なぜ?その背中は私の足音を聞きつけると必ずぴたりと止まり、ゆっくりと振り返ってくれるはずだった。そしていつも、その向こうから柔和な笑顔がのぞいていた。
それなのに、今日の祖母の背中は全くの別人のもののようだったのだ。
どんづまりの踊り場に立ち、急勾配の階段を見下ろすと足がすくんだ。…おばあちゃんなら助けてくれるはず。意を決してふすまを開けた。
あっ!
おばあちゃんは真ん前に立っていた。こちらに背を向け、何やら忙しそうに動いている。そして、その向こうには開かずのふすまが全開になっていた。何やら一階のお仏壇のようなものが見え、おばあちゃんはお供物をしているようだった。おばあちゃんが床に置いた物を取ろうとかがんだ。その瞬間。
わっ
恐怖にすくんで声にならない。すっとふすまを閉め、私は一目散に階段を駆け下りた。途中足が滑ったが手すりにぶら下がりことなきを得た。最後は手すりの下をすり抜け、階段をすっ飛ばして横の畳に飛び降り、居間に駆け込んだ。
ああ、びっくりした。
祖母の肩越しに見えたのは、鬼の形相で白目をむき、背中に赤黒い炎を背負った恐ろしい彫刻だった。
とん。とん。
程なくして祖母の足音が階段から響いてきた。
どうしよう。覗いていたことがバレてしまう。
散らかしたままのぬりえを拾い、色鉛筆の箱を引き寄せて私は「ぬりえの真っ最中」を装った。一度台所に向かった足音がこちらに近づいてくる時はなぜか心臓が飛び出しそうに緊張した。
おや。
祖母の声に初めて気づいたように私が顔を上げると、祖母はいつものように相好を崩した。
あんたは本当におりこうさんだねえ。
両手で大きなカゴを抱えて、働き者の祖母は私の側を通り過ぎて事務所に向かった。祖父が会社経営をしていたため、事務所兼応接室が隣接していたのだ。
それなのに、今日の祖母の背中は全くの別人のもののようだったのだ。
どんづまりの踊り場に立ち、急勾配の階段を見下ろすと足がすくんだ。…おばあちゃんなら助けてくれるはず。意を決してふすまを開けた。
あっ!
おばあちゃんは真ん前に立っていた。こちらに背を向け、何やら忙しそうに動いている。そして、その向こうには開かずのふすまが全開になっていた。何やら一階のお仏壇のようなものが見え、おばあちゃんはお供物をしているようだった。おばあちゃんが床に置いた物を取ろうとかがんだ。その瞬間。
わっ
恐怖にすくんで声にならない。すっとふすまを閉め、私は一目散に階段を駆け下りた。途中足が滑ったが手すりにぶら下がりことなきを得た。最後は手すりの下をすり抜け、階段をすっ飛ばして横の畳に飛び降り、居間に駆け込んだ。
ああ、びっくりした。
祖母の肩越しに見えたのは、鬼の形相で白目をむき、背中に赤黒い炎を背負った恐ろしい彫刻だった。
とん。とん。
程なくして祖母の足音が階段から響いてきた。
どうしよう。覗いていたことがバレてしまう。
散らかしたままのぬりえを拾い、色鉛筆の箱を引き寄せて私は「ぬりえの真っ最中」を装った。一度台所に向かった足音がこちらに近づいてくる時はなぜか心臓が飛び出しそうに緊張した。
おや。
祖母の声に初めて気づいたように私が顔を上げると、祖母はいつものように相好を崩した。
あんたは本当におりこうさんだねえ。
両手で大きなカゴを抱えて、働き者の祖母は私の側を通り過ぎて事務所に向かった。祖父が会社経営をしていたため、事務所兼応接室が隣接していたのだ。