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【#17 Night attack - 2 or MIYAGI’s counterattack / Nov.20.0079】

 

『少佐が行かれることはないでしょう。ここの指揮はどうするのです。』
 嬉々として愛機のザクに乗り込んだ、ハリソン・サトー少佐の通信機に、アーサー・クレイグ大尉のたしなめるような声が届く。
「万が一があれば大尉が引き継げ。みんな聞いたな。」
 基地内のオープン回線を使って、わざと応じると、少佐はザクをガウ攻撃空母の格納庫に進ませた。
「ベイルートでは空からMSが降ってきたというのだろう。どんなものか、俺もちょっとやってみたくてな。」
 ガウの隣では、グフを乗せたドダイも、エンジンをふかしていた。アーサーの部下である、マイロ・アンダーソン伍長と、イアン・リー曹長だ。
「すまんな、大尉。2人も借りるぞ。」

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 出せ、とガウのパイロットに通信を送る。ルトバの前線拠点の滑走路を、ガウの巨体が勢いよく走ると、ふわりと宙に浮く。ドップの編隊と、マイロとイアンの機体がそれに続いた。マゼラ・アタック隊も、既に発信している。
 ハリソン少佐は、ダマスカスに夜襲を仕掛けるのだ——。
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「ルーマニアのは墜とされたって、予備パーツがあるだろう……何?組みあがっているなら早く寄越してくれ。こっちは決着がついちまうぞ。」
 士官用の部屋から、誰かと回線通話をしているブライトマンの声が、微かに聞こえる。ドアが僅かだが開いているのだ。
「ニュータイプの実践データが欲しいんだろう。頼むぞ。」
それだけ言って、通信を切る。
「ヘント・ミューラー少尉、入ります。」
「入れ。」
 日報のために士官室を訪れたヘントに、ブライトマンは尋ねる。
「聞こえたな。」
「申し訳ございません。」
短く謝罪し、MS隊の所在と現状を報告する。
「曹長は、やはり”ニュータイプ”ですか。」
ふと、疑問を口にする。
「ああ、上層部はそう見ている。勘が”冴えすぎる”のさ。常人ではない。」
「ニュータイプとは、そういうものでしょうか。」
「どうかね。俺には専門分野ではないから分からんが、上は曹長のような”スーパーソルジャー”は欲しいだろうな。」
道具としてしか見ていない、とも、憎々しげに付け足す。
「マイナーチェンジしているとは言え、V作戦の核とも言える機体のガンキャノンを回してもらえた。これも、曹長のニュータイプ能力の検証のためだ。」
なるほど、と、ヘントは合点する。兵士を道具として見る趣に、少佐が怒りを露にするのはありがたいことで、それが彼の本音ということもよく分かる。しかし、ヘントとしては、そういうものではないか、と割り切れる気がする。
 先ほどの通信は、おそらく曹長のための新型機の調達の打診だろう。
 87戦隊は、MSの実働・実戦データ収集が目的の部隊だった。22部隊は、ニュータイプの実働・実戦データ収集が目的というわけだ。と、いうことは、部隊で優先して守るべきは、ミヤギ曹長ということになる。
 不意に、回線通話が鳴った。ブライトマンは、わかった、と短く応じると、基地内に第2種配備を命じた。
「”ロレンス”のゲリラ隊から連絡があったらしい。敵がくるぞ。東の砂漠でせき止める。」

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 ヘントが格納庫に着くと、ノーマルスーツに身を包んだミヤギが、既にガンキャノンのハンガーに到着していた。慌てて出てきたのか、結んでいない髪の毛を、何とかヘルメットに押し込もうとしている。
「速いな、曹長。いい動きだ。」
「ありがとうございます。イギー少尉は飲酒されていたので、出撃できません。」
ライオンズのパイロットたちも一緒です、と付け加え、コクピットに滑り込んだ。少佐への報告が終わったら、パイロット達で飲むつもりだった。士官クラブ用に接収したバーで、他の連中はもう始めている中、律儀に上官を待つミヤギの姿が目に浮かんだ。ヘントも、隣に駐機している”マスタング”に乗り込む。
「22部隊、ガンダムとキャノンを出すぞ。」
外部スピーカーで、ハンガー内に呼びかけると、ズシン、と機体を踏み出させる。ゲートを潜って外に出ると、東の空にちかちかと閃光が走るのが見えた。
 ダマスカスの東には、メガ粒子砲を含んだ対空砲が設置され、防衛線が敷かれている。敵の部隊はそこを突破できずにいるのだろう。
『少尉、東の防衛線の位置は分かっているな。』
 ブライトマンから通信が入った。
『航空戦力は、対空砲で防げそうだが、MSも連れてきている。例の砂に潜れるやつだ、ちょっと見てきてくれるか。』
 防衛ラインにもMS隊は配備されている。ブライトマンの口ぶりから、苦戦しているわけではなさそうだ。
 了解、と返事をすると、ミヤギのガンキャノンに直通で通信を送る。
「つまりは、威力偵察だ。曹長、無理はするなよ。」
いつものような歯切れがない、はあ、という声が帰ってくる。別に、先ほどのブライトマンとのやり取りを意識したわけではないが、つい、ミヤギを気遣うようなことを付け加えたのが、怪訝に感じさせたらしい。
「すまない、行くぞ。」
会話の上では、脈絡のない謝罪だが、戦闘が始まっている今、二人とも気にする余裕などない。2機は、東の戦火を目指して駆けだした。
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 ドダイのパイロット、イアンとも、だいぶ息が合ってきたと、マイロは感じる。地上の砲台に向けて、勢いよく降下しながら、バス―カを叩き込んだ。降下中の照準はうまく定まらず、3度試してようやく一つ砲台を潰した。
『やるな、伍長!』
ハリソン少佐から通信が入る。サンドカラーの迷彩と闇夜のせいで、どこにいるのかは確認できない。
 マゼラ・アタック隊が、遠巻きに掩護射撃を行うが、ドップも含めて防衛線のギリギリを掠めては旋回していく。別に防衛線を抜くつもりはないらしい。
(抜いたところで、この戦力で制圧はできないだろうしな。)
その程度は、マイロでも分かる。

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「さて、あと一つか二つくらいは砲台を潰してみるか。」
ハリソンが楽し気な声をあげると同時に、闇の中を4機のザクが弧を描くような軌道で砂上を滑りだした。砲台の手前に突出している2機の敵MSを囲い込むと、あっという間に撃墜した。
「骨がないぞ、連邦軍!」
そのまま目の前の砲台に弾丸を叩き込む。

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 敵機の急接近を知らせるアラートが鳴る。
「MSか、いや……っ!」
複数の熱源反応と共に、目の前のザクが一機爆炎に包まれた。
「ミサイル……!?」
『少佐!』
 部下のエドガー少尉と、ロビン軍曹が、庇うように前に出る。爆炎をかき分け、ブラウンレッドの機体が飛び出すと、ロビンの機体に思い切り拳を叩き込んできた。
「エド、下がるぞ!」
勢いよくバーニアをふかして、後退する。上空をマイロとイアンが掠めていくのも感じる。

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「伍長、無茶はいい!」
サンドカラーの敵機がもう1機出てくるのが見えた。マイロのグフに向けてマシンガンを掃射しているが、イアンがうまくかわして後退する。
「手ごわいのが出てきた、潮時だ!」
一気に距離を取ると、低速で低空に進入してくるガウが見えた。無理やりガウの格納庫に機体を取りつかせる。

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『ビームが!くそっ、尾翼に当たった!』
先ほどの2機が追撃してくるのが分かる。後方から幾筋かのビームが伸びてきた。
「大丈夫だ、一発くらいならガウは沈まん。このまま全力で飛べ!」
パイロットを励ました矢先、ガウの後方を飛んでいたドップが2機、続け様に撃ち落とされる。直掩の役割を果たし、盾になったのだろう。
「舐めてかかりすぎたな、ここまで手酷く逆襲を受けるとはな……全員退け!命あっての物種だぞ!」
敵の防衛線に威嚇をかけて帰ってくるつもりだったが、部下を死なせ、一人を置き去りにしてしまった。

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『少佐、無事ですか。』
ガウに随伴するマイロから通信が入る。おう、と返事をする。
「連邦にも骨のあるやつらがいるな。伍長、あいつらを落とせるか。」
『もちろんです、自分は、オデッサで連邦のMSを見ております。今度こそは墜としてご覧にいれます!』
「その意気だ、伍長。頼むぞ。」
若いな、とハリソンは思う。もう何日としないうちに、今のやつらとやり合うことになるはずだ。オデッサのような物量戦で、押し寄せてくるのは間違いあるまいが、アフリカ戦線はもう逃げ場がない。どうあっても敵を迎え撃たねばならないその時、この若さはきっと武器になる。
「俺も遊びすぎたな。次は気を引き締めてかかろう。各隊、残存戦力と損害を報告しろ。」
ハリソンはオープン通信で皆に呼びかける。その声色には、まだ熱が残っている。
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 敵機が引き上げたことを確認して、ヘントとミヤギはダマスカスに帰投した。途中、防衛線警備のMS隊とすれ違ったが、戦力は先に警戒に当たっていた部隊から倍増していた。
 防衛線を突破して、ダマスカスまで到達した戦力はないようだった。たったあれだけの戦力だ。制圧までは考えていなかったのだろう。
「すまなかったな、ミヤギ曹長。せっかくの非番だったのに。」
「ベルベット作戦が完遂していない以上、敵の襲来は必然です。少尉が謝ることではありません。敵戦力が温存されているところの目先では、飲酒は控えるべきと教訓になりました。」
 生真面目な返答が、ミヤギらしいとヘントは思った。と、同時に、少しからかってやりたいという思いが胸をくすぐる。
「そうか。では、曹長と一杯やるのは、また改めてになるかな。」

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ヘルメットを脱いだミヤギが、目を丸くしている。ヘントの一言は、相当に予想外だったらしい。
「いや、すまない。少しからかってみただけだ。今日はゆっくり休んでくれ。」

 クスリと笑ってそう告げると、ミヤギが口を開いた。
「あ、いえ、その、少尉が、お疲れでなければ、ぜひ。」
たどたどしい言葉に、今度はヘントが目を丸くした。
「少尉と、あ、いや、少尉や、隊の皆とご一緒できるのは、実は少し、楽しみにしておりましたので……。」
「そ、そうか。それじゃあ、深酒にならない程度に。」
意外な展開に、ヘントは動揺した。士官クラブには、イギーたちがまだ残っているといいなと思った。しかし、先程まで第2種配備だったのだ。さすがに今更バーにはおるまい。
(どうすりゃあいいんだ……。)
数分前の、自分にしてはめずらしい悪戯心を表出させたことを、後悔すると共に、どこか胸が躍るような感覚に、ヘントは戸惑っていた。

【#17 Night attack - 2 or MIYAGI’s counterattack / Nov.20.0079 fin.】

 

 ミヤギ曹長のイラスト、2枚で顔が違いますね。