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【#13 re- / Nov.12.0079】

 

 U.C.0079 11月12日。
 陥落させたばかりのオデッサの基地内を、連邦軍の将兵が慌ただしく走り回っている中、ヘント・ミューラー少尉は、随分と様変わりした自分の愛機を見上げていた。

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「機体はあの損傷だったてのに、パイロットは打撲程度で済んだか。流石のルナチタニウム、いや、ガンダリウム合金だな。」
背後からのラッキー・ブライトマン少佐の声に、ヘントは振り向きざまに敬礼する。
「不甲斐ありません。貴重なガンダムを……結果的にジムも潰して、ビームライフルも喪失しました。」
「気にするな、ああいう奇襲を想定できていなかった。ガンダムやビームライフルの性能にも頼りすぎた。作戦立案段階での、俺のミスだよ。」
仲間のこともだ、と付け加えると、少佐は立ち去っていった。
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「俺は明日から何に乗ればいいんだ?」
 ブリーフィングルームで、不服そうな仏頂面で訴えるのは、イギー・ドレイク少尉だ。
 陸戦型ガンダムは、V作戦のMS製造計画とは別に、急遽先行生産を行なったため、生産ラインと呼べるような製造の下地がない。機体に大きな損傷が出た場合、予備のパーツはほとんど入手できないため、陸戦型ガンダム同士や、互換性のある陸戦型ジムからパーツを取り合う”共喰い整備”が行われる傾向が強い。
 先の戦いで中破したヘントのガンダムは、イギーの乗っていたジムを解体して修理・改修が行われている。ジェネレーター出力など、ほんの僅かだが、総合的な性能差からガンダムを維持すべきと判断されたらしい。
「ガンダムが直ったらお前が乗ればいいよ。」
ヘントの本音である。
「そういうことじゃない。ガンダムはお前の担当。それは決まってるんだよ。」
ヘントに対する不平・不満ではない、と言いたいらしい。
「本隊がジャブローから持って来たっていう新型はどうなんだ。乗ってみたんだろう。」
「”にせガンダム”か。あれはダメだ。」
 イギーが言う”にせガンダム”とは、地球連邦軍の正式な量産型MSである、RGM-79ジムのことだ。まだその存在は公表されておらず、搭載予定の”本物のガンダム”の戦闘データも、完全には組み込まれていない。
「軽すぎるんだよ。何て言うか、スカスカ行き過ぎる。陸戦型のジムみたいな、ズシっとした感じがない。」
ヘントも資料は見た。装甲材はルナチタニウム合金ではなく、チタン系合金となり耐弾性は落ちているらしい。しかし、ヘントらが乗っていた陸戦機よりも、推力・出力も高く、重量も軽い。ビームライフルほどの射程はないものの、ビーム兵器を装備した運用を前提としている。ビームの高火力を生かして、一撃離脱を想定しているのだろうか。いずれにしても、宇宙での運用が前提の機体なのだろう。
 とにかく、格闘戦を好むイギーには物足りないスペックだろうということは、想像にたやすい。
「少尉はガチンコですからね。」
 隣に腰かけていガンタンク隊”ライオンズ”のスコット・ヤング軍曹が口を挟む。ブリーフィングルームには、ガンタンク隊”ライオンズ”のパイロットたちもいる。
「そんな少尉のために、良い機体を取ってきたよ。
室内にブライトマン少佐が入ると、全員が立ち上がり、敬礼をする。
「新型だ。RGM-79FPジム・ストライカー。」
「新型でありますか。まだ公表もされていないような機体に、なんですでにバリエーション機があるんです?」
イギーの疑問ももっともである。
「ヒト・モノ・カネだよ、少尉。連邦の国力を舐めてはいかん。」
何でも、ベテランパイロット用の、近接戦闘に特化した機体らしい。
「たった1ヶ月しか乗っていないのにベテランでありますか。」
イギーの皮肉めいた返答に、ブライトマンはきっぱりと返す。
「あれだけの死線を越えて生き残っている。少尉は十分ベテランと言えるよ。」
「少佐、もうよろしいでしょうか。」
部屋の後方から、女性の声が響いた。

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「よろしい。復命しろ。」
「はっ、キョウ・ミヤギ曹長であります。新たに配備されたガンキャノンのパイロットとして着任しました。」
 ピシッと音がしそうな、きちんとした敬礼をしながら、よくとおる涼やかな声で名乗る女性下士官は、茶色がかった黒い髪に、薄紅のくちびる、そしてハッとするような琥珀色の瞳が印象的だった。
 美人だ。
 ヘントはつい、見入ってしまった。
「何見てる、エロがっぱが。」
茶化すイギーにも、うまく返せない。不覚だった。よろしくお願いします、と、キョウ・ミヤギ曹長は涼やかに言って、ヘントの隣に腰掛けた。ふわりとした香りが、鼻腔をくすぐる。
「87戦隊は解隊となった。本日付で、L3038MS試験隊と統合し、MS中隊として再編されることになった。」
 少佐が宣言する。曰く、第22遊撃MS部隊。現在改修中の陸戦型ガンダムと、"ライオンズ"のガンタンク6機に加え、ジム・ストライカーとガンキャノンを加えた9機3個小隊規模のMS中隊として再編された。このブリーフィングルームにいるのは、そのパイロットたちというわけだ。
「一週間後、北アフリカ方面、レバント地方への攻撃作戦に参加する。」
ブライトマン少佐が、"ベルベット作戦"の概要をパイロット達に伝える。
「我々はレバノンから上陸する戦力の先鋒だ。」
 北アフリカ方面はオデッサ陥落直後から、オデッサを脱出してきたジオンの戦力と、現地に展開している両軍とで混戦状態らしい。しかし、ブライトマン曰く、トルコは間もなく連邦が制圧するだろうとのことだった。第22部隊を含んだ、レバノンから上陸する戦力は、トルコを制圧して南下してくる部隊と共に、中東を制圧するという。
「まずは、"ライオンズ"とキョウ曹長とで、艦上から敵の基地を狙撃する。」
少佐が示す狙撃地点は、沿岸から10kmは離れている。噂によると射程200kmを超えると言われるガンタンクの砲は問題あるまい。しかし……
「キョウ曹長は、この距離からの狙撃を……?」
思わず、ヘントが呟いた。
「ガンキャノンのビームライフルは、最大射程30kmです。」
実際口にはしていないが、その後に、やれます、と聞こえてきそうな、きっぱりとした口調だった。
「30kmって、届いても狙えないだろう。」
イギーがため息混じりに言う。ヘントも以前、10kmのビームライフル狙撃訓練を行なった。届くことと、当てることは別の問題だというイギーの言葉はよく分かる。
「もちろん、絶対、とは言えませんが、やれる、と思います。それに、狙撃対象がMSとは限りません。動かない、大きい、施設に対する破壊ということであれば、何の問題もありません。」
確かに、基地を兼ねた大きな港ならば、それなりの大きさの建造物や設備もあろう。しかし、撃てば当たると言うものでもあるまい。遠方からの砲撃など、当然想定された配置になっているはずだ。だと言うのに、曹長の口調には、適当で楽観的な感じがない。確かに狙撃できると確信している。
「それと。」
鈴を転がすような声とは裏腹な、鋭い口調で続ける。
「キョウ、ではなく、ミヤギとお呼びください。何となく、自分のファーストネームの響きが好きではありませんので。」

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『これは、俺好みだ。文句なしだ。』
 通信機から聞こえるイギーの声は、少年のように弾んでいた。新たに受領したジム・ストライカーが気に入ったらしい。全身にウェラブルアーマーを装備し、敵からの銃撃をものともせず、懐に飛び込む接近戦用の機体だ。
 少佐とのミーティングが終わり、試運転を兼ねたMS隊の連携訓練を行うところだった。
「諸君、聞いてくれ。オデッサの作戦で、MSの戦い方にはジオンに一日の長があると感じた。」
ヘントはオープン回線で、MS隊全体に語り始めた。作戦序盤こそ、ホワイトベースのガンダムの噂や、連邦軍のMSという意外性、そもそもの機体性能差で、ザク程度との格闘ならば圧倒出来た。しかし、最後に戦ったグフ率いる小隊。MS戦を見据えて、連携を取られれば、ガンダムといえどひとたまりもない。
「1対1の格闘は危険だ。できれば敵を孤立させ、2機以上で囲い込みたい。」
『我々は噂のNTではありませんからね。凡人にはそのやり方が正解でしょう。』
最初に応じたのはスコット軍曹だった。
『お得意の物量戦か。まあ、こちらはこちらのやり方でやるのが戦争ってもんだろう。』
イギーの返事も、軽快だ。
 ジオン公国アフリカ方面軍。
 砂漠のジオンは強兵だと言う。今後またあのグフのような敵と渡り合うことになるだろうか。
(一度敵に追われる恐怖を味わった兵士など、宇宙に上がっても大して戦力にならんさ。)
いつかの、少佐の言葉が頭をよぎる。死にはしなかったが、自分は一度撃ち落された。その恐怖が、毒のように身体を巡るのを感じる。

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『少尉、行きましょう。ダミーのドローンを出します。』
 ミヤギ曹長の、澄んだ声に、ハッとする。モニター上に、MS大のダミーバルーンを乗せた大型ドローンが、よろよろと漂い始めたのが見えた。
「了解。予定通り、ミヤギ曹長、スコット軍曹の砲撃で、先頭の1機を分断する。わたしとイギーで前後から挟撃だ。」
 まとわりつく不安を引きはがすように、機体を走らせた。

【#13 re- / Nov.12.0079 fin.】

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 前回から少しだけ時間が戻り、部隊再編のお話です。
 ミヤギ曹長、ずっと登場させたかったのですが、ヘントの曹長を見る目がキモいですね。
 あと、ここでこんな訓練してるくせに、前の話の空挺作戦で、早速イギーとばらばらになっているのは、直後にジム部隊の空襲があるのをわかっていたからです、たぶん。
 ヘントのガンダムは、マスタングという愛称にする予定です。今後、ガンダム呼びのままではわかりにくいので、どこかに命名エピソードを入れたいのです。ちなみに、前回触れましたが、このガンダムはEZ8ではなく、あくまでオデッサで改修されたヘントの陸ガンです。EZ8ぽいのはたまたまです。名前は「陸戦型ガンダム改修型"マスタング"」とでもなるんでしょうか。

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 さて、前回のベルベット作戦の進軍イメージですが、こちらに訂正しました。
 オデッサ編の時もですが、わたしは近藤和久氏の漫画に付いている宇宙世紀年表と、インターネット検索で出てくるおそらく非公式の1年戦争年表を参考に、ストーリーを考えています。その中で「11/26 アフリカ戦線が拡大」という記述があるので、最初はレバント地方をガンガン攻めて、いい具合に押せ押せになってきた26日ころに、サハラ砂漠とかスエズ運河の方にも攻めていった……なんていかがでしょうか!?その頃だと、ホワイト・ディンゴ隊のオーストリアでの作戦なども始まるようなので、連邦もかなり攻勢に出ているのかなあ、などと考えてみました。
 ……が、さらに調べてみると、スエズ西岸からリビア砂漠、エジプトの広い地域には、ロイ・グリンウッドのいる部隊がいるんですね。アレクサンドリアで終戦を迎えたらしいので、第一次攻撃のエジプト上陸地点(アレクサンドリア港をイメージしてます)は、たぶん橋頭堡を確保出来なかったんじゃないでしょうか。 あるいは、アレクサンドリアは取って、取り返されてを繰り返したのかもしれませんね。
 ……と、ここまで書いた後に、オデッサ作戦やベルベット作戦について詳細に記されたHPを発見しました!やっぱりわたしの浅はかな考えとはかなり違いました……一部、急遽書き直しましたが、やっぱり辻褄は合わなそうです。まあ、素人の二次創作だからいいか……と、開き直ることにしました。
 公式設定集など持っているわけではなく、インターネットでさらえる程度の知識で書いているので、今後も間違い・矛盾、アリアリかと思います。ご容赦ください。

 今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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