
ルトバから戻ったアーサー・クレイグ大尉をなだめるのに、ハリソン・サトー少佐は随分と難儀した。副官のエドガー少尉が、マイロ伍長に命じて、無理やり撤収させたらしい。
ルトバの防衛に残してきた部下は、全滅した。連邦軍の戦力も随分削いだようだが、おそらく敵は失った分以上の戦力を補充してくるだろう。そもそもの国力が違いすぎる。、
「ロイ・グリンウッドでも、そろそろ限界か。」
粘っていたアレクサンドリアも、明日にも陥ちるだろうと報告があった。スエズはとうに抜かれ、陸路からも次々増援が送り込まれている。ここ、サラサールも、トルコから南下してきた戦力に、北側を固められている。ルトバを占拠した戦力が、西と南から合流して、程なく包囲網が完成するというわけだ。明日が、アフリカ戦線におけるXデーになるかもしれない。
「航空戦力がキャリフォルニアに召し上げられるとは、どういうことですか!」
ハリソンの元に、気色ばんだアーサー大尉が駆けこんできた。ルトバから引き上げてくると、サラサールに4機はあるはずだったガウ攻撃空母が、自分が座上してきた1機だけになっていたことに対して言っているのだ。その1機も夜半には北米に発ち、おまけに、ドップの部隊は半数以上が持って行かれていた。
「これではオデッサの二の舞だ!オデッサは制空権を確保しきれずに陥ちたんですよ!?」
「マッドアングラー隊の、シャア・アズナブル大佐からな、例の連邦の新造戦艦、”木馬”と”ガンダム”が、ジャブローに向かったと報告があったらしい。」
ハリソンの返事に、それで、とアーサーは鼻息も荒い。
「追跡中なんだとさ。おそらく、ジャブローの入り口を見つけられるだろうと言っている。北米の戦力を結集して、空襲を行うつもりだ。航空戦力は少しでも欲しいんだろう。」
地球連邦軍の総本部であるジャブロー基地。南米にある、難攻不落の要塞に攻撃を仕掛けるというのだから、ジオンの地上軍にとっては起死回生の作戦だろう。
「マ・クベ司令も宇宙に上がられ、ガルマ大佐もお亡くなりになったというのに、一体どこの誰がそんな大きな作戦の指揮を執ると言うのです。どこの馬の骨とも知れない、シャアとかいう流れ者がやるというのですか。そのために、レバントの我々には死ねと言うのですか!?」
「さあな。」
ハリソンも、アーサーの憤慨はよく分かる。が、ハリソンはそれきり黙って、基地から打ち上げられるHLVの数を確かめていた。

「エドは、打って出たらしいな。最後は、どうだった。」
ハリソンが静かに尋ねると、アーサーははっとした表情を作り、落ち着いて応じる。
「勇敢でした。任された戦力の、倍以上の敵機を落としました。」
「そうか、打って出たんだったな。」
もう一度呟き、腕組みをしながら、基地周辺の地図をじっと見つめる。
「まあ、それしかないか。」
よし、とハリソンは気合の入った声をあげる。
「アビー。」
近くにいたウェーブ(女性士官)を呼ぶと、基地に残ったデザートタイプではないザクの機数を調べるように命じた。
「調べたら、HLVに乗せられるだけ乗せておくように伝えろ。積み込む前に、F型に戻しておくのも忘れるな。」
明確な、撤退の準備だった。オデッサから脱出した友軍は、地上用装備のままHLVで宇宙に上がった。成層圏をようやく抜けたところを、MSですらない戦闘ポッドになぶり殺しにされたと言う。
ハリソンは、基地司令の中佐に直接回線を通すと、”レッドショルダー隊”は遊撃任務に就く旨を伝える。
回線を切り、まあ、基地の中は残った連中で何とかするだろう、と呟くと、先ほどのウェーブに”レッドショルダー隊”を集めるよう命令する。

「”レッドショルダー隊”は、遊撃任務に就く。まだ、包囲網を完成させていない、西と南。打って出て、そこに終結してくる敵戦力に打撃を与える。」
集まった面々に、宣言する。出発は、明日、明朝。
「なんてな、格好つけて言うが、エドたちの仇討ちだ。」
ニヤッと笑って、皆を見渡す。
「ダマスカスでは、お前たちに迷惑を掛けてまで、夜襲を仕掛けてみたがな。そこでみたキャノンタイプのMSが手ごわい。シャアとかいう赤いバカが追いかけている、連邦の”木馬”にいるのと同じやつだ。」
エドをやったのもそいつだろう、と言った後、息を大きく吸い込む。
「とにかく全軍で、全力でキャノンを”殺せ”。仲間の命を奪った奴を、血祭りにあげろ!」
ハンガーに、雄たけびが響く。ここにいる誰もが、明日の戦いにも、この戦争にも、勝ちの目などないことを知っている。だが、燃え滾る血をどこに流すのか、戦いの中に青春を置いてきた彼らには、もはやこれしか残されていないのだった。
レバントの砂は、燃えるように熱い——。
【#21 Overload / Nov.25.0079 fin.】

次回、
MS戦記異聞シャドウファントム
#22 Fury
生き延びることが、できるか——!?
なんちゃって。
では、今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。
次回のお越しも、心よりお待ちしております。

あなたのせいで、ないてばかり。