『譜めくりの女』
譜めくりの女

ピアニストを夢見ていた少女が、実技試験で失敗する。
失敗の理由は、著名なピアニストであった審査員の
何気ない行動に少女が動揺したためだった。
不合格となった少女は、ピアニストへの夢を諦める
こととなる。

成長した少女がそのピアニスト、アリアーヌと再会する。
彼女はもちろん少女のことなど覚えていない。
少女だったメラニーが取る行動は…。

復讐」。
まず浮かぶのはこの言葉。
でも、恐ろしい犯罪やサスペンスを思い描くとかなりがっかりするだろう。
何よりメラニーの伏し目がちな視線、時折笑みを浮かべているような口許が
何を企んでいるのか、本当に復讐を望んでいるのか、だとしたらどんな方法で…
想像は膨らむが、初めのうちははっきりと読みとれない。

最初からアリアーヌに近づく目的で働いていたのか、それとも
機会を窺ううちに行動がエスカレートしていったのか。

まず彼女の息子、同僚、と周囲に次第に暗い影が忍び寄る。
それでもアリアーヌの信頼を得たと知ると、それをより深いものに強めようと接近していく。
信頼が、結ばれていると信じている絆が強ければ強いほど、それが断ち切られた時の
ダメージは大きい。

離れていた十数年という歳月は、アリアーヌに十分な罰を与え、償いをさせていたようにも
思える。
交通事故により多大な精神的障害を与え、ピアニスト生命さえも危ういほど弱く脆い一人の
女性になっていた。自信満々にリサイタルや審査に臨んでいた姿とは同一人物に思えない。

個人的にアリアーヌ役のカトリーヌ・フロは『女はみんな生きている』での印象が強く、
明るく逞しい生き生きとした女性を描いてしまう。
また『地上5センチの恋心』でも、一生懸命でキュートな女性を演じていた。
その点で、今回の作品では違う雰囲気の役柄だけに、何となく違和感を感じていた。
とはいえ、やはり自信に満ちたピアニストと、精神的に脆く傷つきやすく変わった
一女性の演じ分けはさすが。

最終的な復讐の到着点は、フランスらしくもありやや意外でもあった。
この「復讐」は、女性らしい復讐であり、何よりダメージがより残るであろう
精神的な部分に対する復讐なのだ。
本人には一切肉体的痛手を与えない。
周りの人間には損傷を与えても、アリアーヌには信頼を与え、絆を結び、
最後にそれをひっくり返す。

それは肉体的な痛みを遥かに超えた傷を残していく。
犯罪とはならない範囲でのより効果的な復讐。
一時的な衝撃よりも後からじわじわと迫ってくる。
最後のメラニーの表情に、深いところからのぞくっとした恐さを感じた。

メラニーが壊したかったのは、家庭や社会的地位ではなく「心」だったのだろう。
過去に壊された自分の夢の代償として。
メラニーが失った未来を、アリアーヌも同じように失うことになるのか…。
復讐」を終えたメラニーは何を思うのだろう。