴史をかみしめました。
 1992~2000年尼崎北、2001~2012年伊丹西、2013~2022年県伊丹、そして2023年より加古川東。毎年のチーム、作品、事件や出来事など、思い出はとてもここでは語れません。それでも歩いてきた道はこの顔、空気感で伝わるんじゃないかなって思っています。
 最終回はもうちょっと先のはず。大丈夫、みんなのお陰でそこまで走れそうです。ありがとうね。