キャーッ、かわいーッ!メーテル、こっち向いてええ。

顔を上げると、同じブロックの前方にいた女性が満面の笑みで頭上のスマホを振っている。

⁉︎

そこへ男性の優しい声が響いた。

はあーい♡

斜め前にいる真っ白のコートを着た男性が全身で応えている。頭にはロシアの人?みたいな四角いふかふかした白い帽子をかぶっている。メーテル?そういえばお馴染みのメーテルのいで立ち。だけど全身真っ白のピュアピュアコーデ。有名人なのだろうか、大会当日の高揚感も相まって、うんと前のブロックからも撮影にファンが訪れていた。彼もまた、みんなを楽しませるためにサービスに余念がなかった。ファンの要望に応えて終始笑顔とポーズを崩さなかった。

スゴイ

はち切れんばかりの白コーデに、丁寧で好感度バツグンのファンサ。いろんな意味で尊さが漂う。なんだか場違いな私からはすごいセレブに見えて勝手に気後れしてしまった。

少しずつ列が動き出す。スタートしたのだ。一瞬焦るが、周りのヒーローやヒロインは涼しい顔。

まだまだ動きませんねー。

いつのまにか白いメーテルが隣にいて、肩紐を直している最中だった。

うわあ、メーテルだあ。キレイ!

ありがとうございます。

太い眉毛の優しい顔立ちの男性だった。にこやかに笑いながら手を振り、自慢のロングヘアに手をやったり、小首をかしげたりして外野の声に応えていた。

大人気ですね。よく参加されるんですか?

はい。喜んでもらえるの、本当に有難いんです。僕は広島から来てるんですが、北九州マラソンが大好きで。

有給取ってですか?

とっさにそう聞いてしまったのは、真摯で上品な受け答えをされていたからだった。なんだか…仕事できて会社でも愛されてる人材、という印象を受けた。

そうなんですよ。結構トシいってるんで、さすがに日帰りはキツくて。上司も自分がこんなことやってるの知ってるんで、「ちゃんと盛り上げてこいよ」って送り出してくれました。

こんなこと、ってメーテルになってる、ってことですか?

そうです。

そう言ってガハハとメーテルが笑ったので私も爆笑した。

黒いメーテルもいますから、探してみてください。そっちの方は、美人の女性。脚も速いし、有名ですよ。じゃ、そろそろ僕も追い上げていきます。こう見えてタイムも意識してますからね。


気づけば我が最終ブロックもスタート地点に近づいていた。


頑張って盛り上げて下さいね!応援してます。

あ、ありがとうございます。

一旦振り返って爽やかな笑顔を見せ、セレブは走り去った。