『西山殿後家尼御前御返事(西山殿御返事)』(佐後)[古写本] | 細雪の物置小屋

細雪の物置小屋

御宗祖御開山遺文DBを中心に投稿します。
[参考]『日蓮大聖人の「御書」をよむ 上 法門編』著者・小林正博
発行所・株式会社第三文明社
『日蓮大聖人の「御書」をよむ 下 御消息編』著者・河合 一
発行所・株式会社第三文明社

 あまざけ(甘酒)一をけ(桶)、やま(山)のいも(芋)、ところ(野老)せうせう(少々)給(た)び了(おわ)んぬ。
 梵網経(ぼんもうきょう)と申す経には一紙一草と申して、かみ一枚、くさ(草)ひとつ。大論と申すろん(論)にはつち(土)のもちゐ(餅)を仏にくやう(供養)せるもの、閻浮提の王となるよしをとかれて候。
 これはそれにはに(似)るべくもなし。そのうへをとこ(夫)にもすぎわかれ、たのむかたもなきあま(尼)の、するが(駿河)の国西山と申すところより、甲斐国はきゐ(波木井)の山の中にをく(送)られたり。人にす(捨)てられたるひじり(聖)の、寒にせめられていかに心ぐる(苦)しかるらんと、をもひや(遣)らせ給ひてをくられたるか。父母にをくれしよりこのかた、かゝるねんごろの事にあひて候事こそ候はね。せめての御心ざしに給び候かとおぼえてなみだ(涙)もかきあへ候はぬぞ。日蓮はわるき者にて候へども、法華経はいかでかおろかにおはすべき。ふくろ(袋)はくさ(臭)けれどもつゝ(包)める金(こがね)はきよし。池はきたなけれどもはちす(蓮)はしゃうじゃう(清浄)なり。日蓮は日本第一のえせ(僻)ものなり。法華経は一切経にすぐれ給へる経なり。心あらん人金(こがね)をとらんとおぼさば、ふくろをす(捨)つる事なかれ。蓮(はちす)をあいせば池をにくむ事なかれ。わるくて仏になりたらば、法華経の力あらはるべし。よって臨終わるくば法華経の名ををりなん。さるにては日蓮はわるくてもわるかるべし、わるかるべし。恐々謹言。
(平成新編1583~1584・御書全集1476・正宗聖典----・昭和新定[3]2265~2266・昭和定本[2]1902~1903)
[弘安04(1281)年(佐後)]
[古写本・日興筆 富士大石寺]
[※sasameyuki※]