自社株買いを行うと株価が上がるのはなぜ? | "MEMORANDUM"

自社株買いを行うと株価が上がるのはなぜ?

《自社株買いは応じた株主のみに資金を返還する株主還元策》


自社株買いとは、過去に発行し、株式市場に出回っている自社の株式を、時価でお金を払って市場から買い戻すことを言う。

自社の既存株主に対して一定の金額(通常は株式の時価)を払って株式を買い戻すことから、株主には株式と交換に株主から預かっている資金を返還することになる。

配当も株主に株主から預かっている資金を返還する点では同様であるが、相違点は以下の通りである。

■自社株買い: 自社株買いに応じた株主のみに資金を返還する。
■配    当: すべての株主に一定金額を返還する。


《商法改正で機動的な自社株買いが可能に》


自社株買いは、2001年10月の商法改正により、使用目的を定めない金庫株として取得・保有することが可能となり、2003年9月の商法改正によって、定款変更を行うことで、取締役会の決議によって一定の範囲内で自社株買いを機動的に実施できるようになった。

日本の上場企業の株主配分総額(配当と自社株買いの総額)は、2004年3月期の6兆円程度から2008年3月期には12兆円へと倍増した(2008年5月26日付日経新聞朝刊)。このうち38%程度が自社株買いによる株主還元である。この数年間、上場企業は株主への利益還元を前向きに捉え、実施してきているということになる。


《手許現金を使った自社株買いは株価に影響を与えない》


以下のような企業A社のケースをもとに考えてみよう。

(1)発行済み株式総数: 1億株
(2)株価: 1000円
(3企業価値(時価): 1200億円(うち現預金100億円)
(4)有利子負債(簿価): 200億円

A社は手持ちの現預金100億円全額を使って自社株買いを実施したとする。現状の株価ままとすれば1000万株の自社株を市場から買い戻せる。資産の時価総額は現金100億円が減少したことから1100億円となる。

一方、有利子負債の金額は変化しないので、株式の時価総額は900億円(自社株買い後の企業価値: 1100億円-有利子負債額: 200億円)となる。市場に出回っている株式数は9000万株に減少するので、1株あたりの時価は1000円となり、株価は変化しない。(図-1参照)

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《自社株買いで株価が上昇するのはアナウンスメント効果のおかけ》


ところで、実際の株式市場では、自社株買いを発表したとたんに株価が上昇するケースが多いが、これは上述のファイナンス理論が現実に即していないのではなく、以下のような別の原因によるものである。


■自社株買い=経営陣が現在の株価は実力に比べて低すぎると判断している場合

経営者は一般市場参加者に比べ、自社に関しての各種の重要な内部情報を有している。

経営陣は外部者が知り得ない内部情報に基づいて現在の株価は低すぎると判断したために自社株買いを行った」と市場が解釈した場合、市場参加者は当該企業の株式を購入しようとする。

このような効果を一般に「アナウンスメント効果」と呼んでいるが、企業による増配のアナウンスも同様の効果を持つ。

逆に、自社株買い以外に有望な資金使途(投資機会)がなくなったと解釈されると、株価にマイナスに働く可能性もある。


現預金を過剰に保有している企業がその過剰現預金を株主に返還した場合
有益な投資機会に乏しい成熟企業では、経営者が規模の拡大を追求するあまり、非効率的なプロジェクトに余剰資金を投資する、すなわち過大投資する危険性がある。

このような場合、余剰資金を自社株買いに充てることで、経営者は非効率的なプロジェクトに投資しないという意思をマーケットに伝えることができ、株価は上昇する。


《企業価値向上には、有利子負債調達による自社株買いが有効》


企業価値の向上という観点から見て、ファイナンス理論的に有効な自社株買いは、有利子負債の調達による自社株買いとなる。

これは、有利子負債を導入し、この資金でもって自社株式を買い戻し、資本構成を最適化しようとするアプローチである。
有利子負債を増加させ、これによって調達した資金で自社株買いを行った場合、有利子負債の節税効果によって企業価値は増加する


たとえば、先ほどのA社の場合、100億円を有利子負債で調達すると企業価値は有利子負債の持つ節税効果のため40億円増加する。株式の時価総額は1000億円-100億円(自社株買い)+40億円(節税効果の現在価値)=940億円となり、株価は1044円(940億円/9000万株)に上昇することになる。(図-2参照)

*有利子負債の増加額をΔD、利率をrD、法人税率をtとすると、年間の節税額 = ΔD × rD × t となるが、これをこのCFのリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に割り戻した額が節税効果の現在価値となる。

このCFのリスクをどう考えるかには諸説あるが、最も簡単で一般的なのは、この節税額を生み出した有利子負債そのものとリスクと同じという考え方であり、この考え方に準じれば、

節税効果の現在価値 = ΔD x rD x t / rD = ΔD x t となる。


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