ふす#interlude Fever

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『遅い!』
 目の前のジムの素早い足捌きに、ついていけない。地球連邦軍MS教導隊で、MSへの転科訓練を受けていたオットー伍長は、対面するジムから繰り出された、シールドの強烈な殴打で、機体を転倒させた。
『射撃だけに気を取られすぎだ。MSは打撃もあることを忘れるな。』
通信機から聞こえる声は、涼しげで心地よいものだが、その口調は鋭い。MSへの転科訓練を担当している、第22遊撃MS部隊のキョウ・ミヤギ少尉は、女だてらに部隊のエースで、その模擬線は激しく、厳しいものだった。
(美人の教官で運が良かった思ったんだけどなあ……)
オットーは、機体の転倒のために殴打した二の腕をさすり、機体から降りる。
「オットー伍長、青天井を食らったことを気に病んでいるようですが、その必要はありません。敵の攻撃の連続性を意識すれば、おそらくあのダメージは防げます。次に生かしてください。そのための訓練です。」
 訓練後、ミヤギ少尉から一人一人に講評がある。冷静だが、模擬戦のときとは違い、優しい響きに感じる。
 しかし、美人だ。
 茶色がかった黒髪の下に、透き通るような白い肌。そこに、琥珀色の美しい瞳と薄紅の唇が印象的だ。肌の白さは、もはや、青白くすら感じる。
「よろしいですか、オットー伍長。」

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 涼し気な声にはっと我に返ると、琥珀色の瞳と、バチッと視線がぶつかる。オットーは、思わず赤面して目を逸らした。まあ、やはり、今日は幸運だったかもしれないと、オットーは思うことにした。
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「相変わら激しいねえ、”シングルモルトの戦乙女(ヴァルキュリア)”は。」
 士官食堂での食事中、楽しそうに話すイギー・ドレイク少尉に、ミヤギはなんですかそれ、とあきれ顔で応じる。
「知らないんですか?ここに来て早々広がってます。ミヤギ少尉の通り名だ。」
 ガンタンク隊”ライオンズ”のパイロット、スコット・ヤング軍曹が説明する。

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「それは知っていますが、どうして皆がその呼び方を知っているのかと思いまして。」 
あれは確か、サラサール攻めの時に”ロレンス”に呼ばれたのが初めてだった気がする。あれは個人通話だったと記憶していた。その"ロレンス"は戦いの後MIA扱いだから、皆が知っているのには違和感があった。
「まあ、実は、シングルモルト作戦以来、俺らみんなでそう呼んでたんですよね。」
 スコットが楽しそうに言う。つまり、"ロレンス"発信のアイディアではなかったということだ。
「……そういうの、思春期の男児みたいで恥ずかしいので、控えていただきたいんですけどね。」
 ため息をつきながら、ミヤギはドリアをひと口頬張った。
「MSに乗って戦争してる奴らなんて、みんなガキのまま大きくなったような連中だよ。"赤い彗星"だの、"白い悪魔"だの、敵も味方もアホみたいな二つ名付けあってるじゃないか。」
言ってから、俺ならなんだ、と、イギーは"ライオンズ"の面々に話を振る。
「いいと思うがな。シングルモルトという、単一にして質の高い存在、ワルキューレという戦場での猛々しさと神秘性、そして美しさ。君の様相をよく表した、示唆に富んだネーミングだ。」
ヘント・ミューラー少尉が真面目な顔で会話に加わる。ミヤギの通り名に、"地球文学・文化オタク"の血が騒いだらしい。

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「シ、シングルモルトは作戦のことで、そういう意味ではないでしょう!?ていうか、人前でそういうこと言うのやめてください、は、恥ずかしいじゃないですか!」
「そうだ。イチャつくのは見えないとこでやれ。知ってるんだぞ、お前ら、ハンガーでよく……」
「イギー・ドレイク!それ以上言ったら怒りますよ!」
「いや、それはお前らが悪いだろ!あんな、人目のあるようなところで……」
「ちょっと、ヘント少尉も何か言ってください!」
 パイロットたちもゲラゲラと笑い、囃し立てる。

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「ところでさ、ジン・サナダだっけ?」
 お盆のような巨大な皿に乗っていた、特盛のプレートを平らげ、ぐいと水を一杯飲み干すと、イギーが言った。
「……彼が、どうかしましたか?」
不機嫌そうな声でミヤギが応じる。その声を聞きヘントは、かつての自分の、ジン・サナダに対する情けない嫉妬心の表明を思い出し、ミヤギから顔を逸らした。
「あいつさ、ヘントに似てないか?」
「……似ていませんよ。少尉はあんなに快活に話しません。」
ミヤギがきっぱりと切り捨てる。
「そうか?」
「なんで、そう思ったんです?」
 そうだなあ、と、イギーは首を捻った後、ああ、と声をあげる。
「お前、口説かれたことあるだろ?女の好みは人間性の一致を表す。」
また下世話な話を、と、ミヤギはため息をついた。
「ありませんよ。イギー少尉と違って、彼は思慮深く、気遣いもできる。軽挙妄動には走りません。」
「やっぱりそれ、ヘント少尉じゃないですか。」
スコットが楽しそうに横槍を入れる。
「……いや、でも、違います。」
「あいつの方が快活だって言うなら、上位互換だな。おい、取られないように気をつけろよ。」
イギーが茶化すが、ヘントは動じる様子もない。
「そんなことは心配していない。」
だが、と、言葉を続ける。
「彼は、たぶん、ミヤギ少尉に似ている。」
 ミヤギも含めて、一同、不思議そうな顔をした。
「人間性は分からないが、彼のガンダムとデータを共有した。彼の操縦の、大胆だが繊細な機動が、ミヤギ少尉によく似ていると思った。」
「教導大隊で一緒でしたし、地球に降りる前もルナ2で一緒でした。技術研究は当然一緒にしたことがあるので、そのせいでしょう。」
もちろん、それもある、とヘントは応えながら続ける。
「2人ともニュータイプだ。直感的に、敵を捉える戦い方をする。」
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「疲れているんじゃないか?」
 食事を終え、ミヤギをコンパートメントまで送る道すがら、ヘントは尋ねる。最近、ミヤギの顔色が青白いことがよくあるのだ。
「大丈夫です。中東にいた頃よりは、今の任務はずっと楽ですよ。」
機体が変わったので、慣れないせいでしょうか、と笑って応える。

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「キャノンが、少し恋しくはあります。」
「機体に、愛着はある方か。」
「ありますよ、そりゃあ。OSの設定から付き合って、自分の癖に合わせて調整して……そういうの、愛しいと思いませんか?」
あまり、考えたことはなかった。こういう、彼女の感性も、知るたび惹かれていく。
「さっきは、すまなかったね。みんなの前で、配慮が足りなかった。」
「え?」
「シングルモルトの話。」
ああ、と、ミヤギははにかんだ表情を浮かべる。
「いいんです。嬉しくもありましたから。」
ふわりとした笑顔を見て、そうか、と、ヘントは思わず頬を赤らめる。いつもの、"逆襲"にやられる。
 ふと、自動販売機が目に入る。コーヒーを2本買い、少し掛けよう、と提案する。
「ジン・サナダのこと。」
 缶コーヒーに口をつけると、ミヤギが口を開いた。
「あんな風にからかわれても、動じないんですね。」
楽しそうな口調だ。

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「まあ、そうだな。」
「かっこよかったですよ。」
「……今日も得意のストレートは健在だな。」
愉快そうにヘントの顔を眺めた後、ミヤギはジン・サナダについて話し始める。
「彼は、たしかに、優しく思慮深い人間でした。わたしたち同期にも、よく気遣ってくれたのを覚えています。」
「好い青年だろうなというのは、わたしも分かったよ。会った時にな。」
缶コーヒーを飲み干すと、2人は立ち上がり、再び歩き出した。
「でも、なんというか……違うんですよね。正直、ジン・サナダは苦手でした。うまく言えませんが……なんでしょうか、深海とか、真空のような、そういう暗さと言うか、恐ろしさを、不意に感じるんです。それこそ、模擬戦では容赦のない戦い方をする人で。」
彼女が他人に対して、それも気心が知れているらしい同期の仲間に対して、そういう感情を抱くことが、ヘントには心底意外だった。
「だから、彼の人当たりの良さが、かえって気味が悪いな、と。でも、あなたの優しさは、こう……」
少し、躊躇いながら続ける。
「こう、心に触れると言うか、包んでくれる、というか……」
そこまで言って、すみません、恥ずかしいことを、と言葉を切った。
「今さらだろう。散々言ったよ、"恥ずかしいこと"は。」
「で、でも、なんか、これは……恥ずかしかったんです、ホントに。」
 彼女の、そういう機微が、まだ、よく分からない。だが、これから知っていけばいいと思う。

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「ヘント少尉。」
 コンパートメントの前まで来ると、ミヤギがそっと身体を寄せ、軍服の裾を掴んできた。
「少尉、これからも……わたしの傍にいてくださいますか?」
青白い顔で見上げてくる。
 2人の関係が変わってから、ミヤギの表情や言動はだいぶ打ち解けたものになったと感じてはいたが、こんなにもあからさまな態度と言葉は初めてだった。ヘントは、わずかに動揺した。
「どうした?」
思わず、問い返してしまった。
「……いえ、わたしは……。」
何かを言いたそうに見えた。
「すみません、みんなに冷やかされたもので、少し……浸ってしまいました。」
笑って、身体を離そうとする。ヘントは細い手首をそっと握って引き止める。
「何があった?」
「……いえ、何も。」
 初めて嘘をつかれていると、直感する。
「すみません、準備ができたら、きちんと、お話しします。」
真剣な顔つきだった。彼女がそう言うなら、待つしかないと、ヘントは思った。
 ヘントは、ミヤギの手首から手を離すと、そのままその手を細い腰に回し、ぐっと抱き寄せ、そっと唇を重ねた。

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「……今度は、誰も、見ていませんよね?」
唇を離すと、ミヤギが呟く。
「別に、それでも構わない、俺は。」
言って、ヘントはもう一度、そっと口接けた。

「おやすみ、キョウ・ミヤギ。やはり疲れているようだ、ゆっくり休んでくれ。」
 ヘントの、柔らかく響く声と、心に触れるような感覚を確かめると、ミヤギは、こぼれ出る笑みを噛み殺しながら自室に入った。

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 今夜は、よく眠れそうだ。

【#interrude Fever fin.】

 

 

 

 

 ジン・サナダのまわりが殺伐としているので、22部隊の、というか、ミヤギさんの甘々エピソードが書けると気持ちが落ち着きます笑

 そして、イラスト、最後の2枚はAIに直してもらいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

#31 Demon slayer


狙うは、鬼の首——。

なんちゃってー笑


今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
次回のお越しもお待ちしております。


GUNSTAからの方はこちらからもどれます。