【#02 Night attack / Oct.24.0079】


『夜陰に乗じて、か。あまり好きな作戦じゃないな。』

通信機ごしに、イギーの愚痴が聞こえる。

「少し、静かにしていてくれ。」 ビームライフルのスコープには、緑の巨人、ジオンのザクが映っている―――。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

画像

 U.C.0079 10月20日を前後して、地球連邦軍の戦力がワルシャワ近郊に集結しつつあった。地上におけるジオン軍の重要拠点、オデッサの鉱山地帯採掘基地への大反抗作戦「オデッサ作戦」に向けて、戦力を整えているのだ。
 ワルシャワには、連邦軍の野営本部がある。第87対MS戦隊も、この野営本部を拠点とし、MS稼働訓練を行っている。

画像

「やっぱりMSは大きいな。ああやって屈んでも、このあたりの樹木じゃちっとも目眩しにならない。」森林地帯に身を隠すように屈んだガンダムを、少し離れた場所に駐機しているホバートラックから観測している、マーク・スミス曹長は、感嘆の声をあげた。『マーク曹長、準備は?』ガンダムのヘントから通信が入る。「出来てます、じゃあ、ターゲット、上げさせますよ!」
「やっぱりMSは大きいな。ああやって屈んでも、このあたりの樹木じゃちっとも目眩しにならない。」
森林地帯に身を隠すように屈んだガンダムを、少し離れた場所に駐機しているホバートラックから観測している、マーク・スミス曹長は、感嘆の声をあげた。
『マーク曹長、準備は?』
ガンダムのヘントから通信が入る。
「出来てます、じゃあ、ターゲット、上げさせますよ!」

画像

 木立の中に、MS大のダミーバルーンがむくむくと立ち上がる。その距離、訳10km。
「最大望遠で10kmか……」
ガンダムのビームライフルでダミーバルーンに標準を定めながら、ヘントは呟く。
『我々には当てんでくださいよ。』
ホバートラックからの通信には、マークの軽口だ。
「場所も距離も違いすぎる、そこまでポンコツじゃないよ。」
 ビームライフルの、最大望遠での狙撃訓練である。隊に与えられた初めての実戦を伴う作戦行動は、穀倉地帯にある敵拠点への夜襲である。夜闇に紛れて南から敵地に近づき、ガンダムのビームライフルで、敵守備隊のMSを狙撃する。混乱に乗じて、北から迂回した戦車隊と歩兵隊とで、拠点を制圧する。末端の小規模拠点で、軍事的価値は高くないが、一応敵の糧秣基地であるため、多少の打撃は与えられる。何よりMSの稼働データが欲しいのだろう。オデッサディを前に、各地で小規模な小競り合いが頻発していた。
 その、作戦開始前に、こうして何度か狙撃訓練を行っている。
『おー、今日も盛大に外したな。』
イギーが通信機越しに茶化す。訓練におけるヘントの集弾率は、あまり良くなかった。

画像

 夕刻、ワルシャワを発進した。
『命中率は五分五分てとこか?』
「まあ、自分の腕はあまり信用していないかな。」
イギーからの通信に、素直な感想を答える。
『俺はお前の、本番の強さは信用してるけどな。』
イギーとヘントは訓練校の同期だ。MSの操縦技術においては、イギーに軍配が上がるが、作戦行動全般において、ヘントは勝負強さがあった。ここ一番で、集中力や大胆さを発揮する場面を、イギーは何度も見てきた。自分ではなく、ヘントに"ガンダム"が任されているのは、何となく頷ける。
「あまり気張らないさ。どうせビームライフルの実戦データが欲しいだけだ。外してピンチになれば、逃げの一手だよ。」
『ついこの間まで、岩やら樹やらにけっつまいでた、こいつらの脚でか?逃げるよりガチンコでやり合った方が、いいデータも取れる。』
 イギーは近接戦闘を好む。格闘戦をしてみたくてたまらないのだろう。情報では、MSは守備にあたるMSは3機、1個小隊。狙撃でなんか落とせるか。MS戦での勝利が困難ならば、戦車隊と歩兵隊が糧秣を焼いて撤収するための援護に、目的は切り替わる。
 MS1個小隊に対して、こちらは2機。少々分が悪いのは気になっている。連邦の機体は、ザクとは比較にならない性能とパワーがあると言うが、そのことにたいする作戦立案担当者の自信の表れなのか。
『我々の61式戦車も、小隊で連携を取れば十分ザクを撃破できます。』
戦車隊と歩兵隊との分岐点で、戦車隊の隊長、ジョージ・フォッカー准尉に告げられた言葉が、ヘントの気持ちを多少楽にした。

画像

 夜半には作戦配置についた。ヘントのガンダムが、ゆっくりライフルを構え、最大望遠で敵地を探る。

画像

「MSが稼働している……ザクに、グフ。」
サイトスコープ越しに見える基地では、2機のMSが露天駐機されている。モノアイにかすかな光が見える。火は入っているらしい。
『2機だけか?』
イギーの問いには、ホバートラックのマークが答える。
『ソナーの感じも、2機でしょうね。ザクとグフ、間違い無いですよ。』
「まずザクを狙うぞ。グフなら気づかれても、近づいてくるところを狙撃できる。」
『そのときは俺に取っ組み合わせろ。前に出るからな。』
息巻くイギーに、頼んだと告げ、ヘントは照準を絞る。
 歩兵隊と戦車隊は、予定通り展開しているだろうか。

画像

 いや、今は、目の前の任務に集中するだけだ——

画像
画像
画像

『当たった!』
「グフが来る、撃ち落とすぞ……いや、あれは……!?」
『もう1機、稼働していたのか!?すみません、ホバー移動の……新型です!』
照準越しに見える基地に火の手があがる。北側の森からも戦車隊の火線が襲う。うまい具合に展開しているように見える。

画像

「敵機が歩兵隊と戦車隊を見つける前に、こちらに引きつける!イギー、前に出るぞ!」
言うや否や機体を起こす。
『転ぶなよ!』
「歩行訓練は十分やった!そっちのライフル、ばら撒け!火線を見せてこっちに引きつけろ!」
『任せろ!』
 イギーのジムの、100mmマシンガンが火を吹いた。スカートを履いたような、ずんぐりした機体がこちらに気づいて向かってくる。
「速いな……気をつけろ!」
『組み付けば脚も止まる!俺にやらせろ!』
妙にうきうきした声を出しながら、イギーの機体が前に出た後、2体の巨人が激しくぶつかり合うのを、ヘントは見た。

画像

 第87対MS戦隊によるジオン糧秣基地への夜襲は以下の通り戦果をあげた。
 敵MS3機撃墜。ヘント・ミューラー少尉、ガンダムのビームライフルによる狙撃にてザク1機。
 61式戦車小隊とガンダムによる共同撃墜にて、グフ1機。
 イギー・ドレイク少尉、ジムによる格闘戦にて新型MSドム1機。

【#02 Night attack / Oct.24.0079 fin.】


こちらにもまとめております。