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「いいよ、ジン!すごく良い!」
 ジンが、取り付いたガンペリーの真横まで機体を滑らせると、カルアは、バックパックのビームキャノンを後続のガンペリーに向かって放つ。光の束は、ガンペリーを貫き、炎の塊に変えた。
「ごめんね。」

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言ってから、カルアは機体の左腕のミサイルランチャーを放ち、隣を飛ぶドダイから、ザクを叩き落した。
「使って、ジン!」
 ジンに通信を送る。

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『何言ってんだ、軍曹!?』
ドダイのパイロットが、混乱して叫ぶ。ジンは、その動揺をキャッチしたのか、ドダイをまともに使おうとしなかった。足場代わりに、一度ドダイに着地した後、思い切り蹴って最後のガンペリーに向かう。ジャンプと同時に、足元のドダイをビームライフルで貫いていた。
『カルア、全部壊すぞ!二人で!』
空を駆けながら、ジンが叫ぶ

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(”二人で”——!)
その言葉の響きが、鮮烈に、カルアの胸に響いた。
「いいね、”二人で”……”二人で”——!」
カルアは、その言葉を反芻しながら、ビームライフルで、もう一機、ザクとドダイを撃ち落す。

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 最後に、自分の乗っていたドダイを破壊すると、空中を落下していくレッドウォーリアのところに機体を飛ばした。

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 空中で、二機は手を繋ぎ合う。直通回線で、互いの声がクリアに聞こえた。
「ねえ、ジン。わたし、ずっと、あなたに壊してほしかったの。」
『何を言っている。言ったはずだ。俺は君だけを傷つけない。君以外のすべてを壊す。一緒に壊すぞ、カルア。』
「そう、それ!それなんだ——!」
カルアは、パッと笑顔を咲かせる。
「あなたと、その、"一緒に"っていうの、すごく、気持ちいいよ。」
魂の底が、震えるんだ、と、カルアは熱のこもった声で続けた。
 機体は、ふわりと地上に降り立つ。二人とも、並みの腕ではない。
 地上に降りても、二機は恋人同士のように手を繋ぎ合い、向き合ったまま直立している。
「わたし、ずっと、死にたかった。あなたに、完璧に壊して欲しかった。こんな、意味のない生き方、嫌だった。でも、分かったの、わたし——」
 高鳴る鼓動を、うるさく感じる。カルアは、絞り出すように声を出す。
「わたし、今、もっと生きたいと思っている。あなたと一緒に、もっと、全部、壊したいって——」

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 モニターの向こう、ジンの乗る”赤鬼”、レッドウォーリアの瞳が、キラリと光る。
『もちろんだ、カルア。今、はっきりと分かった。俺は——』
 息を吸い込む音が、通信機からもはっきりと聞こえた。
『俺は、このために生まれてきた。君と一緒に、すべてを壊すために。』
 ジンの声が、気配が、魂が、カルアの心と身体を、幸福で充たしていく。
『君以外何も要らない。二人で壊そう。ジオンも、連邦も、地球も、コロニーも——全部。』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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『なんで……味方が……!?うわぁぁぁ!!』
 カルアのゲルググに追い立てられ、撃破されたザクのパイロットが叫ぶ。
 ジンとカルアは、ジオンの守備する拠点に向かい、破壊の限りを尽くしていた。
 二人には、もう、敵も味方もない。あるのは、ただ、二人と、それ以外という境界だけだ。ジンとカルア以外、全てを、破壊しつくす。
 カルアの情報では、ジオンの拠点にはMSが20機。二人でやるならば、何と言うことのない数だ。
 歪んだ愛を原動力に、二機は戦場を駆ける死の幻影となり、手あたり次第の命を刈り取った。
 二人で壊す。それは良い。だが、その後はどうするのか。
 カルアとの甘美な”恋の熱"に浮かされ、勢いのまま、全てを壊すと決意したものの、ジンは、ふと冷静になる。戦いは、むしろ、思考と勘を研ぎ澄ます。
『大丈夫、”少佐”が何とかしてくれる。』
「”少佐”?」
『赤いザクの。』
 イメージが、伝わる。カルアを保護しようという何者かが、北米からの脱出を手引している。
『”少佐”のところまで行けば、何とかなる。』
 カルアがそう言うのなら、そうなのだろう。"赤いザクの少佐"と言えば、捕虜にしていた時にカルアが言っていた男だろう。そんなヤツの傍に、再びカルアを戻してやることは躊躇われるが、今度は俺がいる。俺が傍にいる限り、くだらないヤツらなどに、カルアに指一本触れさせるつもりはない。
 後顧の憂いが無くなり、ジンは再び、戦いに没頭する。

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 撃ち漏らした敵機が、西に向かって逃げていく。
「何かあるのか?」
『うん、ウォルフガング大尉と、アイザックの隊が、連邦の陸戦隊と戦ってる。』
「そうか、味方と合流する気か。」
と、言うことは、追っていけば、更なる獲物にありつける。
「まだ行けるか?カルア?」
『当たり前だよ。』
通信機から聞こえる声は、楽しそうだ。
「よし、付き合ってくれ、カルア。」
ジンが、戦場にそぐわない、ひどく優しい声で言うと、カルアは、うん、もちろん、と、これもまた、殺し合いの最中とは思えない明るい声で返す。
「それに、ウォルフガング。そいつは俺が殺してやる。そうすれば、君は自由になれる。そうだろう、カルア。」
狼の紋様などを刻んでいると言うが、俺が魂に刻んでいるのはT-レックスだ。獣としての、格の違いを見せつけてやる。
 ジンと、カルアは、再び歪んだ愛の幻影となり、戦場を駆けた——。

【#36 LOVE PHANTOM / Dec.10.0079 fin.】

































次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

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#37 The mad beauty and the crimson beast of the madness

二人の世界を阻むなら——。


なんちゃって笑

今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
次回のお越しも、心よりお待ちしております。