職場で「あいつは発達障害」と決めつけるいじめが…精神科医・香山リカさんの懸念 ≪続きを読む≫
12月9日(日) 8:46 提供:女子SPA!
成人してから発覚する「大人の発達障害」が知られるようになり、自分自身や周囲の人に「発達障害かも」と疑いを持ってしまう人も少なくないようです。
精神科医で「『発達障害』と言いたがる人たち」(SB新書)の著者でもある香山リカさんは、「コミュニケーションの取りづらい相手を発達障害と決めつけることで、思考停止に陥(おちい)っている人もいます」と指摘します。……
◆部下を発達障害と決めつけ、堂々とののしる上司
……Bさんは、穏やかで優しい男性。ただ、あまり社交的ではなく、仕事上でミスも多いことから、いつしか「発達障害ではないか」との噂が広まるように。やがて、周囲の人はBさんを発達障害と決めつけて接するようになってしまいました。
Bさん直属の上司に至っては、ニヤニヤしながら「あいつは発達障害なのに、なんであんな仕事をさせているんだ?」「なんで障害者枠で入ってないの?」などと口汚く罵(ののし)っていたとのこと。……
◆決めつけは思考停止に陥る危険性も
――Bさんのような事例を耳にされたことはありますか?
香山リカさん(以下、香山):産業医としていろいろな事業所に関わっている中で、上司のかたが「部下は発達障害なのではないか」と相談に来ることはありますよ。そこから「発達障害の傾向がある人にはどう接したらいいのか」などと発展するならいいのですが、Bさんのケースだと、勝手に診断名をつけて、「だから話してもわからないんだ」「だから難しい仕事はさせられない」と思考停止になってしまっているので、言葉に逃げているようでよくないと感じます。
――Cさんのように、他人を発達障害と決めつけ接している状況に直面したときはどうしたらいいでしょうか?
香山:「今の時点では専門家でもその診断って難しいらしいよ」「私たちじゃわからないよね」などと言って、安易に決めつけないようにたしなめる。もしくは、「私もそうかも」とか「そういう部長だって落ち着きがないから、ADHDとか言われちゃうんじゃないですか?」などと枠を広げてしまって、発達障害だと決めつけるのは意味がないことだという空気感にしてしまえばいいと思います。
――もし職場に発達障害を疑われるような人がいた場合、どう接するのがいいのでしょうか?
香山:発達障害と決めつけて「ダメだ」「この仕事はやらせない」と思考停止してしまうのではなく、ひとつのタイプとして、接し方や対応を考えていくべきです。例えば、対面でコミュニケーションをとるのが苦手な人でも、メール中心なら上手くいくなど、工夫次第で解決できることはたくさんあります。
得意なこと苦手なことは誰にでもあるのですから、特別扱いをするのではなく、個性を活かす助け合いをしていくことが大切です。いってみれば、プライドの高い上司をみんなで持ち上げて仕事を円滑にするのと同じような感じですよ(笑)。
――このようなことはBさんに限ったことではないようです。
香山:昔は「引っ込み思案」とか「落ち着きがない」とか日常の言葉で済まされていたのに、それに対する診断名があることに気づいたから、みんなそう見えてしまっているという状況だと思うんです。それに、発達障害って、厳密に診断すればものすごくたくさんの人が当てはまるので、自分もそうかもしれないんですよ。まずはそのあたりを自覚して、そうかどうかもわからない人を勝手に決めつけるのは意味のないことだと気づいてほしいと思います。
例えばこの先、発達障害が血液型や出身地くらいカジュアルになって、「あなたってADHDタイプじゃない?」「いや私アスペルガーだよ」みたいに、「どこ出身?」くらいのレベルで話せるようになるのなら、それはそれでいいと思うのですが、現状は、「障害だ」「私はそうじゃない」みたいな、ある種のレッテル貼りとして使っている側面がとても強いようなので、それはとても問題だと感じています。
◆発達障害は現在の“トレンド”。あまりとらわれすぎないで
――この数年で発達障害に注目が集まっていることも原因なのでしょうか?
香山:そうでしょうね。うつ病とかサイコパスとか、その時々でトレンドがあるし、注目されると、バイアスがかかってみんながそう見えてしまうんです。以前、サイコパスに関する本が売れたときに、身近な人のちょっとした言動がサイコパスっぽく見えて「あの人も絶対そうだ!」みたいなことがありましたが、今はそれが発達障害なんだと思います。
発達障害を知らない人に理解してもらうことは大切ですが、昨今はメディアが全精力をかけてキャンペーンをやり過ぎているような気もして、そこまでやらなきゃいけないのかな? って感じています。
――あまり発達障害にとらわれすぎない方がいいのですね。
香山:今、小学生の6.5パーセントは発達障害(※平成24年 文部科学省の調査より)という数字もあるようですが、学習障害で文字が読めないとか、自閉症スペクトラムでまったく言葉が出ないとか、厳密なプログラムで支援が必要なケースはそんなに多くはなくて、ほとんどは、その子に合った指導や接し方を工夫するだけで乗り越えられる程度なのではないでしょうか。それは別に病気の有無に関係なく必要なことですよね。
大人であっても、会社も行けないほどなら就労支援のグループなどにご案内しますが、働けている人であればそこまで重症ではないはず。入社試験も入学試験も切り抜けてきているわけですからね。そういう人に今から診断をつけるというのは、あまり意味がないと思いますね。
――では、働けている大人で診断が必要になるのはどのような場合なのでしょうか?
香山:困りごとのレベルが明らかに仕事に支障をきたすほどだとか、どこをどう工夫していいかわからないとか、そういう場合かと思います。ただ、これは医療の場の問題なのですが、大人の発達障害できちんと診断をつけられる医者はすごく少ないし、定評のある医者はものすごく混んでいて、半年や1年待ちの状態なんです。比較的すぐみてもらえる医者は、実はきちんと診断をつけているわけではなく、なんとなくの印象で言っていることがほとんどなんです。
――診断が必要なタイプとそうでないタイプなどはあるのでしょうか?
香山:私たちが診断するのは、その診断を持っていたほうが配慮してもらえるなど、本人に得がありそうなときです。発達障害と診断しても、ADHD以外は薬がないので、治療につながるわけではありませんから。私などは、通常発達との境界と思われる例には、「医学的にいえばそういう診断はつけられるかもね。でもだからといって、こうすれば治るという問題ではないから、自分のひとつのクセみたいなものとして知っておけば、何かするときに少し工夫できるかもしれないよね」などとお伝えすることもありますよ。
――診断されたことで、「だから仕方がない」となってしまう恐れもありますもんね。
香山:病名をつけることで思考停止に陥ってしまっては、誰にとっても得がありませんからね。典型例でない場合は、個性のひとつとして、医療ではなく現実の世界で工夫してもらえたらと思います。これまで、単純に「ちょっとだらしない」とか「口下手」とか、「ちょっと偏屈な人」とかって、日常の言葉で説明してきたじゃないですか。その程度に受け止めてもらえたらと思いますね。
人は、わけがわからないことに対して、不安を感じます。
だから、ステレオタイプ化して、これはこうだから、と決めつけと、楽なのでしょう。
でも、お医者様でさえ診断が難しいというのに、素人判断で勝手に白黒はっきりつけるのは、危険ですよね。
そして、香山先生が指摘されているように、「病名をつけることで思考停止に陥って」しまうと、改善の余地もなくなります。
とりあえずは、ひとつの個性と受け止め、工夫次第で何とかできないものか、と試行錯誤するのが一番。
面倒な事実と向き合う真摯さが大切だと思います。
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