
イギー・ドレイク少尉は、サラサール基地の手前で、打って出てきた敵のMS隊を相手に、大太刀回りを演じていた。開けた地形でも、イギーのジムストライカーは、ウェラブルアーマーの性能を遺憾なく発揮し、ビームスピアで文字通り敵を斬り捨てながら進撃した。
「例の砂に潜るやつとは、やり合えなかったな。」
ある程度、戦線も落ち着いてくると、ふと、そんなことを思った。
『ヘント少尉と、ミヤギ曹長の隊が攻撃予定地点に合流していません。もしかすると、そいつらの襲撃を受けているのかもしれませんね。』
2番機の軍曹が言うのを聞いて、ふと、心配になった。ミヤギのガンキャノンは、ここまでの戦いで十分目立つ戦いをした。敵も一つの具体的な目標として捉えるだろうことは予想できた。砂に潜れる連中は、恐らく敵のエース部隊だ。であれば、ミヤギの元に差し向けられることはあり得る。
(おまけに、ヘントは色ボケ気味だ。判断を鈍らせなけりゃあいいんだがな。)
とにかく、イギーは今目の前の戦場に集中するしかない。
『敵に、2機ほど手強いのがいます。増援の要請です。』
僚機から、更に通信が入る。イギーは、一度ヘントたちのことを思考の片隅に追いやると、伝えられた座標への転進を隊に命じた。
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マイロ・アンダーソン伍長は、アビゲイル・エイジャー少尉の指揮下、サラサール基地の防衛に回っていた。ハリソン少佐や、アーサー大尉が自分を連れて行かなかったことに不満を抱いたが、2人が戻る場所を死守しようと思うことにした。前方から迫ってくる連邦の戦車隊を蹴散らしていく。
『坊や、あまり前に出すぎるな!』
アビーことアビゲイル少尉が、いつものデザートタイプではないザクで、前線の指揮をしながら、マイロを気遣って通信を寄越す。一応、左肩は赤く染まっている。子ども扱いを、とマイロは半ば腹を立てた。自分の方が、操縦技術が上だ。
「こいつらを一掃してここを守らないと、大尉と少佐が戻ってこれんでしょうが!」
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「生意気な!」
アビーは、二人とも戻らないことを知っている。たぶん、マイロもそうだ。だが、そうやって自分を奮い立たせないと、こうして戦場に立つ意味が分からなくなってしまう。それは、分かる。
戦車隊の後方から、巨大な人影が迫ってくるのが見えた。敵のMS隊が増援で来た。
「まずいな。」
アビーは、突出しているマイロのグフの背中を見て、潮時か、と思った。ハリソンもアーサーも、この若い兵を死なせたくないらしい。戦線の維持が困難になれば、無理にでもこいつを逃がせと、二人それぞれから命令を受けていた。
「退くぞ、伍長!」
マイロに通信を送るが無視して”坊や”は更に前に出た。
「くそ、坊やのお守りかい!」
毒づきながら、アビーもその背中を追った。
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上官のウェーブを無視して、敵に突撃する。バズーカの残弾2発を敵の陣形目掛けて打ち込むと、パッと散開して回避された。敵の練度も上がっている。左手のフィンガーバルカンで弾丸を撒きながら、右手にヒートホークを握る。中央から、指揮官らしき、カスタムタイプの敵機が出て来る。ルトバで見た、ビームの槍を振り回すやつだ。
”槍兵”は、バーニアを噴出させ、こちらに突進してくる。かなりの推力だが、マイロは機体の肩を入れて、こちらからもぶつかっていった。

ビームの刃を避けてぶつかることができた。こちらも相手も、よろよろと体制を崩す。崩したところを、肩に一撃、ヒートホークを叩き込んだ。刃がめり込んだ途端に、敵の装甲が炸裂して、ヒートホークが弾かれた。
「やったか!?」
しかし、爆発などなかったかのように、敵機は平然と槍を振い、マイロのグフの右腕を薙ぎ払った。

『坊や、潮時だ!』
口うるさいウェーブの機体が、横から自分にタックルをかましてきた。そのまま、もう1機のザクに引きずられ、無理やり後退をさせられた。間に入った別のザクが、敵の槍に切り刻まれるのが見えた。
「何でだ!?俺はまだやれる!!アビー!!放せ!!」
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「ルーキーが馴れ馴れしいぞ!」
通信機越し、アビーはマイロを怒鳴りつける。
「少佐や大尉の気持ちを汲んでやれ!お前みたいな若造を死なせたくないんだろうが!」
聞き分けのない弟を叱るような気持ちだ。自分だって、大して年は違わない。いや、大きな目で見れば、ハリソンやアーサーだって、自分たちと同じ若者だ。だが、この大戦の緒戦、大人はみんな死んだ。生き残ったのは、老人と、自分たちのような”若造”ばかりだ。二人は、自分と、この”坊や”とを、せめて生き延びさせようとしている。彼らの開いた道に乗って生きていくことが、たった数年の遅れとは言え"若い"自分たちの責務なのだ。アビーはそう思った。
通信機の向こうから、”坊や”がしゃくりあげる声が聞こえた。
「とにかく、宇宙にあがる。HLVに、F型は仕込んである。」
マイロと、と言うよりも、自分自身を励ますように、アビーは言った。
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「逃がしたか。」
気骨のあるやつだった、とイギーは思った。あの思い切りの良さは、どこか、オデッサで最後に会敵したザクを思い出させた。
進出していたMS隊は掃討したらしい。多分、手ごわかったのは、逃げられたグフと、指揮官らしき赤い肩のザクくらいだったのだろう。おそらく、あと数時間としないうちに、この戦線は落ち着く。あとは何日か掛けて、サラサールを包囲して締め上げるのだろう。
「ヘント少尉とミヤギ曹長はどうした。予定の攻撃地点に合流したのか。」
後から追いついて来たホバートラックに通信を送る。
『いえ、随伴していた中隊のみ到着して、攻撃に参加しています。機数と編成が若干変わっているようですが、どちらも、2番機が指揮を引き継いだそうです。』
「何をやってるんだ、あいつらは。決戦場で駆け落ちか、恋愛脳が。」
『いえ、報告によると、進軍の途中でミヤギ曹長の隊が敵の奇襲を受けたようです。例の、砂にもぐるザクの部隊です。』
ミヤギのキャノンは”シングルモルト”で目立ちすぎた。敵の恨みも買っていたことだろう。敵がそちらに戦力を差し向けるのは、確かに納得できた。
『”血濡れの左腕”も増援で合流したため、2人で防いで、中隊を先に向かわせたようです。』
「あいつ、また撃墜されていないだろうな。」
味方を恐れさせた”血濡れの左腕”。あのグフは、オデッサでヘントのガンダムを撃墜したやつだろうと、イギーは半ば確信していた。
「ここの戦線は落ち着くはずだ。俺たちは一度後退して、ヘント少尉とミヤギ曹長を捜索に行くぞ。」
イギーは中隊に命じる。つい数日前に、こんなことがあったな、とイギーは思った。
「どうせ、どっちかが墜とされて、また砂漠の真ん中でいちゃついてるんだろう。ゆっくり行くぞ。」
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熱砂に伏せる”血濡れの左腕”には構わず、ヘントは黒煙を吹き続けるガンキャノンに駆け寄った。
「"死亡フラグ"って……くだらない、ジンクスって、君が……洒落にもなってない!!」
コクピットハッチは、ひしゃげてもいないし、弾痕もない。頭部右腕が吹き飛ばされてはいるが、機体の胴体は原型を十分に留めている。”いつか見た光景”に、よく似ていることが、ヘントに、一縷の希望を見出させた。
「生きて帰れって言ったのは、君だろう!」
言いながら、ヘントは、ハッチが開ききる前にコクピットから飛び降りる。機体のわき腹にある緊急脱出装置を起動させ、ガンキャノンの上半身を排除すると、コアファイターの代わりに設置されたカセット型のコクピットブロックがむき出しになり、ハッチが開いた。ミヤギが飛び出してくることを期待したが、冷却材が噴き出すばかりで、その気配はない。ヘントは、コクピットの中に飛び込む。ミヤギが、シートにぐったりともたれている。ヘルメットのバイザーが割れ、中に血が散っているように見える。
シートベルトを引きちぎるように外し、肩に抱えてコクピットの外に這い出て、ヘルメットを脱がせる。右の頬に大きな切り傷があり、そこから流れた血が顔の半分を濡らしていた。傷を拭ってやりたいが、清潔な布がない。
「ミヤギ、ミヤギ!キョウ・ミヤギ曹長!返事をしろ!」
ガラス細工を扱うように、慎重に地面に寝かせると、白く、きめ細かな頬を何度も、そっと打つ。
「……少尉?」
ミヤギの瞼がゆっくりと開かれると、琥珀色の美しい瞳が、太陽の光を受けてきらり光った。
ヘントは、思わず声をあげて泣いた。泣きながら、ミヤギの細い体を、きつく抱き締めた。
「少尉、自分は、撃墜の衝撃で、ええと、気絶が……メディカルチェックが、まだで……どうか、もう少し、お静かに……。」
ミヤギは”動揺して”つい事務的なことを口走る
「ばか……!そうじゃないだろう。」
いつもなら、すまない、とでも言ってすぐ離れそうなものだが、ヘントは男泣きに泣いて、離してくれそうもない。ミヤギは、戦況はどうだろうか、と少し気になったが、増援の来る気配もない。きっと友軍がその物量でサラサールを圧倒している頃だろうと想像した。

自分を包み込む、ヘントの体温を、改めて感じる。
「……少尉、少しはわたしのお気持ちを、お分かりいただけたでしょうか。」
うん、うん、と、耳元で返事をするものの、本当に聞いているのかはよく分からない。
自分は、この男を愛しているのだと、ミヤギははっきりと自覚した。
ミヤギは、そっと、彼の背中に手を回した。回収のための救援部隊は、いつ来るだろうか。仮に、敵が逆襲に成功してここに襲来したとしても、このまま彼と共に果てるのなら、悪くはない。
とにかく、もう少しこのままがいいな、と、ミヤギは思った。

U.C.0079、11月26日。
ジオン公国軍サラサール基地の戦力は、実質的に壊滅。同日、アレクサンドリア港付近のジオン公国軍も大敗を喫し、アフリカ戦線は地球連邦軍の優勢で一気に戦線を拡大。そのまま、アフリカ大陸を南下した連邦の戦力は、終戦まで、敵残存勢力の掃討戦を続行した。
サラサール基地は、その後2日間の包囲を継続。大規模な戦闘は起こらないまま、11月28日、地球連邦軍はサラサール基地司令からの全面降伏を受け入れ、ベルベット作戦の完遂を宣言した。
【#24 The end of sand storm / Nov.26.0079 fin.】
AI大先生からは「主人公(ヘントとミヤギ)がどれだけ危険な目に遭っても生き残るのはさすがに都合がよすぎる」とご指摘頂戴しました。わたしもそう思います笑
が、一流の悲劇より、三流のハッピーエンドでいいでしょう、という結論に至りました笑
いいんです!主人公だから!!笑
ちなみに、ヘントが何回も撃ち落とされるのは、WW2で、米軍のパイロットが、堅牢な機体のおかげで助かったこともある、みたいな話を聞いたことがある気がして、参考にしました。ジオンが、ビーム兵器とかない中で頑張ってガンダムタイプを落としても、パイロットは無事な上に、別の機体がまた投入されて……みたいなことは、ままあったんじゃないかな、と、妄想しています。
ともかく、細かいことは置いといても、この度、両名ともリアルに爆発したリア充どもの、今後の動向もお見守りくだされば幸いです笑

次回、
MS戦記異聞シャドウファントム
第2部 最終話
#25 Bloom of youth or MIYAGI’s counterattack -2
熱砂の地に、最後にして最大の攻防が、幕を開ける——。
なんちゃって笑
では、今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
次回のお越しも心よりお待ちしております。

いきていて、よかった