事情があって、この一週間ほどは映画を観ることができませんでしたが、一昨日になってようやく一本鑑賞。

多くのミュージカルを生み出した作詞家のロレンツ・ハート(ミッキー・ルーニー)の伝記映画「ワーズ&ミュージック」(1948)です。日本ではなかなかDVD化されず2年ほど前にアメリカから輸入して鑑賞したのですが、当然ながら日本語字幕はついておらず理解するのに四苦八苦。

何度も同じところを再生して聞き直し、7~8割は理解できたものの、やはり消化不良感は否めませんでした。そうしたところ今年の1月にようやく日本でDVDが発売。これも即行で購入です。

しかし手元にあると安心してしまうのが私の悪い癖。購入してから鑑賞するまでに2ヶ月かかりました。これは積読じゃなくて何というのでしょうか。積観?(笑)


1948年 アメリカ
監督:ノーマン・タウログ
出演:ミッキー・ルーニー、トム・ドレイク、ジャネット・リー、アン・サザーン、ベティ・ギャレット、ジーン・ケリー、ジューン・アリスン、リナ・ホーン、ヴェラ=エレン、ジュディ・ガーランド、シド・チャリシー、ペリー・コモ、メル・トーメ

ワーズ&ミュージック


この映画は、作詞家のロレンツ・ハート(ミッキー・ルーニー)と長年コンビを組んだ作曲家のリチャード・ロジャース(トム・ドレイク)がハートの生涯を語るという形でストーリーが進行します。

ロレンツ・ハート・・・1895.5.2~1943.11.22
リチャード・ロジャース・・・1902.6.28~1979.12.30


ハートとロジャースの出会いに始まり、ふたりがコンビを組んでから多くのミュージカル作品を発表し、成功を収め、そしてハートが48歳の若さで亡くなるまでが描かれます。

この映画を観る限り、ハートは両極端の性格を併せ持っているように見えます。ものすごく明るく、今でいうところのチャラい側面があるかと思えば、ものすごく寂しい表情を見せることもあります。この寂しがり屋の性格がハートをしてアルコールへと向かわせたのかもしれません。


女性に関してはふたりは対照的な人生を送ります。ロジャースがドロシー(ジャネット・リー)という女性を射止めたのに対し、ハートは生涯独身でした。


この映画では、ロレンツ・ハートがアルコール中毒になった原因として、ペギー・マクニール(ベティ・ギャレット)という女性が好きで求婚もするも叶わず、その失恋の痛手を生涯引きずっていためとされていますが、事実はそうではないようです。ペギー・マクニールという女性も実在の人物ではないようですし、ハートが実は同性愛者だったことはよく知られています。

また、ハートはしばしば姿を消すこともありました。ロジャースと約束していたスケジュールを守らなかったり、ショーが開けなくなったりしたこともあり、ロジャースとの仲は不和となり、ふたりはパートナーシップを解消。ロジャースはオスカー・ハマースタイン二世と組むようになります。これがのちの「オクラホマ!」(1955)、「王様と私」(1956)、「南太平洋」(1958)、「サウンド・オブ・ミュージック」(1964)へとつながっていきます。

しかし映画では、ハートとロジャースの不仲については触れられていませんし、オスカー・ハマースタイン二世も登場しません。


出演者のところを見ると分かりますが、大スターが次々と登場し、ロレンツ・ハートとリチャード・ロジャースの曲を歌い踊るという、それだけで満足できる作品です。観終わった印象からすると、半分がドラマ、残りの半分がミュージカルショーといってもよく、ドラマ仕立てのミュージックビデオといった趣があります。


まず、"マンハッタン"。映画の中では、リチャード・ロジャースが初めてロレンツ・ハートの自宅を訪れたときにピアノで弾いた曲にハートが詩をつけて出来た曲とされています。その後、「ギャリック祭」というミュージカルで使われました。



ハートとロジャースによる初のミュージカルショーのパフォーマンス。ペリー・コモの甘い歌声です・・・"マウンテン・グリーナリー"(山は緑に)




「オン・ユア・トウズ」というミュージカルシーンも見ものです。

当時27歳ごろのシド・チャリシーが若いですねー。のちの「バンド・ワゴン」(1953)や「絹の靴下」(1957)では大人の女性というイメージが強いチャリシーですが、ここではとてもキュートです。

シド・チャリシーとディー・ターネルの歌とダンスに続いてバレエのショー



"Slaughter on 10th Avenue"(10番街の殺人)の曲に乗せて、ジーン・ケリーとヴェラ=エレンが踊るダンスも必見


私がまだ10代のころ、ベンチャーズが演奏する"Slaughter on 10th Avenue"(10番街の殺人)を聞いてから、この曲はベンチャーズの曲だとずっと思っていました。これがリチャード・ロジャースの作曲によるものだと知ったのはそれから20年ほど経ってからです。

この曲は、1936年の「オン・ユア・トウズ」というブロドウェイミュージカルの中で使われているんですね。1939年には、ヴェラ・ゾリーナの主演で同名のミュージカル映画として映画化されています。



「ガールフレンド」というミュージカルショーから
"ブルー・ルーム"・・・シド・チャリシーのダンスとペリー・コモの歌





この映画は、ミッキー・ルーニーとジュディ・ガーランドが共演した最後の作品です。ロレンツ・ハート(ミッキー・ルーニー)がハリウッドの邸宅で催したパーティにガーランドが本人役で登場。

ルーニーと"アイ・ウィッシュ・アイ・ワー・イン・ラブ・アゲイン"(再びキミと恋を)をデュエットします。



このあと、アンコールに応えて、ガーランドがひとりで歌うのが"ジョニー・ワン・ノート"




「コネティカット・ヤンキー」というショーでは、ジューン・アリスンが"ソー・スゥェル"を歌い、リナ・ホーンが"ザ・レディ・イズ・ア・トランプ"と"ウェア・オア・ウェン"を歌います。ハートの追悼コンサートでペリー・コモが歌う"ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート"(わが心に歌を)も有名な曲ですね。

"ソー・スゥェル"・・・ジューン・アリスン



リナ・ホーンが歌う"ザ・レディ・イズ・ア・トランプ"





ミッキー・ルーニーの演技が素晴らしいです。客の前で明るくふるまっていたかと思えば、客が帰ったあとふっと寂しい表情を見せる。この表情の切り替えが素晴らしいです。

ルーニーを見ていて思うのは、かなり身長が低いということですね。そのルーニーが演じるぐらいなのでハートも相当身長が低かったのではないかと思われます。

映画の中でも身長に関する逸話が多く出てきます。自分の身長をいつも気にしていますし、ヒールの高い靴を履いて背を高く見せる工夫もしています。

英語版Wikipediaによれば、ニューヨークタイムズの記者スティーヴン・ホールデンの記事として、ハートの身長が5フィートに満たなかったと記されています。これからするとハートは150センチ以下だったと思われ、160センチに満たなかったとされるルーニーでもハートより10センチも高いことになりますね。



余談ですが、リチャード・ロジャース(トム・ドレイク)が恋人ドロシー(ジャネット・リー)と一緒に観る映画は、グレタ・ガルボとロバート・テイラーの「椿姫」(1937)。これが上映されたあと、豪華なミュージカルショーが催されるシーンがあります。現在の感覚では考えられない贅沢さです。



使用曲(確認できたもののみ)

"マンハッタン"・・・ミッキー・ルーニー
"スモール・ホテル"・・・ベティ・ギャレット
"ウェアズ・ザット・レインボウ"・・・アン・サザーン
"ブルー・ルーム"・・・ペリー・コモ
"ソー・スゥェル"・・・ジューン・アリスン
"ザ・レディ・イズ・ア・トランプ"・・・リナ・ホーン
"ウェア・オア・ウェン"・・・リナ・ホーン
"アイ・ウィッシュ・アイ・ワー・イン・ラブ・アゲイン"(再びキミと恋を)・・・ミッキー・ルーニーとジュディ・ガーランドのデュエット
"ジョニー・ワン・ノート"・・・ジュディ・ガーランド
"ブルー・ムーン"・・・メル・トーメ
"Slaughter on 10th Avenue"(10番街の殺人)・・・ジーン・ケリーとヴェラ=エレンによるダンス
"ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート"(わが心に歌を)・・・ペリー・コモ





予告編




この記事は、多くの資料を参考にしながら書きました。誤りがありましたら、お知らせいただければ幸いです。





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