【#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness / Dec.10.U.C.0079】

 特務G13MS部隊は、夜襲を得意としている。今回も、真夜中を回ってから出撃して行った。
「夜明け前には作戦は完遂するかな。」
 予備戦力としてパイロット用の控室に待機中の第22遊撃MS部隊所属のヘント・ミューラー少尉は、作戦指示書に目を通しながら、呟いた。
「うまくいけば、マジックアワーを目にできる。」
「何だよそれ。」
 イギー・ドレイク少尉があくびをしながら応じる。
「知らないんですか、イギー少尉。」
 珍しく、”地球文化・文学オタク談義”に、キョウ・ミヤギ少尉が加わる。知らん知らん、とイギーは取り合わない姿勢を見せたが、解説の機会を奪われたミヤギの不満そうな顔が見える。
「……はいはい、聞いてさしあげればいーんでしょ。」
どーぞ、と、イギーが言うのを見ながら、ヘントがくすくすと笑っている。

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では、僭越ながら、とミヤギは口角をあげる。
「日没後や、夜明け前、つまり、太陽が水平線に対して0度から6度までの角度に位置する時間帯で数十分見られる現象のことです。空が幻想的な色に輝いて、それは美しい光景が見られるんです。」
 ウェブ上の知識を丸暗記したみたいなセリフだな、とイギーが茶化す。それは失礼しました、と言って、ミヤギは引き下がった。蘊蓄を披露し終えて、満足したらしい。
「要するに、夕焼け小焼けね。」
 今回は夜明けだがな、と、ヘントが補足する。
「コロニーでも、太陽光の調整をして再現することもありますが、本物は違うでしょうね。」
 再び、ミヤギが会話に加わる。
「地球に降りてきてからは、そういうことに気を向ける余裕はありませんでしたが、そっか、地球なら本物を見られるんだ。」
 ミヤギの瞳が、期待の光を帯びるのを横目に、イギーが話題を変える。
「先に出た部隊の装備や練度、敵との兵力差を見ても、まあ、作戦の失敗ということはまず心配はなかろうが……」
背伸びをしながら続ける。
「お前らがそうやっていちゃつくの、俺はもう構わんが、一応ここは戦場だ。前線に出ていく連中の前では、少し気を遣えよ。」
 珍しく、イギーが真剣な口調で釘を刺す。ミヤギが気まずそうに口をつぐんでしまったので、ヘントが話を引き継ぐ。
「それは、そのとおりだ。後方での任務のせいで感覚が鈍っていたかもな。」
席を立ち、ミヤギの横に立つ。
「ミヤギ少尉もあまり気にするな。これから気を付ければいい。」
「だから、そういうのを言っている。」
「お前の前では構わないと、お前が言った、さっきな。」
イギーの方を振り返ると、にやりと笑う。
「くそ、ホントにやるようになりやがって、プレイボーイが。」
「なんならキスでもしてみせようか?」
ヘントにしては随分と攻めたことを言う。訓戒を述べながらも、2人も、まあ、それなりに順調なのだろうと、イギーは微笑ましく思う。

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「いえ、イギー少尉のご指摘に従いましょう。ここは、気を引き締めます。すみません。」
 いつものように耳まで真っ赤にして慌てるかと思いきや、意外な成り行きに、二人とも目を丸くした。
「……どうした?」
ヘントも少しの落胆と、微かな違和感に、思わず尋ねる。
「あ、いえ。何でもありません、大丈夫です。」
そんな顔しないでください、と慌てて言う。
「そう言うことは、人目のないところで……ね?気をつけましょう?」
小声で囁くのを、イギーは笑いながら、ほら、そういうのだっての、と茶化す。
「でも、ホントに大丈夫なのか?お前、最近顔色悪いぞ。」
イギーも心配しているらしい。
「とにかく、作戦の成功を祈ろう。そうすれば出撃もしなくて済む。然る後に、マジックアワーだ。」
その時は、イギーも付き合うんだ、とヘントは軽く微笑んだ。
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(何だ?先鋒の様子がおかしい……?)
 陸路から進軍中の地球連邦軍MS中隊を率いる、ジェームズ中尉は、戦場の空気が揺らぐようなプレッシャーを感じていた。G13部隊の攻撃は予定どおり始まっているはずだ。遠く前方の地平が、火灯りでほのかに明るくなっているのが見えた。
 だが、なんだろうか。
 言葉にできない不吉な感じが、その火灯りから漂っている。兵士のそういう勘は、当たるものだと、ジェームズ中尉は知っている。

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 突如、暗闇の中から、一つ目の巨人たちが踊り込んだ。
「やはりか!」
敵の陸戦隊の夜襲だ。ジェームズ中尉の隊は応戦するが、敵は闇夜の戦いに慣れている。木々の群れと、闇夜に紛れながら、巧みに攻めてくる。
(だが、火力はこちらが上だ!)
ザクのマシンガンでは、決定的な火力が足りない。こちらはビーム兵器を携行している。
 闇夜の中、機体を走らせながら照準を絞ろうとしたが、横合いから激しい衝撃がジェームズを襲った。

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 闇夜に溶け込むような、暗い青いグフがぶつかってきていた。そいつは、倒れたジェームズの機体のコクピットに、持っていた剣を深々と突き刺した。
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【 To be continued...】