先週明けの8月5日に日経平均株価が4451円安と1987年10月20日にアメリカで起きたブラックマンデーを超える大暴落をしました。単刀直入に言って今回の暴落は日銀と米FRBという二つ中央銀行の金融政策判断ミスが原因で起きたものです。このブログで筆者は常々金融政策は物価と同時に民間企業の生産活動意欲(=事業投資意欲)と雇用情勢を鑑みて判断すべきであると強調してきました。

 

しかしながら日銀は先月7月末の金融政策決定会合において鈍化している雇用情勢や低調な民間消費を軽視し、政策金利の引き上げを打ち出します。今回の政策決定会合で利上げをするのを見送るのではないかと予想していた市場関係者は株を一気に売り払ったことで株価が暴落しました。

自分のX(twitter)フォロワーである質問者2(おおしま真)さんがnoteにまとめられたレポートにおいて、家計最終消費支出、需給ギャップ(日銀推計)、基調的なインフレ指標(日銀)、消費者物価指数、輸入物価、賃金といった経済指標がいずれも低調なままであり、日銀が利上げをするような環境ではなかったことを示しておられます。

 

おおしま真さん「日銀利上げとハト派のフリ派

 

 

まず家計消費支出は2023/1~3より4四半期連続でマイナスとなっております。

需給ギャップについては2020/1以来16四半期連続でマイナスのままです。

名目賃金から物価上昇分を差し引いた実質賃金も2022/3月以来ずっとマイナスが続いており、ボーナス時期の今年6月速報値のみ+1.1%という有様です。

企業の生産活動が活発となり、それによって労働者への賃金分配が進み、彼らの消費意欲が活発となる。それが物価上昇につながって、企業はさらに生産活動のための投資を行うといった賃金と物価の好循環が十分に進んでいるとはいえない中での利上げです。さすがに多くの市場関係者が日銀の金融政策がおかしいと気づいたのでしょう。

 

アメリカについても8月2日に発表された7月の雇用統計が予想以上に悪化していました。これまでFRBはパンデミック収束後から続いていた景気過熱と高インフレを抑え込むために政策金利の引き上げを続けていましたが、今度はそれが効きすぎて雇用を縮小させるところまできていたのです。再利下げのタイミングが遅れたと見るべきでしょう。それに伴って為替相場は極度の円安進行から一転しドル安円高に反転します。このことは日本の自動車産業をはじめとする輸出系企業の業績を落ち込ませることを予想させ、株売りを加速させました。

 

今回の株価暴落は大きなパニックを引き起こしたわけですが、筆者の感覚としてはタイミングを当てることはできないにしても、いつ起きても不思議ではなかったことで、少し冷淡に受け止めています。というより今年初頭から7月までの間に植田日銀がYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)を撤廃し、マイナス金利の解除や国債買入額の減少をするなど顕らかに安倍=黒田総裁時代の異次元金融緩和を手仕舞いにする動きをとっていたにも関わらず、株価が4万円台まで上昇したり、1ドル160円台にも達する空前の円安が進行していたことの方が不思議なぐらいでした。

 

経済学者で上武大学の教授を務められている田中秀臣先生は今回の暴落のちょうど1週間前にラジオ番組(「おはよう寺ちゃん」)において日銀が利上げを断行すれば3万3千円台まで下落することを予言されていました。(YouTube動画の20分目ぐらい)

田中秀臣 (経済学者)【公式】おはよう寺ちゃん 7月30日(火) (youtube.com)

田中先生は植田和男氏が日銀総裁に就任してから3万3千円台をつけていた株価が上昇していったが、7月の金融政策決定会合で国債買入額減額や政策金利引き上げを行えば、市場関係者が「植田日銀は強烈なタカ派である」というメッセージだと受け止め、植田日銀時代の上昇分が全部吹っ飛んでしまうと仰っていました。その予言が的中・・・いやそれ以上に株価が下落してしまったのです。田中先生は植田総裁就任後から進んだ株高をバブル的なものと評しています。市場関係者の植田総裁に対する過剰な期待や信用が生んだバブルというべきでしょうか。

 

これは筆者のかなり穿った見方ですが、もしかしたら市場関係者の中でも薄々植田総裁が本音で早く異次元金融緩和の手仕舞いをしたがっており、アメリカの景気や雇用が下降していっていることに気がついていた者がいたかも知れません。それを見越して最後のひと稼ぎで株高円安バブルを膨らませ、7月の日銀政策決定会合を一気に売り飛ばすことで利ザヤを稼ぐというペテンを働かせたという想像です。

 

植田総裁が7月の政策決定会合において政策金利を引き上げを決めたのも「0.25%程度の利上げならば、さほど大きな影響を与えないだろう」と高をくくっていたからでしょう。エリート独特の思い上がりがあったかと筆者は思っています。彼の関心は国民生活や厚生福祉の向上ではなく、銀行などの金融機関の利益保護に向いているとしか思えません。市場関係者はそうした彼らを翻弄してきたのでした。

 

 

 

ここ数年で日本は30年以上の長きに渡って続いたデフレ不況体質から脱出し、ようやく新たな成長軌道に乗りかけたところでしたが、植田日銀の動きはそれに水を差しかねないものです。筆者は金融緩和政策をいつまでも続けろということは主張しませんが、日本の企業の成長力や消費者の購買意欲がもっと力強く回復するまで利上げは慎重にすべきであると考えます。今回の日銀の利上げは大きなしくじりでしたが、致命傷にまでは至っておりません。二度と馬鹿げた判断をしないでほしいものです。

 

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