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【#19 Battle of the sand storm / Nov.23.0079】

 

『速い、こいつら、本当にザクか!?』

『ダメだ、砂に足を取られて……!』

『ガンタンク隊を守れ!拠点の攻撃に必要になるぞ!』

 旅団の前衛を進軍していたMS隊から、混乱を来たす通信が入り続けていた。こちらが予定していた攻撃地点よりも手前で、敵からの奇襲を受けた。空爆が終わるのを待たずに、敵が打って出てきたのだ。

 爆撃に差し向けた戦闘機が、敵の航空隊に数機撃墜された。ドップとマゼラ・トップが巧みに連携して行く手を阻み、攻撃地点に思ったほどの被害を与えられなかった。爆撃はそのまま敢行したが、敵の航空機隊はそのままこちらの前衛まで到達していた。

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『くそ、羽虫如きにいいように!』

 対空装備を持たないイギー・ドレイク少尉は、コクピット内で歯噛みしていた。ヘント・ミューラー少尉とイギー少尉は旅団の中段にいた。空爆と、前衛の砲撃戦を終えた後の、斬り込みを担当する予定だったのだ。

 “ライオンズ“とビッグトレーは後衛にいる。後衛からの砲撃が、頭上に炸裂し、ドップが3機ほど、火を吹いて錐揉み状に落ちていくのが見えた。

「前衛の掩護に上がろう。ガンタンク隊の被害は戦略的にもダメージが大きい。」

『了解。』

返事の後、イギーは付近にいたジムの部隊から、自分とヘントに3機ずつ随伴を命じる。

「乱戦になっていることが予想されるが、おそらく数はこちらの方が多いはずだ。敵機と一対一にならないように、落ち着いて対処しろ。」

随伴する機に命じ、最大戦速で”マスタング”を走らせた。

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 エドガー少尉はアーサー・クレイグ大尉からの助言に従い、各機になるべく派手に動き回らせ、砂塵をまきあげさせながら戦った。敵の前衛の数は、こちらの倍はいるように見えたが、奇襲の混乱で算を乱している。こちらに被害は出ていないようだ。

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「時間だ、各機後退。」

通信を入れると、敵を取り囲んでいた全隊がパッと後退する。

 唸るような轟音をあげて、連邦軍MS隊に大きな影を落としたのは、アーサー大尉が率いてきたガウ攻撃空母だった。ガウと、随伴する2機のドダイから、MS隊に爆撃を行う。連邦軍のお株を奪う、空爆による逆襲である。

「行くぞ、目標は、予定通りMSもどき。」

 静かに告げると、爆炎の中、機体を敵のタンク型MSに殺到させる。アーサー大尉の話では、空爆とこいつの長距離砲撃が、連邦の物量戦の鍵だ。その2つを少しでもここで阻むことができれば、サラサールの助けになるはずだ。

「そろそろ推進剤も限界だ。一撃加えたら退け!」

言いながら、左手にヒートホークをしっかりと握った。

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 ぎりぎり、間に合わなかった。いや、全滅はしていない。間に合ったのか。ヘントが前衛と合流したまさにその瞬間、ガンタンクが1機、2機の敵に囲い込まれてコクピットを叩き潰されていた。

『逃がすか!』

別の機の掩護に向かっていたイギーの叫びが、通信機から聞こえる。敵機はこちらの増援を認めるや、勢いよく後退を始めたのだ。

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 イギーがジムストライカーのバーニアをふかし、飛ぶように敵機を追う。ディーン中尉から聞いた敵のやり方を真似て、2日間の待機中に訓練していたのだ。ジムストライカーは他の機体よりだいぶ重いが、バックパックとふくらはぎに増設されたバーニアのおかげで、かなりの瞬発力と突貫力がある。敵が手本を見せてくれたやり方はうってつけだ。

 簡単に追いついて、一機をビームスピアで貫く。随伴機のジムも、軽さを生かして一気に追いついてきた。訓練通り、孤立はしないし、させないように連携を取れている。生き残っていた前衛の戦力と合流し、イギーの隊が逃げる敵機を追った。

 ヘントの目の前にいた2機は、おのおの散開したものの、こちらに向かってくる気配を見せる。

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「落ち着いて対処しろ。あの戦い方なら推進剤は長く持たないはずだ。」

随伴機に指示を送り、シールドを構える。

「自分が牽制する。ビームの機体はなるべくとどめに回れ。」

4機を背中合わせにして方陣を組み、迫ってくる敵機に備える。ギィーンと引き裂くような爆音が響いた。

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「何だと!?」

 ”あの時”と同じ、上空二方向から、MSを載せた航空機の攻撃だ。航空機から飛び降り、こちらに突進してくる敵機に、ヘントは狼狽した。機種まで同じ、グフだ。それも、2機。

 ヘントは”マスタング”の機体を側方に転がす。MSはこんな動きができるのかという、人間然とした動きだが、無茶苦茶な回転運動に見舞われたコクピットで、ヘントは衝撃に耐えるのに精いっぱいだった。回避が遅れた3機は、たちまち撃破された。

(まずい——!)

敵は4機。多対一どころではない。これでは袋の鼠だ。

 袋叩きに合うかと思いきや、ブルーグレーのグフ1機が”マスタング”に追撃をかけるのみで、他の3機は生き残っているガンタンクに向かった。

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(まずい、まずい——!)

 冷静な判断ができない。

 敵のグフは、左肩とシールドが赤く塗られいる。ディーン中尉が言っていた"血塗れの左腕"というやつだろう。ぐいぐいと押し出してくるような戦い方だが、決して力押しの猪武者ではない。

 敵機のガトリングに被弾しないよう、機体を横に跳躍させながら距離を取る。"マスタング"は後ろにふかせるバーニアがないため、イギーのジムのような機動ができない。また、あの武器にやられるのは勘弁だが、防ぐので手一杯だ。

 背後から、更に1機MSが来る。アラートは、ザクを示している。"血塗れの左腕"は、味方への被弾を考慮してか、ガトリングの斉射をやめた。右手のサーベルをヒートさせると、距離を詰めようと前進してきた。

『かわせ、ガンダム。』

敵のザクから"マスタング"に、印象的な深みのある"好い声"で通信が入る。

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ヘントは、"マスタング"の左腕を思い切り振り、その反動で機体を転回させながら左へ退避した。

 "マスタング"のいたところに、棘のついた巨大な鉄球が、思い切り振り下ろされる。

 自身をめがけて真っ直ぐ飛んできた鉄球を、"血塗れの左腕"は咄嗟にシールドで受けたが、シールドに装備していたガトリングがひしゃげるのが見えた。

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 獅子の紋様が入った、つぎはぎだらけの装甲のザクが、"マスタング"と"血塗れの左腕"の間に割って入る。友軍であるはずのザクから思わぬ攻撃を受けて、グフがたじろいでいるのが分かった。

 敵機の後方から、扁平なMSを乗せる航空機が入ってくる。"血塗れの左腕"は迷わずその航空機に飛び乗り、戦線を離脱して行った。ヘントは思わず、ほっと胸を撫で下ろした。

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「よく生き延びた、少尉。」

 何とかガウに収容させたエドガーに、アーサー大尉はドダイの上から通信を送る。自分とマイロを含めたMS12機の損害は、撃墜3機と言う、奇跡的な少なさだった。

 恩にきます、という返信の後、エドガーはアーサーの介入がなければ、増援にやられていたと改めて感じていた。

『自分たちをルトバで下ろしたら、サラサールへ。予定を遅らせました、申し訳ありません。』

「いや、わたしもルトバで貴官らと共に戦おう。」

大尉!と、たしなめるような、咎めるような声が聞こえた。

「ハリソン少佐の采配通り、戦闘指揮は少尉が執れ。わたしはわたしの判断で遊撃作戦をとる。」

いいなマイロ、と、隣を飛ぶグフに通信を送る。

『分かりました。補給を終えた後、ルトバの拠点は放棄します。再び打って出て、敵の戦力を削ぎましょう。』

 アーサーの戦いぶりは凄まじかった。サンドカラーの敵機は、防御陣形の組み方といい、回避運動の速さといい、おそらく手練れだったはずだ。その手練れが、アーサーのグフの前では、手も足も出なかった。

(心強い。心強くはある、が……。)

エドガーは、敬愛するハリソン少佐の顔を思い浮かべる。

(大尉を真に必要としているのは、少佐のはずだ。)

 自分は、もはや玉砕する覚悟でいる。だが、アーサー・クレイグ大尉は、"ガンダム殺し"の英雄は、なんとしてでもサラサールの決戦の地に送らねばならない。

 エドガーは、強く決心すると、深く呼吸し、瞳を閉じ、思案に耽った。

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「やられたな。」

 旅団を一時集結させ、各隊から報告を受けたラッキー・ブライトマン少佐は渋い顔をした。先発していたガンタンクは、8機のうち5機がやられていた。浮足立った状況で、よく守ったとも言えるが、戦力は明確に低下している。空爆も、敵の妨害のせいで、想定の70%の打撃に留まった。残存している戦力でも、力押しには十分だろうが、砂漠での戦術は敵が一枚以上上手だ。

 ”レバント解放戦線”の協力の成果か、ここまでの進軍は非常にスムーズだっただけに、油断があったことは否めない。

「増援はもちろん来る。だが、合流は待たない。空路から受領したい装備がある。どうしてもルトバは抑えたい。このまま押す。」

 旅団の出発直後に、第4軍もシリアの砂漠を突っ切って、ルトバを目指している。ヘビィフォーク級を旗艦にし、戦車大隊を主戦力に火力で薙ぎ払うように進軍しているという。おそらく、ルトバには第4軍が先に着き、占拠するだろう。

 問題は、先程のMS隊だ。

「ルトバで待ち構えて防衛戦、というタイプではないでしょう。必ずまた打って出ますよ。」

同席している"ロレンス"が言う。

「その牙をあなた方に向けるか、第4軍に向けるか、それは分かりませんが。」

 叩くなら、MSが戦力の主体である、第3軍だろうと、ブライトマンは思った。ジオンならば、ジオンだからこそ、MSの恐ろしさを知っているはずだ。

「具申します。」

 澄んだ声が響く。

「許可する。話せ、キョウ・ミヤギ曹長。」

「はい、今回、敵はガンタンクを重点的にねらって攻撃を仕掛けてきたものと判断いたしました。敵は、ガンタンクがこちらの戦術の要であると理解しているものと思います。」

 確かにそうだろうと、ブライトマンをはじめ、皆が同意する。

 ヘント少尉も続ける。

「曹長の見立ては正しい。だからこそ、自分は今こうして生きています。自分を取り囲んだ敵機は、ガンダムよりもガンタンクの撃破を優先しました。」

「ですのでこちらも、ガンタンクの火力ではなく、汎用MSの機動力を要とした戦術の立て直しを提案します。」

「具体的に述べろ、キョウ・ミヤギ曹長。」

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「はい、自分が先行して、敵を攪乱、掃討します。」

 

【#19 Battle of the sand storm / Nov.23.0079 fin.】

 

 

 

 

 

 

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次回、

MS戦記異聞シャドウファントム

#20 Single malt

 

熱砂に、稲妻がはしる——。

 

 

…………なんちゃって〜笑

 

今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
次回のお越しも、心よりお待ちしております。