(大尉、あとは頼みます。)


 降下中、オスカーは心の中に叫びながら、たった数分前に聞いた、大尉の声を懐かしく思っていた。
 たぶん、自分はここで死ぬのだ。それが、はっきりと分かった。
 敵の火砲も、自分の放った弾も、嫌にゆっくり見えた——。
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 MSを搭載したドダイで取れる、限界の高度で、目標地点に向かう。アーサー・クレイグ大尉の視界の左を、オスカー軍曹のザクを乗せたがドダイが、速度を上げて通過していく。
(死に番は、わたしが。)
アーサーは、出撃前のオスカーとのやり取りを思い出していた。
 索敵の結果から、敵の戦力はMS2機に、戦車が3輌か4輌。例のソナーを積んだ指揮車と歩兵隊もいる、機械化混成隊のようだ。
 MSの足音を聞き分けるソナーに捕まらないよう、ドダイで空から奇襲をかけるが、戦車とガンダムの対空防御能力が気がかりだ。オスカーの言う“死に番”とは、1機で突出して奇襲をかけ、敵の対空砲火を一手に引き受けるということだ。
(ついでに歩兵の蟻どもも蹴散らしましょう。対MS砲をちまちま撃ち込まれるのも癪でしょう。)
敵の攻撃がオスカーに集中している間に、第2撃でアーサーとオスカーでMSを撃破するという算段だ。会敵直後の一撃で、ほとんど片がつくだろう。
("ガンダム"の装甲は、ザクのマシンガンでは貫けないと言います。やはり、大尉、あなたの腕と、グフの性能が無ければ、大将首は取れませんよ。)
 奇襲を仕掛ける予定地点が近づいてくると、前方に辛うじて目視できているオスカーのザクが、高度を下げていくのが見えた。
『では、お先に。』
激戦が続く地上と違い、上空ではミノフスキー粒子の濃度も薄い。通信機越しのオスカーの声も、地上よりもクリアに聞こえる。
「頼む。」
アーサーは短く応じ、自身の機体も徐々に高度を下げて行った。

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 戦車砲だろうか。機体の右を火線が走る。直後、オスカーはドダイの背面を蹴って、空中に飛び出した。

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『軍曹、頼みま……っ!!』
ドダイのパイロットの通信は、緑の光線が走った直後に途絶えた。ビームライフルか。
「すまんっ!」
 オスカーはバーニアを限界までふかし、機体を横に滑らせながら降下する。少しでも、敵機の射線を散らしたい。機体の仕様も、出撃前に可能な限りF型に戻し、バーニアが少しでも効くようにしている。

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 機体を腹這いのようにして、肩に担いだバズーカと、脚部のミサイルポッドの弾薬を、ありったけ地上にばら撒く。地球降下作戦で、地上の連邦軍基地を制圧した時も、同じ手を使った。あの時も、大尉は勇敢だった。
 ガンダムともう1機、見慣れないゴーグルのようなカメラの機体がこちらを見上げ、機銃を構えているのが見えた。
「俺の狙いは、お前らじゃないっ!」
 全てが、奇妙にゆっくりと見えた。
 敵機周辺のビルに着弾した弾薬は、激しい火柱を上げる。広範囲炸裂する弾頭をより抜いてきた。火炎の中に、戦車が少なくとも3輌。ビルからも火だるまになった歩兵が転がり落ちてくる。
 気づくと敵機からの火線が止んでいる。横滑りの空中動作を狙うより、着陸直後を狙うつもりだろう。空中でバズーカを投げ捨て、ミサイルポッドをパージし、着陸姿勢を取る。

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 ズシン、と、機体が地を踏む重々しい衝撃が響いた。
 攻撃体勢を整えようと、ザクマシンガンを構え直した瞬間、オスカーの全身を、熱が包んだ。

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 自分の仕事は済んだことを悟った瞬間、オスカーの意識は、霧散していた。

【#09 "a Soldier" of sorrow / Nov.9.0079 fin.】


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