【#06 The Odessa day / Nov.7.0079】

 U.C.0079 11月7日。レビル将軍から地球東ヨーロッパ方面に進軍中の地球連邦軍全軍に、オデッサ作戦の発動が通達された。
 空を覆い尽くすほどの航空戦力による絨毯爆撃に、鉱山地帯の山間に見える資源採掘基地が次々と焼け野原になっていく。視界を覆い尽くした爆炎の中から、やがて、一つ目の巨人たちが立ち上がる。巨大なマシンガンを構え、遠い地平から群れをなして迫ってくる。

画像

 前衛の戦車部隊と陸戦艇の滑腔砲、メガ粒子砲が火を吹く轟音が聞こえてきた。
『戦車隊は、主力の大隊の左翼に合流。MSは、"我が戦隊の"両翼に展開。砲撃を抜けてきたMSを撃破しろ。』
通信機からブライトマン少佐の指揮が続く。
『MS同士が撃ち合いをしている間は、歩兵隊は戦車隊の後ろにしっかり隠れていろ。諸君の出番はもう少し後だ。無駄に死ぬことはないぞ。』
「少佐も、車輌を後方へ。」
ブライトマン少佐の乗るホバートラックに、ヘントが通信を送る。
『そうしたいのは山々だが、こいつのソナーとセットで地上でのMS運用だ。我が軍には貴重なMS戦力だ、きちんと機能させるぞ。』
「進軍しながらでは、腰を据えてグラウンドソナーを使えません。」
『兵が見えない後方から的確な指示ができるか。』
そういう人だ。言っても聞かないだろう。

画像

 全軍に進軍の指示が入った。87戦隊も戦線を押し上げていく。傍らには、リヴィウから共に進撃を続けてきたL3038”ライオンズ”のガンタンク隊も見える。その数、7機。もともとは9機の3個小隊だったが、先のリヴィウの戦いで2機が大破、中破し、戦線を退いていた。
『10時方向に熱源3。おそらくMSの小隊です。』
マーク曹長からの通信の後、ヘントの左翼後方にいたガンタンク2機が素早く上体を旋回させ、120mmキャノンを見舞う。低反動の砲は、進軍しながらのこういう芸当もできるのだ。続いて、61式戦車も素早く展開して、一斉に砲撃を加えた。

画像

 1個小隊3機のうち2機は、たちまち火を吹いて横転した。

画像

『あとは任せろ!』
なんとか砲撃をかわしてきた1機は、イギーが飛び出し、シールドを構えて思い切り体当たりをかます。青天井のところに100mmマシンガンを叩き込まれ、沈黙した機体に歩兵隊が群がった。
(開けた平野なら、戦車とタンクの滑腔砲が有効に機能するはずです。主力の戦車隊を指揮しているエイガー少尉からもお墨付きですよ。)
 ヘントは、昨日、戦隊の戦車隊長を務めるジョージ・フォッカー准尉が、力強く話した言葉を思い出していた。前方に開けた荒野では、あちこちで十字砲火を浴びたジオンのMSが火を吹いて倒れるのが見えた。
『我が軍の61式戦車もなかなかやるじゃないか。』
「まあ、物量の勝利だろう。」
イギーの感嘆の声にも、ヘントは冷静に返す。
『いいや、気合の違いだ。故郷を焼かれたアースノイドの、怒りの炎を思い知ってもらうさ。』
そうだった。自分と違い、イギーは地球生まれだ。彼の故郷は、直撃こそ受けていないものの、大戦緒戦のコロニー落としの影響で壊滅的な被害を受けている。妻子は難を逃れたものの、両親や祖父母を亡くしているため、ジオンへの恨みが深い。イギーの言う通り、連邦軍にはコロニー落としに対する怒りが強い兵士が多い。対するジオンの兵は、管理された清潔なコロニー内とは違う、過酷な地球の環境に適応できず、厭戦気分が蔓延しつつあるとも聞く。

画像

 前線を押し上げると、次第に乱戦になっていった。
 連邦軍が優勢であることは変わらないが、激しい火戦を潜り抜けてくる敵機が増えてきた。歩兵隊も、対MS用の巨大な砲を引きながら、どんどん前に出てくる。敵の戦線も後退しているように感じられた。
 しかし、ほっとする間もなく、1時方向に、大きな土煙をあげて、迫る影が見えた。

画像

「イギー、あの時のホバーのやつだ!」
夜襲任務で会敵したMS、ドムだ。ホバー移動のために地上ではやたらすばしこい。この平野では会いたくない敵だった。

画像

「ビームライフルでけん制して、右翼に反らす。とどめはお前がやれ!」
『了解!』
イギーのジムが右翼側に大きく駆けだす。同時に、ブライトマン少佐が、歩兵隊と戦車隊を後退させるよう指示を出す。

画像

『掩護します、イギー少尉。』
”ライオンズ”からも砲撃が続く。狙い通り、ドムはイギーの正面に誘いこまれた。

画像

『喰らえ!』
イギーはジムのバーニアをふかすと、機体を跳ね上げた。

画像

膝のスパイクが、ドムのカメラを打ち砕いた。ジムの突進力に、ドム自身の加速が加わり、そのまま頭部を根こそぎ吹き飛ばした。のしかかったジムの重量に、コクピットも潰れてしまった。

画像

 遠く、地平に日が沈んでいく。
 戦闘も徐々に散発的になり、敵も味方も退いていく。
『各隊、状況を報告しろ。今日は、こんなものかな。戦いは長引くかもしれんぞ。』
ブライトマン少佐の通信に、兵は皆深く息をついた。
 オデッサは、まだ陥ちていない――。

【#06 The Odessa day / Nov.7.0079 fin.】


こちらにもまとめております。