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【#12 The Velvet campaign / Nov.18.0079】

 

 レバノン、ベイルート港に隣接する宇宙港は、ジオン公国アフリカ方面軍の基地として接収され、軍港化されている。
 その日、洋上管制を担当していたジオン軍のパット中尉は、地中海沖のミノフスキー粒子の濃度が嫌に高いことに気が付いた。敵襲を予感した直後、彼の居る洋上管制塔には鉄の塊が降り注ぎ、次いで、激しい爆発に見舞われた。

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「これが、オデッサを落とした物量か!」
 サム伍長は、ザクのコクピット内で毒づいていた。
 ジオン軍港は洋上からの激しい砲撃にさらされていた。降り注ぐ榴弾の雨あられに、既に自分の隊を指揮する上官の機体は沈んでいた。洋上からの砲撃だが、敵の姿は見えない。海に正対しながらも、自身の機体を何とか守りながら、後退する。同じように後退する僚機が、視界の右前で爆散した。今度はまっすぐの光が射貫いた。
「メガ粒子砲まで……っ!」
砲撃があった洋上の方角は、敵が見えない。いや、水平線に並ぶあの小さな影が火線の源か。針の先ほどに見える瞬きは、どんなに近く見積もっても10km以上は離れているように思える。旧世紀よろしくの艦砲射撃は、ミノフスキー粒子によるレーダー類の無効化で滅びたと思っていた。しかし、場所と距離がわかっている、動かぬ目標に対しては確かに十分成立する。しかもこれだけの規模の施設なら、榴弾をばら撒けば必ずダメージを与えられる。
 考えている間に、今度は左のザクを光線が射貫いた。さっきからこのビームは、MSを狙撃するように飛んでくる。艦砲射撃による無差別な攻撃ならともかく、こんな距離で、MSのような動く目標に対して狙撃などできるものなのか。
「化け物どもがっ!」
叫ぶや、ピタリと砲撃がやんだ。が、安堵の息を漏らす間などはなかった。
 高速で空を横切る影を感じた直後、サムの機体は爆炎に包まれていた。
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 航空機隊に爆撃を命じた後、地球連邦軍のラッキー・ブライトマン少佐は原子力空母の艦橋に設けられた”指揮官席”に腰を降ろす。艦長席には、頑なに座らなかった。
「オデッサの戦いで分かったことは、ジオンの連中は制空権の概念が薄いことだな。」
爆撃隊の去った後の空を眺めて呟く。少し目を落とすと、看板には先程まで沿岸を砲撃していたMS隊が並んでいる。
「あるいは、そこをカバーできるだけの兵員も装備も不足していたのでは?」
マーク・スミス曹長が会話を引き継ぐ。
 そうかもしれない。その点、ガルマ・ザビ大佐が指揮していた北米のジオン勢力圏は、ドップの大編隊を主力として、空の守りを固めていた。親の七光と揶揄される指揮官だったが、案外有能な指揮官だったのかもしれない。
「まあ、死んじまった後はどうでもいいか。
「何です?」
「いや、良い。ヘントとイギーは?」
目の前に広げられている作戦板に目を落とす。
「間もなく、降下予定時刻です。ガンペリーも予定通りの位置にいます。」
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『200秒後、予定降下地点に到達します。』
 ガンペリーのパイロットから、ヘントの”ガンダム”に通信が入る。
『まるであの時のジオンだな。』
イギーからも通信が入る。ずいぶん楽しそうだ。
「あの時の、というよりも、今回の作戦はジオンのやり方そのままだろう。」
 ”ベルベット作戦”。本日、U.C.0079、11月18日をもって発動された本作戦は、レバント地方に展開する、ジオン公国アフリカ方面軍の掃討を目的とした作戦である。ベルベットの作戦名は、ヘントにジオン勢力圏を覆う、巨大な敷布を思わせた。ベルベットの上等な敷布で、臭いものを覆い隠そうという、連邦の欺瞞が見えないでもないが、何よりその作戦構想がそういうイメージを抱かせるのだ。
 トルコには、黒海を渡ってオデッサから、レバノン、エジプトには、ギリシャから地中海を渡って、陸戦戦力による上陸と進軍を行う。
 オデッサに導入された未曾有の戦力は、オデッサ作戦の完遂と同時に即座に南下。アフリカ方面で既に戦闘を始めている。もう一週間ほどが経過しているが、元々アフリカ方面に展開していた連邦軍の戦力も合流し、今やアフリカ参戦はオデッサ作戦も顔負けの鉄火場と化していた。
 上陸予定地点への攻撃は、洋上空母からガンタンク隊が榴弾の砲撃を雨あられと浴びせた後、航空戦力で爆撃を加える。焼け野原になったところを、とどめの陸戦戦力の上陸という、オデッサで容量を得た地球連邦の物量”戦術”である。本作戦はそこに、MSによる空挺作戦を加える。
 MSによる空襲。そのやり方が、”ジオンのやり方そのまま”なのだ。

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『60秒後です。パージは5秒前からコールします。』
「了解。」
スロットルレバーを軽く握り、深く深呼吸する。ガクン、と、大きな衝撃の後、機体が90°回転するのが分かった。ガンペリーが、機体の左右に格納コンテナを展開した。真っ暗だった正面のモニターいっぱいに、雲海が広がる。
『5、4、3、2、1……』

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 再びの衝撃の後、機体が宙に放たれた。ふわりと、不思議な浮遊感のあと、モニターの景色が勢いよく背後に流れ始めた。

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 みるみる、地表が近づく。眼下にザクが数機見える。”あの時”のジオン兵のように、バックパックのスラスターを思い切りふかし、機体を横に滑らせながら、地表にバズーカの弾をばら撒く。
「難しいものだな……っ!」
弾薬を打ち尽くしたバズーカを棄てると、グルンと機体を立て直す。着陸姿勢を整えながら、100mmマシンガンの弾丸もばら撒いて周辺施設を掃射する。ザクにも当たれば儲けものだ。

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 イギーの機体とは少し離れたところに着陸したらしい。互いの姿は目視できない。着陸地点の10m先、立っていたザクと、モニター越しに”目”が合った。
 たった1機か、という、コクピットの中の相手の悪態が、聞こえた気がした。正面に構えたマシンガンの銃口を、こちらに向けている。
 応戦しようと、こちらもマシンガンを構えた瞬間、天から降り注いだ光の矢が、ザクを脳天から溶解させ、爆散させた。

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 天を仰ぐと、見慣れないMSが”降ってくる”のが見えた。

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 連邦軍の量産型MS、ジムである。
 これが”ジオンのやり方”、宇宙からの空挺作戦である。ジオンが地上を制圧する際に取った作戦だ。宇宙艦隊から地上に向けて射出された輸送艇やHLVから、MSが地上の攻撃地点に降下攻撃を行う。
 ベルベット作戦の第1次攻撃は、レバノン・エジプトの海岸線を中心に、ジオンよろしくの降下作戦を仕掛けて制圧する。そうして海、陸、宇宙のあらゆる場所から物量戦を仕掛ける。今ごろはこの先のダマスカスの空港も、宇宙からの空襲を受けて陥落しているだろう。
 海から、陸から、空から、そして宇宙から、砂漠を覆い尽くしていくような作戦の様相が、ヘントの脳裏に先ほどの”ベルベット”のイメージを呼び起こさせる。

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『だいたい終わりかな。うちの"にせガンダム"も結構やるな。』
 イギーがゆっくりと機体を歩ませながら近づいてきた。"にせガンダム"とは、先ほど宇宙から飛来した連邦軍の量産型MSジムである。イギーもオデッサで試運転をしたようだが、「挙動が軽すぎて駄目だ」と文句を言っていた。
「やはりビーム兵器だよ。さっきも助けられた。」
言いながらヘントは、ジムの姿をまじまじと見つめた。シンプルな装甲面は、整備性が高そうではあるが、確かに弱々しく見える。つい先日まで、自分たちが乗っていた陸戦型のガンダムやジムの、質実剛健とした印象とは、明らかに違う。装甲も、ルナチタニウムを用いた陸戦機とは違ったものを使用しているらしく、ガンダムほどの耐弾性はないという。
「俺も、あれに乗っていたら、死んでいたのかもな。」
『何だって?』
「いや、何でもない。海からの戦力が着く前に残敵を掃討するぞ。」
ヘントは機体のマシンガンを構え直した。

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 U.C.0079 11月18日、地球連邦軍はアフリカ方面に展開するジオン公国軍の戦力を掃討すべく、"ベルベット作戦"を発動。北アフリカのレバント地方に、陸・海・空の多方面から進軍を開始した。
 ラッキー・ブライトマン少佐率いる、第22遊撃MS部隊は、本作戦におけるレバノン上陸戦に参戦。ベイルート港付近のジオン軍港に橋頭堡を確保、上陸した。

【#12 The Velvet campaign / Nov.18.0079 fin.】

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 生きていたヘント少尉の機体は、Ez8ではありません、あしからず。あと、イギーの乗機、ジムストライカーらで、この時期まだ配備される時期ではないのは一応理解していますが、イギーの次の乗機はジムストライカーと決めていたので……お目溢しください。

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 あと、空母。コーヒーのおまけで作ったデジラマです。
 ところで、ベルベット作戦。詳細が描かれた物語や情報が見つからなかったので、前章以上に妄想が爆発しております笑地の文で長々と説明した進軍ルートは、上図のようなものを考えておりますが、モロッコとかの方はレバント地方には含まれないようですね。「間違っていたらごめんなさい)ですが、ジオンのアフリカ方面軍で有名な部隊が、エジプトとか、スエズで活躍したような記述などを見つけたため、こんな感じかな、と想像しました。

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しかし、これでは、オデッサ作戦以上の大規模戦闘になってしまうのでは……?と思い、ちょっと変えてみましたが、そちらは次回ご紹介します。

 今回も最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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