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(連邦のMS隊も練度が上がってきていると聞いていたが……。)
 さして手応えがなかったと、ジオン公国軍”ナハト・イェーガー”ことウォルフガング・クリンガー大尉には感じられた。
『意外と大したことありませんでしたね。』
 別動隊を率いてきたアイザック・クラーク中尉も、同じことを感じたらしい。合流するなり、そんなことを口にした。
『どうも、後方の様子がおかしいと思いますね。』
ただの勘ですが、と前置きをしながらも続ける。
『この間、カルア軍曹の奪還作戦のときと同じだ。不気味なプレッシャーを感じる。』
「おう、やはりか。俺もだ。感じるな。」
『カルア軍曹は上にあがったんでしょう。大丈夫なんですか、”赤鬼”と接触しているはずだ。』
先日の、あの、戦場を覆いつくした気味の悪いプレッシャー。あれは、カルアを乗せた敵の赤いガンダムから発せられていた。
(あれが”ガンダム”ならば、ニュータイプ用の兵器ということか……?連邦はジオンよりも、研究が遅れていると聞いていたが……。)
 ウォルフガングは一人、考える。
 いわゆる”ニュータイプ”と呼ばれる特殊なパイロットの、脳波を増幅させて兵器に転用する。軍部内には、そんなことを本気で研究している部門もあると聞く。現場の兵たちの間では、オカルトじみた噂話とばかにされているが、かつては地球外生命体の存在を、軍が予算を組んで研究していた時代もあるのだ。そうそうばかげた話でもないのかもしれない。実際、ジオンには、エスパーのような兵士についての研究機関があるのだ。まだ宇宙にいた頃、ウォルフガングはその研究員たちを見たことがあった。
「とにかく、一度退がるぞ。」
 ウォルフガングは、部下に号令をかける。今は、得体の知れないエスパーや、その研究機関について考えていても仕方ない。ここは戦場なのだ。
 敵の陸戦隊は阻んだ。空挺奇襲部隊は、陸戦隊ほどの数はいないはずだ。カルアがうまく立ち回っていれば、壊滅できるかもしれない。
(運が向いてきた。)
ここで、敵を退けられれば、宇宙に帰れるのではなかろうか。こんな不潔な地球の大地で、アホのボンボンと一緒に心中はしたくはない。そう言い放ったアイザックの気持ちは、ウォルフガングにだって理解できていた。
「カルアは、幸運の女神かもしれないな。」
 ウォルフガングが呟くと、アイザックは、何言ってんです、と呆れた声で応じる。
『同じ女神でも、混沌の女神の類だ、アレは。後方の戦線なんて、どうなっているか分かったもんじゃないですよ。』
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『助けてください、中尉!』
 森の中に分け入るや、ザクが逃げるようにこちらに駆けてきた。後ろから、ゆっくりと、赤いMSが姿を表し、ザクを後ろから撃ちぬいた。どうやら、拠点に残してきた連中は、こいつにやられたらしい。
 拠点に到達しているはずの敵を、守備に残した戦力と挟撃する算段だった。さらに立体的に攻めるために、ウォルフガングの隊とは、一度別れていた。
「出てきたな、”赤鬼”!」
 アイザックが叫ぶのを聞いて、味方が一斉に散開する。
 闇に溶けるような見事な散開だったが、”赤鬼”は全て見えているかのようにあっという間に3機を撃ちぬいた。
 アイザックは動揺しながらも、とにかく動け、と残った味方に喝を入れた。
 ”赤鬼”は、闇の中に飛び込むと、ぴたりとザクに機体を寄せ、ビームサーベルで切り裂いていく。お前は最後だ、と、言わんばかりに、アイザックの機体には目もくれない。

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(遊んでいやがる——こいつ!)
アイザックは、”赤鬼”に向けてバズーカを放ったが、かすりもしない。

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 ”赤鬼”が、こちらを向く。火器を放たず、推進剤を思い切り噴射させ、組み付いてきた。
『貴様は、腕が立つな。』
 接触回線で通信が入る。ひどく虚ろで、危なげな声だ。
『貴様も、カルアを弄んだヤツの一人か?』
「あぁ!?なんだ、てめえは!?」
 そういえば、カルアはどうなった。こいつにやられたのか。それとも——
『貴様もカルアを、モノのように扱ったのかと聞いているんだ!』
「うるせぇな、そんなこと聞いてどうすんだ!!」
『カルアを傷つけるモノは、全て壊スと言っていル!!!!』
怒り——?こいつは、怒っているのか?呂律が回っていない。
 "赤鬼"が、何か攻撃を仕掛けようと、抑え込んでいた手を離す。その隙をつき、全力で機体を退がらせる。
(カルアと言ったな、アイツら、やはり——!)
どういう繋がりかは分からないが、やはり通じていた。この戦場の異様な混乱も、こいつらが作り出している。
 考える暇も与えず、"赤鬼"は追撃を続ける。
(話が違うぞ、カルア——ここまでやるのか、こいつ……!?)
以前、カルアは、アイザックが望むように、力を出し尽くした戦いができると言っていた。だが、どうだ。”赤鬼”の猛攻撃を、ぎりぎりかわすので精一杯だ。
 気づけば、僚機の反応はことごとくロストしている。
(俺も、もう無理だな……。)

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 稲妻のような軌道を取りながら、なんとか敵の砲撃をかわしていたが、バズーカ砲のナパーム弾に機体を焼かれ、アイザックの意識は途絶えた。
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 拠点まで後退したウォルフガングは、炎に包まれた戦場のその異常さにすぐに気がついた。
 敵はいなかった。ここに来るまでに、敵MSと、それを空輸してきたと思しきカーゴ型航空機の残骸もあった。カルアが、空でうまくやったのだろう。敵を壊滅させたか、退けたらしい。
 だが、味方もいない。
 味方も悉く、その無惨な亡骸を大地に横たえていた。
 不意に、味方の反応を示すアラートが鳴る。
「カルアか——?」
 呟くと、炎の中から、光帯が勢いよくこちらに向かって伸びてきた。
 それが何であるかを理解する間もなく、部下が3機撃破された。

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『おかえりなさい、大尉。』
 通信機に、カルアの声が入った。
 今のは、グレン少佐の"秘策"、ゲルググのビーム兵器だ。カルアが、撃ったのか?
 炎の中からゆらりと現れたゲルググは、ビームライフルを無造作に3発放った。瞬く間に、また3機、火を吹いた。
「貴様!?」
 ウォルフガングはようやく、自分の"お気に入り"が敵に寝返ったことを理解した。残った部下の3機も、ゲルググを囲い込もうと散開する。

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 今度は、背後から、閃光が襲う。
「何っ!?」
 ウォルフガングは、機体を反転させる。赤い機体が、勢いよくこちらに突進してくる。
「貴様ら……っ!」
 2機は、示し合わせて自分を追い詰めている。

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(ここにくるまでの、敵も、味方も、こいつら二人で葬ったと言うのか?あの数を——拠点に残してきた連中も——!?)
 人間業ではない。動機も、経緯も、理解できない。
 先ほどの、アイザックの言葉を思い出す。アイザックの言うとおりだ。カルアは幸運の女神などではない。混沌の化身、いや、この戦場を支配している、混沌と狂気そのものだ。
 部下は全滅している。2機は、ウォルフガングの機体の周囲をぐるぐる回って牽制を続けるが、撃破しようとはしない。
(なぶり殺しにするつもりか……?)
 ウォルフガングは、自身の行く末を思い、全身の血の気が引いていくのを感じた。これまで、物のように扱ってきた相手に、今度は、自分がおもちゃのように痛ぶられている。

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(報いを受けるのか……だが、なんの報いだ?)
 俺よりも、もっと狂った、人間の所業に背いたような、残忍な連中はいたじゃないか。これは、戦争なんだ、と、自分自身に言い訳をする。しかし、何に対しての言い訳だろうか。
 機体に刻んだ狼の紋様が、虚しく輝く。
 ウォルフガングはもはや、闇の戦場を駆ける猛々しい獣などではない。闇夜を這い回る、惨めな敗残兵に過ぎなかった——。

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【#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness / Dec.10.U.C.0079 fin.】









今回のポイントはミヤギさんのドヤ顔です笑































次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

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#38 All you need is ...

あなたに、望むものは——。



なんちゃって笑
今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
次回のお越しも心よりお待ちしております。