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【#interlude Whisky and you, a glance, a lovely night / ”You like whiskey, don’t you?”】

 ヘント・ミューラー少尉と、キョウ・ミヤギ曹長が揃って士官クラブへ出向くと、ヘント少尉の”期待通り”イギー・ドレイク少尉が既に飲んでいた。
「よう、遅かったな。」
イギーは人懐こい犬のような笑顔で二人に手を振る。
「……第2種配備だったんですよ、こんなところで何をしているんですか。」
ミヤギはどこか機嫌の悪そうな声だ。
「何言ってるんだ、もちろん第2種配備中はこんなところにはいなかったよ。警戒が解けたからすぐに来たんだ。律儀なヘント少尉は、親愛なる同期の本官に、必ず筋を通すと思っていたのだよ。」
「なんだよ、その話し方は。」
言いながら、ヘントはイギーの隣の席に腰かけた。ミヤギには、自分を挟んでイギーと反対の席を勧めた後、軍服の襟を崩す。
「見たのか、砂に潜るやつは。」
 座るや、イギーがグイっと肩を寄せる。
「ああ、見たよ。砂に潜るところは見れなかったけれどな。曹長が2機墜とした。1機はパイロットを捕虜にしたよ。」
やるなあ、というイギーの歓声をBGMにして、曹長は何にする、と尋ねる。

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「最初はビール?」
「あ、いえ、ウイスキーを。」
へえ、とイギーもヘントも思わず声をあげた。
「なんだ、曹長も酒呑みか?」
イギーがうきうきしている。酒を好む者は、どうしてこう、強い酒を好む他人に興味を示すのか。ヘントはずっと不思議に思っていたが、何となくその感覚が分かった気がした。
「中東は旧世紀から、世界一のシングルモルトがある土地だからね。ハイボールでいいかな。」
「いえ、最初はロックで。」
「おい、ホントにやるな、曹長!」
イギーが心から嬉しそうに言う。
「最初は、しっかり香りを味わいたいのです。」
「いい心掛けだ。じゃあ、わたしも付き合おうか。同じものを二つ、ロックで。」
 バーテンから、グラスがそっと差し出されると、戻ってきたジャズバンドとシンガーが、ムーディーな曲を奏でだした。ヘントは、イギーとミヤギと、一人ずつグラスをチンと合わせると、グラスの飲み口から麦と樽の鋭く爽やかな香りを吸い込んだ。
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 え、わたしの話を聞きたいって?いや、それは構わないが。なんだ、イギーは別に、もうよく知っている話だろう。静かに飲んでいればいい。
 そうだな、何から話そうか。
 実はわたしの祖父はサイド3の出身でね。昔から、サイド3は地球連邦からの独立の気運高かったらしいが、それにきな臭さを感じてね。亡命してサイド1に移り住んだらしい。それなりに苦労はしたと思うよ。ただ、サイド3の人たちは……地球への関心は高かったんじゃないかな。父も、物心がつくくらいまではサイド3にいたはずだが、地球への憧れは強かった。だから、地球文学とかいう、よく分からない学問を学んでいたよ。大学まで進んだけれど、教師くらいにしかなれなくてね。このご時世だろう、あまり稼ぎはよくなかった。だから、というわけではないが、私はハイスクールを出たらすぐに軍に志願した。少しは稼ぎがいいと思ってね。
 ああ、わたしの話か。そうだな。うん、父の影響だな。地球の文化と言うか、映画や、音楽、文学作品には興味があるよ。ああ、ウイスキーもね。今夜は”ミヤギキョウ”にありつけなかったのは残念だったね。ああ、すまんすまん。
 マスタング?ああ、野生馬の話か。幼いころ、サイド5の”テキサス”でね、見たんだよ。ああ、曹長も、サイド5の出身なのか。勿論、あそこのは野生とは言えない。でも、そこで見て、触れた馬と言う生き物が美しくてね。つややかな毛並みと、流れるたてがみと、首の付け根の、前脚を支えるあの筋肉の力強さがね。
 したたかさ?ああ、そういうことはあまり意識しなかったけれど、そうだね、そういう雰囲気も好きだよ。”オーシャン・オブ・ファイヤー”という、旧世紀の映画、知らないよな。大陸横断馬上レースの話だが、実話が元らしくてね。ああ、こんなに人の気持ちがわかる動物なんだなって、何か、妙に印象に残ってね。感じていることを分かってもらえるって、きっと嬉しいことだろうな、なんて思ったよ。
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「そういえば、曹長は、ニュータイプなのか。」
 ひととおり話すと、ヘントは真面目な顔で尋ねてくる。ミヤギは、ふっと苦笑を浮かべる。
「つまらないことを聞きますね。」
「あ、すまない。」
「いえ、いいんです。確かに、そういう風に言われることは多いですから。」
「じゃあ、今度は、君の話を聞かせてほしいな。」
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 わたしは、特に何の変哲もない家庭に育ちました。両親も、適度に優しく、適度に厳しく、ええ、普通のサラリーマンでした。生まれはサイド5ですが、ルウムの戦でも私たちのいたバンチは無事でした。両親は今も健在です。
 ソフトボールを、ハイスクールまでエースを務めました。そのときから、なんというか、どこにどう投げればいいかは何となく分かってしまうんです。だから、MSの訓練生時代もニュータイプだなんだと、みんなから騒がれました。でも、そういうのじゃないんです。
 サイド5は、ジオンに近いので、アングラでも何でも、ニュータイプに関する話題は、他のサイドよりも入ってきやすかった気がします。ジオン・ダイクン、でしたよね。わたしも、少しではありますが、書籍や何かは読んだこともありますよ。”宇宙に適応した””誤解なく分かり合える人類”というのは、つまり、真空の世界で、音声に頼らずに意思疎通ができる人たちってことですよね。相手のことも、言葉を交わさずに分かってしまえる、みたいなもので、反射神経がいいとか、集中力が高いとか、そういうものではないと理解していました。現にわたしは、皆さんのことはほとんど何も知らないから、こうして言葉を交わしているわけですから。少尉のご理解も、そういうご理解なのではないですか。だから、馬の話の後に、唐突にニュータイプの話題なんて出されたんですよね。
 あれ?ニュータイプの話になってしまいましたね。真面目だなんて、いや……。ええ、わたしはニュータイプとは違うと思います。兵士としては、たぶん、有用な存在なのでしょう。そういうものを見てくれたのか、徴兵も、あちらから来ました。母は、せっかく女の子に生まれたのに、と悲しみましたし、父も心配しました。だから、二人のために生き延びねば、というのはあります。それは、間違いありません。
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「曹長をご両親の元にきちんと返さねばならないな。」
 こんなに饒舌なミヤギは初めて見るので、ヘントは新鮮な思いだった。やはり、この時間を取ったことは正解だった。
「”俺が守ってやる”って言ってやればいいだろう。」
イギーがニヤニヤしながら会話に加わる。
「違うな、俺たちで、だ。」
「違います、そういうのは、お互いにです。」
「照れるなよ。」
「ついでです。イギー少尉のお話もどうぞ。」
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 ついでとはなんだ。まあ、いい。聞いてくれるなら話すよ、俺は。
 俺の親父は連邦の役人だったから、まあ、特別偉い奴だったってわけじゃないよ。でも、地球に住めるくらいの役職ではあったんだな。なんだよ、ボンボンとか言うな。親父も結構苦労したんじゃないかな。だって、じいさんはただの職人だったからな。職人の息子が地球に住めるくらいの地位まで上り詰めたのは、そりゃあ頑張ったんだろうよ。
 じいさんが鉄鋼の職人でね。スペースコロニーを宇宙に浮かべて作っていた頃に、一生懸命働いた人たちの一人だったんだよ。だから、感動するんだよな、コロニーを見ると。あんな、想像もできないくらいバカでかくて、中に人が住んでるような物を、人間の手で作ったんだってな。スペースコロニーが並んで浮かんでいる景色は好きだよ。
 ん?ああ、家族は死んだ。ルウムのときだ。コロニー落としでな。前も言ったが、祖先はどうやらニホンジンらしいが、東南アジアにいたんだよ。想像できるか?コロニー落としって、あのデカいのがドカン!といくだけじゃないんだよ。そりゃあ、地球は地獄だったらしいぜ。ありとあらゆる疫病・災害・環境破壊が吹き荒れまくってな。直撃はしなかったが、親父もお袋も、ばあさんも死んだ。たぶん津波かなんかだ。じいさんはもう少し前に天寿を全うしていたから、自分で作った物に殺される、なんてことがなかったってのは、ちょっとした救いだが、それにしたって、そのせいで自分の家族が死んでるんだ。今頃あの世でみんなに平謝りだろうな。とにかく、あのコロニー落としってのが俺はどうしても許せない。ジオンには容赦する気はないよ。
 え?カミさんかい。ああ、ハイスクールを出てすぐ結婚した。あっちからだよ。まあ、けじめのプロポーズは俺がしたけどな。意外とモテるんだよ、俺は。士官学校でもヘントより俺のほうがモテた。ん?ああ、そうだったな、家族の話か。軍属の合間を縫って、子どもだって作ったよ。二人はみんなが助けてくれたんだろう。ジャブローに疎開してる。あそこなら安全だってな。でもなあ、あそこって、戦災孤児やら軍属の子どもやらがうじゃうじゃいてな、かわいそうなんだよ。まとめて面倒みてやりたくなるよなあ。
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「……。」
 イギーの話を聞いて、ミヤギは黙ってしまった。
「なんだ、どうした。」
「いや、なんというか、申し訳ありませんでした。」
 イギーのような人の前で、両親の話などしたことを、何となく恥じた。そうだった、今は戦時中なのだ。こういう人たちは山ほどいる。
「仕方ないだろう、境遇は各々だ。俺は気にしないし、曹長もご両親を大事にしろ。それとな」
また、いつもの茶化すような顔つきをする。
「自分の子どもはいいぞ、お前らも早く持て。」

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「イギー・ドレイク少尉!どういう意味ですか!」
ミヤギが真っ赤になって声をあげる。赤いのは、酒のせいではない。
「せっかくお優しいところもあると見直したのに、そういう発想は……以前も申し上げましたが旧世紀的な……!」
「別にお前ら"で"とは言ってない。」
確信犯だろう。
「作戦を終えたら、少し休暇をもらえたりしないかな。」
ヘントが呟く。
「なんだ、どうした。」
「いや、オデッサからこっち、戦いぱなしだったからな。お前の子どもにも会いたいじゃないか。」
そうだなあ、会いたいなあ、と天井を見つめて言った後、イギーはふらふらと席を立つ。おそらく小便だろう。
「ミヤギ曹長、グラスが空いている。同じのでいいか?」
「あ、すみません。次は、ハイボールで。」
うん、と微笑み、2人分の注文を取る。
 バックバンドが曲を変えた。ウイスキーは好きかとか、もう少し話をしたいとか、そういう歌詞の歌だ。

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ヘントは、注文した酒を待つミヤギの横顔を、ちらと横目で見た。酒のためか、上気した頬と、いつもより少し濡れて見える瞳が、妙に艶っぽく感じられる。イギーが言う通り、士官学校ではもちろん、ハイスクールでもヘントは女っ気とは無縁だった。こうして女性と酒席を共にすることなどなかったと気づく。
「……なんでしょうか?」
視線を感じたのか、ミヤギがこちらに顔を向けて尋ねる。バチッと目が合い、ヘントは狼狽した。ミヤギがニュータイプなら、思春期の男児のような自分の思考を読まれたのではないかと不安になる。

「いや、歌がな。」
「歌?ああ……」
 ミヤギは、ふっ、と柔らかい微笑を浮かべた。例の歌は、もう少し話さないか、他愛もない話でいいから、と冒頭のフレーズを、何度も繰り返している。
「そうですね。こういう、他愛もないお話を。ああ、そうですよ、ヘント少尉とイギー少尉は士官学校から同期でいらっしゃるのでしょう。その頃のお話を聞かせてください。」

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ミヤギも、こういう風に笑うんだな、と思わせる、可愛らしい笑顔を向けられる。
(俺も、なかなか単純な男らしいな。)
イギーが以前から茶化してくるように、たぶん自分はミヤギに好意を持っているのだろうと、今更ながら自覚する。
「イギーとの話か。ああ、話してもいいな。あいつは、面白いやつなんだよ。」
なるべく平静を装って、話を続ける。
 小便と思ったが、イギーがなかなか戻ってこない。気を利かせたのか、家族に連絡を取りたくなったのか分からないが、店を出たらしい。
 初めは、"期待通り"イギーがいてくれたことはありがたかった。しかし、ここは、イギーの厚意に甘えてみることしよう。
 もう少し、ミヤギとのこの時間を楽しもうと、ヘントは思った。

【#interlude Whisky and you, a glance, a lovely night / ”You like whiskey, don’t you?” fin.】


 ヒロインの絵柄が安定しません。全部別人に見えますが、一応、ぜんぶ同じ人です。
 MSに乗るときは一本結びにしているようですが、それ以外はハーフアップです。


生成AIが解説動画を作ってくれました。