日本人とケニア人の走りについて、詳細な考察を行っている論文がありました。

 

以前の投稿でも触れましたが、私自身もアフリカ人ランナーの走りに注目し、その走りを目指すことを目標に少年団の指導を行っていますので、非常に興味を持って読みました。

 

ケニア人長距離選手の生理学的・バイオメカニクス的特徴の究明 ~日本人長距離選手の強化方策を探る~ 榎本靖士

 

冒頭に要約としてこのように書いてあります。

 

『本研究の目的は,ケニア人長距離選手の生理学的およびバイオメカニクス的特徴を日本人選手と比較 して明らかにし,日本人選手に適した持久力および走動作の改善点および改善法を検討し,日本人長距 離選手の強化に役立つ示唆を得ようとするものである.』

 

最後のまとめとして、このように述べられています。

 

『ケニア人選手の特徴はとくに走動作においてキックした脚が後方へ一度送られ,それを大腰筋が強く働いて前方へ勢いよく振り出していると考えられる.これがトレッドミル上で楽に走れることとも関係していると推測できる.そして,これは下腿の軽さの利点よりも技術的な要素が強く影響していると考えられる.ケニア人選手の高い長距離パフォーマンスは,これまで重視されてきた血液成分や LT ばかりで なく,ランニングエコノミーと強く関係しており,これは体格よりも走動作に影響されていると考えられ,日本人選手は走動作のトレーニングを行なうことでその差を埋められる可能性を示唆していると考えられる.』

 

一般的には日本人とアフリカ人の走力の差を、遺伝的な身体的能力の差と簡単に片付けてしまう傾向があります。私自身はこの考えを否定し、フォームに問題点があると以前から考えていました。この論文は、この考えを裏付ける内容だと思っています。

 

フォームの大きな違いは、具体的にはこのように書かれています。

 

『ケニア人選手の走動作では,キック脚における下腿と大腿のスウィング動作は日本人選手とは大きく異な り,さらに離地後に一度大きく後方へ送られる特徴のあることが報告されている(Enomoto ら, 2005).さらに,ケニア人選手は後方へ送った大腿を前方へスウィングするために後方スウィングから前方スウィングに 切り返すところで大きな股関節屈曲トルクを発揮することも指摘している.』

 

下記の動画を、確認していただきたいと思います。明らかにフォームの違いがあることがわかります。

 

※ 【スーパースロー】 福岡国際マラソン2015 トップ集団ランニングフォーム

 

見た目でわかる大きな違いは上体の前傾です。角度の違いがはっきり分かります。これは論文の中でも述べられている大腰筋に深く関わっているのではないかと思います。

 

※もも上げではなく、自然にももが上がる動きをすることが重要です

 

大腰筋は姿勢を制御する筋肉であり、ランニングではももを引き上げる働きをします。黒人男性の大腰筋は日本人や白人に比べ、断面積が大きいことは知られていますが、ケニア人ランナーも日本人ランナーに比べ同様に大きいことが論文の中にも書かれています。

 

理由は推測になってしまいますが、ケニア人の大腰筋が発達しているのは小さいころからの生活環境の影響で、日常生活の中で大腰筋を使う動きを元々身に付けていたのではないでしょうか。この動きができているため、リラックスした効率の良いフォームで、走ることができるのではないかと思います。

 

論文の中で非常に気になる画像がありました。ケニア人と日本人の着地の足の動きです。

 

 

非常にわかりやすいのですが、ケニア人ランナーは地面を押さえるように着地をしています。日本人はキック動作が優先で、地面をしっかりとらえていないことがわかります。

 

理論的に説明することはできても、実際にどうしたらケニア人の走りに近付くことができるのでしょうか。この論文は2010年に発表されたもので、約10年が経つわけですが具体的な方法論については、なかなか見つけることはできません。

 

実際に走っている人間が、自身の体で理論を検証するしか方法はありません。

大きな課題ですが、少年団の子どもたちと一緒にこれからも取り組んでいきます!!