(前回はこちら 。)


さらに私には大切な仕事がありました。

それは、障害がある仲間たちが仕事を生きがいに感じてもらうことです。仕事をしたことがない仲間たちに、仕事をすることがどれだけ素晴らしいことか、ということを経験してもらうことです。

これは、障害者福祉の実践に当たる部分です。「障害がある人は保護されるべき」という古い考えから「障害があっても、障害がない人と同様の人生を保障すべき」という考え方から来るものだと思います。



でも、いろんな人たちがいました。学校を卒業したばかりで仕事をするということがイメージできない人、養護学校を卒業して、しばらく何もせず家に閉じこもっていた人、親元を離れずに親の庇護のもとで苦労することなく暮らせる人、そして「自分たちが子供たちの暮らしを守ってやる」と考えている親たち。



個性的、と言えば聞こえは良いですが、障害の程度はもちろん、集中力や理解度、そのときの体調・気分、趣味・嗜好など、私たち職員が把握しておくべきことは山のようにありました。それを把握した上で、「この人にはこんな仕事をここまでしてもらおう」「この人にはこういう説明の仕方をしたら理解しやすいんじゃないか」など、本当に試行錯誤でした。



それでも、仕事の手順が理解できなかったり、仕事のムラがあったり、仕事自体に興味が持てなかったり。

例えば、数字の概念が分からない人がいたとします。そういう人は苗作りのときに、苗のポットに肥料を1個入れるところを3個入れたりします。言葉で「1個」と言っても分からないから、肥料が入った苗のポットを目で見てやってもらうわけです。それでも集中力が散漫になると3個入っていたりします(苦笑)。

また散水をしても、水のたくさんかかっているところがあれば、かかっていないところがあったり。



作業以外でも、いろいろな仕事がありました。施設に来なくなった仲間に来てもらうために家へ出かけていって、膝をつき合わせて話し合ったり。少しでも自分に馴染んでもらうように一緒に遊んだりもしましたね。また、仲間どおしのトラブルに対して話し合いの場を設けたり。海水浴や秋祭りなどの季節に応じた行事の準備をしたり、バザーの手配を整えたり。



バザーは土日に行われることが多いですから、休日を返上してイベント会場まで出かけていきます。苗作りもさっきのような有様ですから、成長がバラバラなんですね。ここでも素人の仕事ぶりが出てしまう…。そんな苗を仲間たちと一緒に売るわけです。

1回のイベントで1万円を越えるぐらいの売上げだったでしょうか…。それが仲間たちの給料になるのですが、材料費などの経費は売上げからは出せません。そんなことをすると、仲間たちに支払う給料が無くなってしまいますから。



「利益が出るにはどうしたらいい?」。上司に詰め寄られることもたびたびでしたね。

「苗に使う費用は、本当は施設の運営費なんだよ」なんて、ね。施設の運営費から材料費を出してもらっていたんですね。



畑の管理に悩み、苗作りもまともに教えられない。もちろん、仲間にも給料を支払えない。施設にも迷惑をかけている。



これでは仕事の素晴らしさなんか、分かりませんよね。「あれだけ働いて、これだけの給料かよ…」って。仕事の大変さは伝わったかもしれませんが(苦笑)





そんな失敗ばかりしていたある日のことでした。商品のデザインを手がけてくれるデザイナーが私たちの仕事を見にやって来ました。



その日は炎天下の中、運動会で使うようなテントを日陰にして苗を作っていました。

夕方のミーティングのときにデザイナーの彼は、その光景を見た感想をこう言いました。



「植物を大事にできない奴が、仲間たちを大事にできるわけがない!」と。



畑仕事は、暑い季節には涼しい間に仕事を終えてしまい、昼間の時間帯は休みを長く取ったりするのが常です。

しかし、仲間たちは自宅から通ってくるために9:00~16:00までの会社勤めのサラリーマンのような仕事。その前後には自宅まで送迎をしていました。仕事時間が決まっているために、どうしても暑い時間に仕事をせずにはいられませんでした。



でも、デザイナーの彼は、日陰になっているとはいえ炎天下の中で、噴き出す汗をタオルでぬぐいながら、言葉も交わさず職員の言いなりになって、それが正しいことだと思い込み、不平も言わずに黙々と仕事をしている仲間たちと、締め切ったハウスの中で「暑い、水が欲しい」と訴えることも出来ず、土がカラカラになっている苗たちを重ね合わせたのでしょう。



その言葉に対して、私は…。



(続く。)



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