経営戦略の本質(その2 事業の選択と集中) | "MEMORANDUM"

経営戦略の本質(その2 事業の選択と集中)

《ビジョンの次は、事業の選択と集中》

的確なビジョンを作ることができたら、次はいよいよ第2段階の経営資源の配分へ進むことになる。それには続行する事業と撤退する事業とを峻別し、「どこで戦うか」を絞り込む、いわゆる「事業の選択と集中」である。


しかし、やみくもに「事業の選択と集中」ができるわけではなく、まずは、企業を取り巻く状況を分析しなければならない。

このときに有用な考え方が、「ライフサイクル」である。


《自社が属する産業や市場のライフサイクルを知る》

まず考えなければならないのは、個々の事業が属している産業や市場の成熟度だ。

産業や市場にはそれぞれ寿命がある。事業を取捨選択して経営資源を配分し直すには、事業の属する産業や市場がどの段階にあるのかを考慮しなければならない

以下の図は、産業や市場のライフサイクルを示した概念図である。


"ADVERSARIA"

重要なことは、自社の事業がどのフェーズに位置しているか判断して、次の手を打つための判断材料にすることである。

例えば、成熟期になってから策を考えるのでは手遅れになるので、成長後期には次のアクションを考えておく必要があり、また、既存事業の成長が鈍ってくる前に新しい事業を始めなければ、企業の継続的な成長は難しくなる。


《全ての製品が同じライフサイクルをたどる訳ではない》

製品のすべてが、導入から成熟を迎え、衰退の経路をたどる訳ではない。

「導入」からいきなり「衰退」へ向かうものもありば、「成長」から「衰退」へ向かうものもある。



■「導入」→「衰退」

 そもそも顧客ニーズがない、あるいは顧客ニーズが顕在化していないなどの理由が考えられる。

 前者はシーズ発想であったため、顧客ニーズとマッチしていなかったということであり、

 後者はタイミングが早すぎたということである。

 例えば、1990年代前半にEC事業を立ち上げたとしても、インターネットの普及レベルが低く、うまくいかなかったと考えられる。



■「成長」→「衰退」

 新しもの好きな人たちはキャッチできたが、大衆のニーズ喚起に至らなかった

 一過性の商品であった、などが理由として考えられる。


《産業や市場の中での自社のポジションを知る》

経営資源の配分に当たって、実際には、事業が属する産業や市場のライフサイクルだけでなく、事業そのものの競争上の位置も勘案して、事業の取捨選択を行う。それを図化したのが、いわゆる「事業ポートフォリオ」である。

「事業ポートフォリオ」は、下図のように、横軸に「相対マーケットシェア」、縦軸に市場の成長率を取った4つのマトリクスで表現する。

「相対マーケットシェア(MS)」とは、自社と自社以外の業界最大手とのシェアの比率である。

MS>1 自社が業界最大手であり、数字が大きいほど、2位とのシェアの差が大きいことを意味する

MS=1 自社ともう1社で市場を2分している

MS<1 業界最大手とのシェアと比較したときの自社のポジション


市場の成長率、相対シェアを基にマトリクスを作成すると、図のように「金のなる木」「花形」「問題児」「負け犬」の4つの象限に分けられる。


"ADVERSARIA"

ここでのポイントは、

 ・相対シェアが高いほど、キャッシュの流入は大きい

 ・市場の成長率が高いほど、キャッシュの流出は大きい

ということである。

成長している市場では、新たな広告宣伝費、設備投資が必要となるため、出ていく資金大きくなると考えられる。一方、市場の成長が鈍化する時期には、資金はある程度回収されているので流出は小さくなると考えられる(下図参照)。

"ADVERSARIA"

つまり、各象限の特徴は以下の通りとなる

■金のなる木

 ✔市場が成熟し、新規参入が少ない

 ✔最も高い利益(キャッシュ)を生みだす

 ✔衰退する可能性がある


■花形

 ✔市場が成長途上にあり、新規参入が多い

 ✔事業投資が多く、利益(キャッシュ)は少ないorマイナス

 ✔今後の成長が期待できる


■問題児

 ✔企業の相対シェアは低いが、市場が成長途上にある

 ✔事業投資が多く、利益(キャッシュ)は大きくマイナス

 ✔花形への転換が期待できる


■負け犬

 ✔撤退の対象事業

 ✔利益(キャッシュ)はマイナス

 ✔他社の撤退まで持ちこたえれば、金のなる木への転換の可能性がある


《キャッシュを「問題児」に集中投資するのが定石

上記のとおり、「金のなる木」に対しては、過大投資をしても市場の成長は望めない。

また、「負け犬」は何ら企業価値を生まないため、撤退及び売却の対象となる。



つまり、「金のなる木」及び「負け犬」の売却で得たキャッシュを「問題児へ」投資して「花形」に育て、将来的には「金のなる木」に成長させるのが定石である。


例えば、日産自動車では、「日産リバイバルプラン」で「問題児」の領域に落ち込んでいたガソリン乗用車に経営資源を集中。その代わりにトラック事業や航空宇宙事業の売却や撤退を決めて実行した。



このとき重要なのは、「しないことを決める」である


主力事業や創業事業が撤退・縮小対象となる場合、「創業時の事業だから残したい」「事業を始めた会長の目の黒いうちはやめられない」といった理由をよく耳にする。

しかし、「聖域なき構造改革」なくして、経営資源の適切な配分など望むべくもない。



《定石にこだわらない》

事業ポートフォリオは、「製品(事業)には寿命がある」「マーケットリーダーのみが勝者」を前提としているが、実態はこの前提と違う状況も存在するため、必ずしも定石にこだわる必要はない



■「負け犬」は常に「負け犬」ではない

  業界によっては、「負け犬」のポジションであっても、差別化をはかることで収益性を維持するという方向が十分ありえる。


■「金のなる木」でも再投資が価値を生みだすことがある

  ✔イノベーションで競争条件が変更され、市場成長率がさらに高まる可能性がある場合は、「金のなる木」への再投資に大きな価値がある

  ✔参入障壁が大きく、ライフサイクルが長い事業(製品)では、新たな事業を育てる必要性がなく、「金のなる木」への再投資が最も効果的である


ここで大事なことは、事業の続行・戦略転換・撤退を決定するにあたり、

  ✔事業の属する産業や市場の成熟度

  ✔競争上の位置

の2つを考慮するということである