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「ガンダムだと!?」
 二本角に、ツインアイの機体を認め、アーサー・クレイグ大尉は驚愕した。オデッサで対戦したトリコロールの機体ではなく、骸骨のように白く、内臓や骨格をむき出しにしたような外見が、墓場から這い出してきた不死者のような不気味さを感じさせた。
(俺が殺したはずのガンダムが、地獄から帰ってきたと言うのか!?)
いいや、単なる新型の投入だろう。ばかばかしい妄想と自嘲しつつも、蘇った戦場の亡霊という想像を禁じ得ない。
 ガンダムは自陣に踊り込むや、ビームライフルを放ってザクを撃ち抜いては、バッタのようにあちこち飛び回りながら、攪乱する。ザクマシンガンの多少の被弾など、ものともしない。まるで、実在しない影のようだ。実在しない影か、亡霊ならば、当然、攻撃も通用しない。
 ガンダムを避けて散開した友軍に、離れているキャノンタイプの狙撃が文字通り追い討ちをかけるが、アーサー自身は先程の射撃に反応して空中を大きく旋回してしまい、救援に向かえない。
「イアン、正面のキャノンだ!」
アーサーは、ドダイのパイロットに命じる。機体を左右に振らせながら、キャノンタイプに突貫する。まずは、ハリソン少佐の狙いであったキャノンタイプを墜とす。ガンダムの相手はその後だ。
「俺を降ろしたら全速で逃げろ!マイロを頼んだぞ!」
行け!と気合を入れた後、ドダイから飛び降りる。敵が、肩に担いだキャノン砲で応戦してきたが、イアンはうまくかわして離脱していく。イアンのおかげで的を絞れない敵機は、アーサーのグフにも着弾させられない。

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 アーサーは、左腕の35mmガトリングを斉射しながら、一気に敵に詰め寄った。至近弾でも、敵の装甲がガトリングを弾く。やはり、こいつの装甲は”のっぺらぼう”の量産機とは違うらしい。
 肩のキャノン砲の射角をギリギリで避け、敵の左下から潜り込むように接近すると、敵は慌てたようにライフルを捨てた。接近されすぎたと判断したのだろう。ライフルも取りまわせまい。サーベルを振りかざした右腕の手首を、締め上げるように押し込んでくる。パワーもある。

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「連邦の、ニュータイプっ!」
 自機の左腕を押さえつける、敵機の右手を何とか振りほどく。そのまま目の前のキャノンの銃口目掛けてガトリングを打ち込んだ。砲身の中で互いの砲弾が暴発し、激しい爆発が起こった。自機の左腕が拭き飛んだが、キャノンタイプは右肩から頭部に掛けて盛大に火を拭いていた。

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 背後から、プレッシャーを感じた。凄まじい、怒りと悲しみが混じり合ったような感情が、津波のように押し寄せるのをアーサーは感じ、機体を横跳びに退けた。機体の真横を、ビームがかすめていく。ザクを殲滅させたガンダムが、こちらに迫っていた。

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 キャノンにとどめをさそうと振りかざしていたサーベルを下ろし、ガンダムに向き直る。
「どこまでも俺につきまとうか、戦場の亡霊め。いいだろう、悪霊退治だ!」
アーサーは、機体を思い切り前に踏み出した。
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 部下のザクは、敵の”のっぺらぼう”共に殲滅させられた。敵の数も半数以下に減らしたが、部下を屠った”のっぺらぼう”の軍団は、ハリソンと”ロレンス”を置き去りにして先に進み、砂漠の蜃気楼の中に、幻のように消えていった。サラサールの攻撃に加わるのだろう。
「俺とお前の因縁を知ってでもいるのか。随分と粋な連中だな。」

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”ロレンス”、もとい、元部下のトマス中尉との激しい対峙に、肩で息をしながら、ハリソンは通信機に呼び掛けた。
『わたしも貴方も、殺しすぎすぎた。そして、地球を汚しすぎた。我々はここで滅ぶべきだ。』
返答はまったく嚙み合わなかったが、ハリソンには十分納得できるものだった。
「エドも、ついて来てくれた連中はみんな死んだ。悪いな、俺の最期に付き合ってもらうぞ。」
残弾が既に尽きているマシンガンを投げ捨て、ヒートホークを右手に握り直す。相手も同じく、装備はヒートホークだけだ。先ほどまで振り回していた鎖付きのハンマーは、すっかりひしゃげて、機体の傍らに打ち捨てられている。
 悪くない最期だ、とハリソンは思った。惜しむらくは、この俺の雄姿を語り伝える者がいないことだけだ。
『戦争に、英雄などいません、少佐。』
「心を読むな。お前もニュータイプか。」
『長い付き合いです、こんなときに何をお考えかなど、分かります。』
 本当に、悪くない最期だ。人間にとって、自分を分かってもらうことこそが喜びであり、生きる意味だ。自分のような無謀で無茶な指揮官に、あれほど熱くついて来てくれた仲間の存在が、それを証明している。そして、かつて自分の仲間でありながら、今こうして牙を向けるこの男も、自分や仲間たちが気づかないふりをしてきた罪悪感に、ただ一人向き合った、理解者と言えた。

 悪くない。俺は、理解されながら、自ら望んだ戦いの中に死んでゆく。

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「よし、行くか。」
 ニヤリと笑い、かつて、同じ部隊にいたときの模擬戦のときのような気軽さで、トマスに呼び掛ける。

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 砂塵と硝煙に立ち込める砂漠の上は、抜けるような青空だった。その青空の下、鉄のぶつかる鈍く、重い音が響き渡った。



【#23 The last sand storm / Nov.26.0079 fin.】







MS戦記異聞シャドウファントム

#24 The end of sand storm



そして、戦士は——。



なんちゃって笑



今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

次回のお越しも心よりお待ちしております。






























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