

【#interlude Call sign】
「コールサイン?」
第2種配備を一度解かれ、パイロットに集合を掛けられた道すがら、イギーから突然の提案があったので、ヘントは思わず聞き返した。
「マーヴェリックとか、アイスマン、みたいなやつか。」
「ああ、宇宙から降りてきた連中がやってるだろう。俺らもやろう。」
「今から作戦打合せなのに、緊張感がないんですよ……。」
ミヤギがため息をつく。
「曹長のは決めてある。」
イギーは妙に自信ありげだ。

「嫌な予感がします。」
「なんだと思う?」
イギーがにやにやしながら皆の顔を見回す。
「"ビューティ"ですね、曹長は美人だから。」
ホバートラックから降りてきたマークが会話に加わる。
「モテるだろ、曹長、きれいだもんな。"ベッラ"とかもどうかな?」
「セクシャルハラスメントです、マーク曹長。」
「ダメだよマーク、ヘントがミヤギ曹長に惚れてる。」
「そうなんですか?なんだよ、狙ってたのに!」
「……やめろ、イギー。」
「その発言はコンプライアンスに違反しています。倫理規定に抵触します。この人類の革新を待つべき宇宙世紀という時代に、軍隊とはいえ旧世紀並の感覚しか持たない上官の存在など、時代遅れどころではない、嘆かわしい、醜悪な、憎むべき事実です。最悪です。イギー少尉の厳正な処分を要求します。ヘント少尉もはっきり否定してください。」
「すごい言い様だね。」
「で、肝心のコールサインは?」
ヘントが話題を逸らす。
「"モルト"だ。」
「……モルトって、ウィスキーのですか?」
不思議そうにマークが呟く。
「やっぱり……。」
ミヤギはげっそりとした顔つきでため息をつく。
「知らないか?宮城峡という、旧世紀からあるシングルモルトのジャパニーズ・ウィスキーだ。」
俺の先祖はニホンジンなんだよ、とイギーは続ける。
「曹長の親父は酒呑みか?」
「そのおっしゃり様は失礼です。が、確かに嗜みます。両親にとっては、夫婦揃って楽しめる数少ない道楽ですので。」
「あのお酒はわたしも好きだよ。面白みがないと言う人もいるが、爽やかで歯切れのいい、品のある味わいがある。曹長の人柄のようだと思う。」
妙に真剣な顔つきでヘントが言うと、ミヤギはありがとうございます、と口の中でもごもごと言って、そっぽを向いた。耳まで、赤い。
「そういうことかぁ。」
「そういうことなんだよな。」
マークとイギーは、2人で妙に納得する。

「お前はどうなんだ、イギー。」
「"ボアー"以外ありません。戦い方と言い、デリカシーの無さと言い。」
ヘントの問いに、間髪入れずミヤギが続ける。
「なんでだ。"サムライ"とか"サツマ"とか、"ジゲンリュウ"とかでいいじゃないか。」
「いや、"ボアー"だ。」
「"ボアー"以外ありません。」
「"ボアー"ですね。」
「なんだよ、お前らみんな揃って。なんか"ボアー"て響きがアホみたいなんだよな。」
「いいじゃないですか、少尉はアホです。」
「貴様、俺は上官だぞ!」
「じゃあ、"ワイルド・ボアー"はどうです?」
マークがキラッと目を輝かす。
「ワイルド……いいねぇ。俺っぽいじゃないか。」
「……呼びにくいな。」
「呼びにくいですね……。」
「うるさい!俺のは"ワイルド・ボアー"だ!」

「じゃあ……じゃあ、俺のは?」
マークがウキウキとした声で続ける。
「……お前の、要る?」
「欲しいです。」
「"プレイボーイ"。」
ヘントが即座に反応した。
「えー……。」
「ぴったりですよ、さっきから軽いです。」

「で、ヘントのは……どうする、ミヤギ曹長?」
「なぜ自分に聞くのでありますか。」
皆がうーん、と首を捻る。
「……"ナード"もしくは"ギーク"。」
「失礼です、イギー少尉。」
「そうですよ、失礼です。」
「なんだお前ら、俺の時は散々アホだの猪突猛進だの言ったくせに!」
「コールサインと言うか……」
ヘント本人が口を開く。
「俺のガンダム、"マスタング"という名前にしたいと思ってる。」
見た目がもう、ガンダムじゃないからな、と続ける。
「マスタング……野生馬、ですか。」
「ああ、馬って、好きなんだ。綺麗だろう。それに、顔が、馬っぽい。」
「じゃあ、少尉のコールサインは"マスタング"で決まりですね。」

「……そういえば気になっていたんだが、あの”お花の模様”は一体なんだ?」
イギーが訝しげな声をあげる。
「いいじゃないですか。可愛いですよ。」
ミヤギの声が珍しく弾んでいるように聞こえる。
「部隊章だそうです。ブライトマン少佐が今朝、整備の連中に描かせていましたよ。」
マークだ。
「桜の花だな。花は桜木、人は武士、か。」
ヘントが呟く。
「それって散り際が一番輝くってことだろ?縁起でもないな。」
「イギー少尉はがさつでデリカシーが皆無な割に、そういう読解力はあるんですね。」
ミヤギの呆れた声が続く。
「お前ら、いつまでもなにやってるんだ!」
いつまでも学生じゃないんだぞ、と、ブライトマン少佐がブリーフィングルームの前で声を荒げた。
パイロットの面々は、サッと敬礼してから駆け出した。
戦士たちにも、束の間の青春が——。
【#interlude Call sign fin.】

生成AIが作ってくれた音声解説
