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【#14 Sea  monster / Nov.18.0079】

 

(これが、地球の海か。)
 水陸両用MSズゴックに搭乗し、海中に潜るたび、キース・ロス伍長はえもいわれぬ感動が胸を満たすのを感じる。
 鋼の機体が、ドプン、と水に漬かる瞬間、なぜか懐かしい感じを覚える。スペースノイドは、スペースコロニーという人口の大地で生まれ育つということを、幾世代と重ねている。もうとっくの昔に、自分たちは地球人類とは別の生き物になってしまっている、という感覚があった。あったのだが、この懐かしさは何なのだろう。
 かつて、すべての生物が、この海から発祥したのだ。宇宙の果てに暮らしてなお、その遺伝子に刻まれた記憶を、本能は、捨てきれないのか。
(地球が欲しくなるってのは、きっと理屈じゃないんだな。)
 本大戦の命題は、スペースノイドの自治独立ではなかったか。
 それならば、緒戦におけるルウムでの勝利で、十分果たすことができたはずだ。スペースコロニーの生活は、実のところ市井にとっては不自由が大きいとは言えなかった。むしろ、多様で気まぐれな地球よりも、ずっと清潔で、安定して、過ごしやすい環境だ。自分たちの生活を圧迫していたのは、地球に住む特権階級の敷く、不平等な政策に他ならない。
 ルウムで手を引いていれば、独立権は得られたかもしれない。
 それでも、地球に手をかけずにいられなかった我々の野心は、理屈では割り切れない。
(静かだな。)
 キースの故郷である、宇宙も、静かだった。だがその静けさは、命を拒絶する闇と真空の静けさだった。この海の静けさは違う。全てを覆い尽くし、おし抱くような、そんな静けさだ。
「こんなところで、戦いたくねえなぁ……」
 皆がそう思っているはずなのに、どうしてこうも自分たちは愚かなのか。
 海に潜ると、妙に哲学的になる自分に、キースはばかばかしいとため息をついた。
 そうだ、自分は、これから敵地に向かうのだ。
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「艦の設備を使えば、食事ももう少しまともなものが食べられると思うのですが。」
 表情はいつもとたいして変わらないが、何となく不満が混じった声に聞こえた。ミヤギ曹長が、レーションのカレーが乗ったスプーンの匙をじっと見つめていた。
 第22遊撃MS部隊の面々は、先日攻撃したジオンの軍港に張られたキャンプで、夕食を取っていた。周囲は、上陸作戦の際に自分たちで破壊し尽くしてしまったため、瓦礫の山だ。ミヤギの言うとおり、港に停泊中の空母を使えば、もっとしっかりした食事が摂れる。
「偉い人たちで満員だ、とか?ブライトマン少佐みたいな人ばかりじゃないだろうし。」
マーク曹長も会話に混じる。
 ヘントも、火を入れたまま屈ませたガンダムのコクピットで、レーションのヌードルをすすりながら、2人の会話を聞いていた。アフリカは敵地だ。22部隊も、第2種配備のまま、準警戒態勢を命じられていた。MS2機はいつでも稼働できるようにしておき、あとのパイロットには休養を取らせている。
 ここから内陸に向けて進軍を開始する、という作戦は、ヘントも理解していたが、確かに妙に慌てて戦力を上陸させていた。その上、艦に収容できる戦力や装備も軒並み露天駐機だ。上陸させた全戦力で、一斉に戦線を押し上げるという、作戦内容は理解していたが、それにしても急いているように感じる。

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 轟音と共に、港に接弦していた艦艇から火の手が上がった。海からの奇襲か。
『分かっていたな、こいつを!』
通信機から声が聞こえると同時に、隣のイギーの機体が立ち上がった。反応が速い。ヘントも機体をたち上がらせる。
『キャノンに火は入っている!?』
ミヤギ曹長が、整備兵に掛ける声も、オープンの通信に入る。
「曹長は、キャノンの準備が出来次第合流しろ。ライオンズは、乱戦には加わるな。港を突破してくる敵があれば狙撃しろ。」
了解、と言う複数の声を聞いた後、既に港に向かって駆け出しているイギーの機体の後を追った。

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 港に着くと、既に敵機が上陸していた。水棲生物を思わせる、ずんぐりとしたフォルムの見慣れない機体だ。港の守備についていてたジムが数機、撃破されて黒煙を吐いている。
『思ったとおりだな、軟弱者!』
イギーの悪態は、どうやら"にせガンダム"ことジムに向けたものらしい。

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「掩護だ。」
 ヘントはジムを屠った敵機の"海獣"に。100mmマシンガンを放ちながら突貫する。合流したジムがもう1機、掩護に入る。同じく100mmマシンガンを装備している。
「……堅いっ!」
"海獣"の装甲は意外にも厚く、マシンガンは装甲を軽く抉っただけで、弾かれてしまった。全くの無傷とはいかないようだが、致命傷ではないのは明らかだ。致命傷にするために、機体をさらに前に踏み出させる。
 突出したヘントのガンダムに、"海獣"がずいと詰め寄った。

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『少尉!危険です!』
掩護に入ったジムのパイロットの声に、咄嗟に機体を退ける。機体の真横を、黄色い熱線が走った。
「ビームだと!?」
 ジオンのMSにはビーム兵器を搭載する技術がないと聞いていたはずだ。堅牢な装甲に、ビーム兵器、これではまるで……

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『ヘント、どけっ!』
 イギーのジムが、シールドを構えて突っ込んできた。いつもの体当たりをかますと同時に、ビームスピアを起動させ、敵機を貫いた。
『多対1の言い出しっぺはお前だろう、演習どおりやれ!』
イギーの気合いに、そうだった、と我に帰る。
「すまん、舞い上がっていた。敵の装甲はマシンガンでは貫ききれない。俺が牽制する。とどめはお前だ。」
『了解、いつも通りだな。ビーム、気をつけろ。』

掩護のジムにも意図は伝わったらしい。港を突破しようとする"海獣"を、今度は、2機で囲い込んだ。

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 港に上がってきた"海獣"は4機だった。最後の1機を、遅れてきたミヤギのガンキャノンが、ビームライフルで狙撃した。
『少尉、無事ですか。』
『どっちの少尉だ。』
イギーの軽口に、どちらもです、と特別取り合う様子もなく、ミヤギは事務的に応じた。

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 22部隊を乗せてきた空母は、あちこちから黒煙をあげてはいるが、沈没まではしないようだ。
『よくやってくれた。』
 ブライトマン少佐から通信が入った。陸戦戦力も兵員もあらかた上陸済みで、鑑はほとんど空っぽだったらしく、大した被害はなかった。ジオンの水陸両用MS。ジャブロー攻めを想定して生産が進められているという噂は、確かに聞いていた。その性能の優秀さも、どこからということもなく耳に入っている。指揮系統はその存在を、より正確に把握していたのだろう。
「この奇襲、予見されていたのですか。」
『ある程度はな。ジオンの水陸両用機が強力だという噂があったから、警戒はしていた。しかし、ジャブローと西欧方面への展開が中心と思っていた。アフリカへの増援はもう少しかかると思っていたが、予想より早かった。おまけに、敵機の性能がこちらの予想を上回っていた。』
こちらも、港の守備についていたジムが3機潰された。
『艦を餌にして、新型を釣りあげてやるつもりだったが、何機か海の中から上がって来なかった。』
 旧世紀の艦艇とは言え、あれだけの戦力を輸送できる鑑をおとりにするとは、随分豪気な発想だ。しかし果たして、それに見合う戦果はあったのか。幸い、護衛艦が2隻沈んだだけで、空母に大きな被害はなかった。
『どの道、ここから陸に上がって東進する予定だった。明日からは我が隊は予定通り陸路を進軍する。海の敵は、欧州から下ってくる航空戦力が駆逐してくれるさ。』
然るのち、増援部隊が上陸すると言うが、しばらくは海路を使った補給は期待するな、とも付け加えられた。
『何、制空権はこちらが抑えているようなものだ。この戦いも早めに片がつくさ。』
 ヘントは、ふう、とため息をついた。
『随分雑な作戦だな。不安になるよな。』
イギーが気を遣って通信を送る。
「いや、それもそうだが、敵の装備も強力になってきているからな。」
 東の、既に暗くなった空に目を向ける。果たして、どんな敵が待っているのか。自分は生き残れるのだろうか。
『港の守備任務には第59部隊が就く。第22遊撃隊はE15地点まで前進し休息を取れ。明日は山越えだ。ダマスカスに入るぞ。』
 ブライトマン少佐の指示に、機体をゆっくり歩ませる。発進した際にぶちまけたヌードルが、ノーマルスーツの腹を汚していることに気づいた。
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(連邦のMS、流石に強力だったな。)
 海中に機体を進ませながら、キース・ロス伍長は敵機の姿を思い出していた。独立戦争の開戦後に、慌てて作った後出しの急増品と思っていたが、すでに携行可能な小型のビーム兵器まで持っていた。ジオンは水冷を応用して、ようやくこのズゴックで実用に足るビーム兵器を装備したようなものだというのに、やはり連邦との国力差は恐ろしいと感じた。
『"センゴク"より中隊各機へ。無事の者は応答しろ。』
 戦闘隊長のコールサインだ。
「"クラッシュ"より"センゴク"。こちらは無事です。」
キースが通信に応じると、2名のパイロットからも無事を伝える通信が入った。8機で奇襲を仕掛け、半数の4機を失った。ここまで快進撃を続けてきたジオンのMSパイロットにとっては、想定を遥かに超える被害だった。
『各機、よく戻った。戦力を整え、然る後、奪還作戦を発動する。』
 隊長の声は気力に満ちている。流石であった。
(もう、戦いたくはねえなあ……。)
キースの正直な感想はそうであるが、またこの海に潜れるのなら、出撃という言葉は胸を躍らせる。
「人殺しのためでなくちゃあ、母なる海を堪能できんのか……寒い世の中だね。」
通信機を切って、一人、呟いた。

【#14 Sea  monster / Nov.18.0079 fin.】

 

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 ズゴックって、すごっくいいMSですよね。

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 今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


生成AIの音声解説


 

 こちらにもまとめております。