【#49 The border between WHITE and BLACK / Oct.18.0087】

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  U.C.0087、5月、地球で軟禁状態だったアムロ・レイが、脱出していたらしい。地上のエゥーゴ支援組織、カラバに合流して、MS隊を指揮しているようだ。
 同月のジャブローへの核攻撃も、エゥーゴの仕業と世間に知らされているが、どうやらティターンズによる自爆のようだ。他にも、エゥーゴの代表であるブレックス・フォーラ准将の暗殺。月へのコロニー落とし未遂、コロニーへの毒ガス攻撃未遂……最後の2つはエゥーゴによって阻止されているが、ティターンズの傍若無人極まりない振舞いには、もはや開いた口が塞がらない。
「しかし、よく調べてくれた。」
 ラッキー・ブライトマン中佐は”サクラ”の艦長室で、報告書を持ってきたキアヌ・ファーブル少尉に労いの声をかけた。キアヌ少尉は、EFMP第2部隊の白兵班班長だが、かつて特務部隊にいた経歴もある。
 ブライトマンは、自分の麾下にいる、ヘント・ミューラー中尉が、その恋人であるキョウ・ミヤギ中尉と共に、強烈な監視を受けていることを知っている。と言うよりも、自分自身も、本来はその監視役の一人なのだ。ミヤギのため、という状況下に置かれれば、軍令違反も厭わない、ヘントは、上層部から危険視されている。ミヤギの力、”ニュータイプ”に対しても同様だ。2人はいわゆる危険分子だ。
 場合によっては、抹殺する。その権限も持たされている。だが、素直に従い、ヘントとミヤギをねじ伏せ、屈服させることは、付き合いの深さがためらわせた。ブライトマンは人情がありすぎた。だから、EFMPや”ブルーウイング”、2人を”安全のため”に監視する仕組作りに尽力した。
「エゥーゴが盛り返してきました。ようやく、こういう情報も流れてくるようになった、と言ったところです。」
 それにしても、これまでよく隠しとおしてきたものです、と、感嘆とも、呆れとも言えない声でつけ加えた。
「しかし、こうして見ると……まさに、伝説の再現だな。」
 ”未遂”に終わったティターンズの”悪業”の数々は、ブライト・ノア率いる部隊に阻止されている。ホワイトベースを思わせるシルエットの戦艦と、”ガンダム”と呼ばれるMSを擁している。そこで戦うパイロットたちは、やはり、”ニュータイプ”ともてはやされているらしい。

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 かつて、1年戦争の勝利の象徴だった"ニュータイプ"、"アムロ・レイ"——その伝説の再来のような、エゥーゴの、ブライト・ノアの部隊の活躍に、人々はどうしても希望を抱いてしまうのだろう。人の口に戸は建てられぬということだ。
「たったあれだけの戦力で、ここまで戦えてしまうのなら、そういう印象を抱くのも頷けます。」
キアヌ少尉も静かに共感を述べる。
 ブライト・ノアの部隊——どうやら、"アーガマ隊"と呼ばれいている——は、確かに破格の性能の装備を擁している。だが、それだけで、ここまでミリタリーバランスを覆すなど、常識的にはあり得ない。あり得ないことだが、ブライトマンは、1年戦争でキョウ・ミヤギの"シングルモルトの伝説"を目の当たりにしている。あの事実を見ている以上は、認めざるを得ない。
「それと、ジオンの残党が。」
 アステロイドベルトの向こうにいた一団が、地球圏に帰還してきた。エゥーゴと、ティターンズ、そのどちらとも接触し、どういうわけか反スペースノイドの立場だったはずの、ティターンズと連携の密約を交わしたらしい。宇宙の歴史が、動こうとしている。
 ブライトマンは、その瞳に鋭い光を走らせた。立ち回りには細心の注意を払ってきた。EFMPという、中途半端な立場も隠れ蓑だ。諜報の手も、方々に巡らしている。元々きな臭さを感じていたティターンズの横暴。それに抗するエゥーゴの奮戦。議会の承認を得て正規軍化したとは言え、ティターンズには素直に従いたくはなかった。かと言って、エゥーゴに肩入れしようにも、どんな連中か掴みきれていなかったのだ。"その時"が来るまで、自分の寄る辺が必要だった。EFMP、第2部隊1班と言う、歴史に影も落とさないような、この小さな影は、ブライトマンにとって時代に抗うために守り、作り上げてきた、家であり、砦であり、唯一の武器であった。
「日和見を続けてきたが、そろそろ賭け時かもな。」
 ブライトマンが呟くのを聞きながら、キアヌは黙ったまま目を伏せた。
「"その時"には、お前にも存分に働いてもらうぞ。」
 キアヌは、静かに瞼をあげる。
「ここまで、十分働いたと思いますが。」
「いいや、まだだ。」
本番はこれからだ、と言い、ブライトマンはニヤリと笑った。
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「ジオンと、だと……!?」
 愛機のハイザックカスタムのコクピットシートで、その報せを受けたケイン・マーキュリー少佐は、衝撃を受けた。これから、航空宇宙祭に向けて"ブルーウイング"、EFMPの連中と、合同演習の予定だった。
 ティターンズがジオン公国軍残党、通称"アクシズ"と同盟を結んだ。
 あれほど敵視していたジオンと、なぜ——。
 自身の、ジオンへの憎しみも手伝って、ケインは酷く混乱した。
 しかも、同盟の締結は15日。いまは、18日だ。情報が遅い。
(後に、回されている……。)
 ケインは、自分が単なる末端に過ぎず、重用されていないことを、半ば自覚している。ティターンズの腕利きたちは、エゥーゴとの戦いの、最前線に駆り出されている。中立コロニーの祭典視察など、正直戦況に何の影響もない。
 あてにされて、いないのだ。
 その証拠に、MS用の空母の一隻も配備されていない。一応、示威行為のために、マゼラン級一隻は任されているが、MS戦が戦いの主流の今、マゼランなど時代遅れだ。あとはMS運搬用のコンテナ船が与えられているだけだ。謎の敵機に落とされたサラミスも、代わりの増援が派遣されることはなかった。
「何……?」
 ジオンとの密約を報告に来ていた、マルコ・ドモリッチ中尉のところに、下士官が駆け込んできた。また、何かの報告を受けている。
「不審な艦艇が。」
 サラミス級が、少なくとも一隻。MSも数機随伴している。いずれも、ティターンズで認可しているコードを発していない。
「エゥーゴか?」
ケインは思わず、シートから腰を浮かす。
「哨戒任務で展開中だったEFMPが、既に対応に向かっています。」
ですので、彼らは合同演習には参加できません、と、マルコが呑気に言う。
「"イーグルス"も向かうそうです。」
「バカな!」
 こんなところで、こんなことをしている場合ではない。
「我々も出るぞ。」
 エゥーゴなら、とにかく討ち取る。実のところ、ケインはエゥーゴとの実戦に臨んだことがない。今回も、新型のバーザムを配備されているが、航空宇宙祭でのお披露目のための配備だ。与えられる任務は、新型機や新装備のテストを兼ねた運用と、デモ鎮圧のための示威行為程度の出撃だけだった。中立コロニーの周辺宙域など、戦闘が起こるはずがないと思っていたが、これは、チャンスだ。実践で、手柄を立ててみたい。
「しかし、演習が……」
「EFMPも来なければ、演習も成立すまい。出るぞ。」
 しかし、演習用に武器の出力を落としている。移動しながら整備ができる空母も擁していない。
「ここで、調整し直してからの出撃になります。」
「なら、急がせろ。」
 ケインは、コクピットから出る。
「どこへ?」
「あっちの少佐に連絡する。とにかく演習はキャンセルだ!」
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【 To bn continued... 】