【#18 Before the sand storm】
ここ数日ルトバの住民が慌ただしいのは、連邦軍の空爆が始まると言う噂のためだ。ジオンの前衛拠点は街から離れているが、連邦軍から避難の呼び掛けが実際にあった。更に、市民の中に不安を煽り立てている者が混じっている。どうやら、これまで散発的に小さな拠点に仕掛けてきていた現地ゲリラが、連邦軍に本格的に協力しているらしい。
「すまんな、エド。少し粘ってくれよ。増援は必ず送る。」
サラサールへの後退準備を進めるハリソン・サトー少佐は、エドガー少尉に通信を送った。
ルトバの前線基地に、間もなく連邦軍の空爆が始まる。空爆が終われば、戦車隊と、タンク型MSの長距離砲撃を散々浴びせかけらた後に、歩兵、戦車、MSが列を為してなだれ込んでくるのだろう。現在ルトバを守備している、レッドショルダー隊がMS2個中隊の20機。マゼラ・アタックをはじめとする陸上兵器と、ガウ攻撃空母2隻とドップの編隊。迫りくる連邦軍を防ぐには戦力としては申し分ないところだが、トルコから南下してくる連邦軍に対応するサラサール基地からの増援要請に、戦力の半数を引き上げることになった。ガウで運べない機体は陸路を徒歩で撤収させるため、明け方には既に出発していた。
ルトバには、副官のエドガー少尉を残して、1個中隊9機を指揮させることになった。
(あからさまな捨て駒だな。)
ハリソンは心の中で毒づく。
『お気になさらず。少しでも戦力を減らして、サラサールに合流します。適当なところでこの拠点は放棄して構いませんね。』
エドガーは冷静だ。
せめてもの掩護として、ガウ攻撃空母を一隻と、ドダイ、ドップ、マゼラ・アタックで掩護を行わせる。指揮はアーサー・クレイグ大尉に任せた。
「大尉も、くれぐれも無理をするな。ガウの爆弾をばら撒いたらすぐに退け。」
了解、と明瞭な返事を聞いた後、伍長にも無茶をさせるな、と付け加えた。~~~~~~~~~~~~~~~
『紅白の"のっぺらぼう"ではなく、キャノン砲を両肩に担いだ、赤っぽいやつ。あれが手ごわいですね。』
アーサーはガウを離陸させる前に、地上に残るエドガーと最後の打合せをする。
「例の連邦のニュータイプ部隊に、そういう奴がいると聞いたな。そちらからの増援か。ヨーロッパを横断して行ったと聞いていたのだが。」
分かりません、とエドガーは答えたが、しかし、と付け加える。
『随分遠くから空中のドップを撃ち落されました。パイロットの集中力はかなりのものです。』
「遠目の効く狙撃手が、ビーム兵器を使ってくるなら、なるべく砂をまきあげるように戦え。向こうも砂漠の戦いには慣れていないはずだからな、積極的に打ち出して、乱戦に持ち込め。」
『分かりました。まずは、最初の空爆と砲撃を凌ぎましょう。』
エドガーは落ち着いている。
敵がベイルートに上陸したことを掴んだ時点で、空爆に備えて掩体壕を強化させていたらしいが、果たしてどれほどの戦力が持ちこたえられるのか。
「先に上にあがる。可能な限り、連邦の蝿どもは撃ち落しておこう。」
『頼みます。』
エドガーの返事は、いつも短い。
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出撃前の格納庫の中を、”キッド”が慌ただしく動き回っていた。
「何をしている。」
イギー・ドレイク少尉が尋ねる。
「関節の防塵処理を強化してました。ちょっとしたコツがありまして。今のままでも十分ですが、この方がよりスムーズに駆動しますし、砂も入りににくくなります。」
一応、処理されたところを覗いてみたが、イギーには違いがよく分からなかった。
「そうだ、お前の親分に言っとけよ。乱戦にはあんまり顔を出すなって。」
「ああ、ザクだから、ですね。」
「そうだ、間違って撃っちまう。ミヤギ曹長は鷹の目だからな、信じられないくらい遠くからでも撃たれるぞ。」
「伝えておきます。」
しかし、本当に”ロレンス”のザクが出てきたらどうするのか。誤射で撃墜してしまうことは十分にあり得る。
「ゲリラの連中は、あっちはあっちで勝手にやる。気を遣って作戦行動に支障をきたすことのないように、各員心得ろ。」
ラッキー・ブライトマン少佐は”キッド”の存在に構わず、格納庫内の兵に呼び掛けた。
「と、言うことだ。イギー少尉からの伝言と一緒に伝えてほしい。そちらもそう心得よ、とな。」
「はい、はい、勿論です。2号線沿いの露払いはしてあります。もしMSや戦車の進軍があった場合は、ちょっと対応できませんが、現地民の抵抗はないはずです。」
にやりと笑い、それはありがたい、と答えた後、ブライトマンは通信機に怒鳴る。
「爆撃機隊は出たな!?よし、600秒後に出撃!各員配置に付け!」 陸戦用のトレーラーに乗せられて、MS隊が出撃する。傍らを行くビッグトレー級は、陸路を使って東欧から送られてきた増援だ。オデッサでは87戦隊は最前線の戦線よりも後方からの進軍だったため、間近では見ていなかった。改めてみると、その威容に圧倒される。
ビッグトレーの艦上には、ガンキャノンの姿も見えた。キョウ・ミヤギ曹長の"特技"を考えれば、高台からの狙撃は理にかなった配置だ。
ミノフスキー粒子の戦闘濃度散布の指示が出る。深く呼吸をして、周囲の気配を探るように、集中力を高めていくが、特に何かを感じることはない。やはり、自分はニュータイプなどではない、と、ミヤギは改めて感じる。ベイルート上陸のときのような狙撃は、よほど集中しなければ出来はしない。乱戦の中では不可能だろう。
ただ、ヘントとイギーの存在は、何となく感じる。ダマスカスに夜襲があった夜、三人で飲んだことが関係しているかもしれない。
(楽しかったな。)
戦場だというのに、そんなことを考える。
(生き延びれば、また、三人で。)
二人を守ろう。そうだ。それは、戦う意味になる。
ミヤギは、その澄んだ瞳で砂漠の空を見つめた。
全軍にブライトマンから、全速前進の号令が掛かる。トレーラーに乗り切らないMSも、徒歩で続く。
ベルベット作戦、第3軍に当たるMS旅団は、ジオン軍サラサール基地攻略に向けて発進した。
【#18 Before the sand storm / Nov.23.0079 fin.】