ブダペストQには三種の全集と、SPの選集が聴けるわけだが、13番については最後の全集となったステレオ盤に強く惹かれる。
この曲の13番は力技やテクニックで乗り切れるものではなく、メカニックに演奏しても、曲のもつ幽玄さは出てこないように思う。
先日、ユーディ・メニューインを師にもつヴァイオリニストと話したら、「エベーヌQは?」と薦められた。『レコード芸術』の名盤選びでも、某山崎浩太郎氏が盛んに褒めちぎっている。
個人的に山崎浩太郎氏の推薦盤はことごとく外れるので、少し嫌な予感がしながら聴いてみた。
私にとってはとても最後まで聴ける演奏ではなかった。それでも、私の耳が悪いのだろうと何回もトライしたが、力こぶそのもののような音の塊がスピーカーから飛び出してくるようで、音色も美しくなく、侘び寂びも深遠な魅力も消えている。
13番は「力を抜く」ことが必要に思う。
といってもそれは脱力を意味するのではなく、音楽が劇して緊張したら大きく呼吸し、ソフトランディングするように自然に(目立たない程度に)テンポを落とし、寄せては返す波のように演奏するとうまくいく、ということである。
ブダペストQの一楽章はその点で完璧で、ピエール・モントゥーの指揮したブラームスの交響曲第2番の演奏がしきりに思い出された。モントゥー盤のテンポがまさに融通無碍の境地なのだ。
二楽章から四楽章、先にあげた新しい七楽章も良い演奏だが、六楽章の「カヴァティーナ」についてはブダペストQといえども敵し得ないようだ。
無類の名曲とされるこの「カヴァティーナ」は、いまだに満足のいく演奏に出会えていない。13番の中で唯一、痛切なまでに訴えてくるメランコリックなまでの感情の吐露。
ブダペストQのやり方だけでは活きないのである。
そうなると、13番の真の名盤は?「カヴァティーナ」も「大フーガ」も合わせて、この13番を魅力的に奏している団体は一体存在するのだろうか?
13番はありとあらゆる顔をしている。仙人のような佇まいかと思えば、笑い出したり、激しく怒ったり、怒りながら泣いたり、人間や人生への愛情を爆発させたり…
タカーチQも、16番が素晴らしいジュリアードQも、ミロQも、カザルスQも、どこか満たされない。古典四重奏団に期待しているが、まだ開封すらしていない。未聴盤が山のようにあるのだ。
そんな折も折、昨日同じアメーバ・ブログのangsyally1112さんを発見し、フィッツウィリアムQやデンマークQなどのまだ聴いたことのない演奏の魅力が紹介されていて、驚きとともに嬉しさを禁じ得なかった。
心より感謝申し上げます。
早速、聴いてみたいと思う。