2024年3月の日銀政策決定会合で2013年以来続けてきた異次元金融緩和が放棄され、利上げへ向けた動きへと転じました。にも関わらず円安がどんどん加速していっています。それを止めて物価高を抑え込めという世論がどんどん強まっているところです。(しかし円安=ドル高はインフレの原因のひとつでしかないことに注意が必要です。)

通常であれば金融政策が利上げに転ずれば自国通貨高になっていくはずですが、そうなっていません。その原因ですが、それは円安というよりもドルの独歩高であるとみた方がよく、日銀が金融政策を僅かに利上げしても追いつかない状況にあるというのがひとつです。もし仮に日銀がいきなり米国やEU並みに政策金利を引き上げてしまうようなことをすれば多くの日本の民間企業が資金繰りに困って事業拡大のための投資を断念せざるえなくなります。最悪は倒産に追い込まれます。それに伴って雇用は急速に悪化してリストラや賃下げが進むことでしょう

さらに為替レートが円安から円高に転じたとしても、海外のエネルギー資源や食糧などの元値が高騰したままであれば日本へ輸入したときの価格もさほど下がりません。近年新興国の消費者がこれまで日本人が多く買い込んでいた畜産物や水産物、農産物を口にするようになり、日本のバイヤーが海外のバイヤーに買い負けするような事態が起きています。為替操作をする意味は多くの人が思っている以上に薄いのです。

 

そもそもここで何度も主張してきたことですが、中央銀行による金融政策の目的は民間企業の事業活動や投資意欲と雇用の安定であって為替相場の安定ではありません。為替相場の操作を金融政策の目的にしてしまうと、国内の景気や雇用がおかしなことになります。

日本においては逆のケースですが1980年代のバブル景気がその例で、1985年9月のプラザ合意で極端なドル高=円安からドル安=円高に転じ、当時のアメリカ政府は日本の大蔵省(→現財務省)を通じて日銀に対し利下げ圧力をかけたことが発端となっています。行き過ぎた金融緩和政策が元になって溢れた資金が株や不動産取引市場に流入し、資産バブルを生んだのです。ちなみにこのブログでよく引き合いに出させていただいている岩田規久男元日銀副総裁はリフレ派の論客で積極的金融緩和政策を主張していたことが強く印象に残っている方ですが、1980年代当時は逆に金融緩和の行き過ぎを批判されていました。

 

参考 産経新聞「経済正解」田村秀男氏執筆 「日銀利上げで円安阻止は無理だ

 

為替相場に中央銀行の金融政策が左右されてしまうと、異常な景気過熱や物価高騰を招いたり、逆に不況やデフレ状態をだらだら続けて雇用を破壊するようなことになります。円安は自動車関連や電機産業などの輸出系企業の利益を殖やす一方で、一般消費者等への負担を増すことは言うまでもないのですが、そうした問題については増収となった企業等から得た所得税収や法人税収を一般消費者に所得再分配すれば解決できます。さらに財務省が管理する外為特会で30兆円もの含み益を出しており、それを国民にばら撒けばいいと高橋洋一氏は指南しております。

 

「国際金融のトリレンマ」という観点からいっても金融政策で為替レートを操作するというのはおかしな話になってきます。それは「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」の3つは同時に成り立たせることは不可能であるというものです。

①固定相場制=自国通貨と他国通貨を等価にする

②自由な資本移動=自国通貨と他国通貨を自由に取引・交換できる

➂独立した金融政策=自国の経済や雇用情勢にあわせた適正な政策金利の設定を行う

 

円安阻止をするというのは極端にいえば①のように円をドルペッグの固定相場制に移行せよと言っているも同然です。となってくると③の独立した金融政策を日銀が行うことは不可能になります。ドルペッグになれば日本はアメリカの中央銀行であるFRBの金融政策に委ねる格好です。EU(欧州連合)に加盟しユーロ通貨を使用している国についても各国で独立した金融政策を行うことはできず、ECB(欧州中央銀行)に委ねています。

「日銀はもっと金融政策を引き締めて円安を是正しろ」という主張は日銀に③の独立した金融政策を放棄しろと言っているに他なりません。

 

上で引用させていただいた産経新聞の特別記者である田村秀男氏は植田日銀総裁が金利引き上げに前のめりな姿勢をチラつかせるごとに、余計海外の投機勢力がつけこんで円売りを仕掛け円安が加速してしまっていると批判されています。愚かな話です。

 

 

植田日銀が金利引き上げを臭わせるような発言をすることによって、国債金利が上昇=国債価格下落の予想を投機家たちに与えます。投機家たちは「今のうちに」と日本政府国債の空売りを仕掛け儲けているところです。一方拡大してしまった日米金利差に乗じてヘッジファンドは円売りを仕掛け円安を加速させています。

 

参考リンク

ヘッジファンドの空売りとは?日本国債などの実例とともに概要を解説 (eito.com)

 

海外勢の日本投資はヘッジがお得? 安い円調達コスト、国債などへ流入後押し - 為替・金利|QUICK Money World -

 

 

焦点:円売り新展開、キャリー取引急増 米利上げ終了の思惑 | ロイター (reuters.com)

 

 

どうしても円安を阻止したいのであればということであれば田村秀男氏が提言されていますが、日本が保有する莫大な海外金融資産の一部を還流する「リパトリ減税」という手があります。それは海外資産を本国に送金する企業の法人税を減税するものであり、それによって大規模な円買い・ドル売りが起こせるというものです。アメリカでは2005年の1年間に限り、当時のブッシュ政権が「本国投資法」に基づき実施し、ドル相場を上昇させています。

【お金は知っている】円安阻止の障害、減税嫌う財務省 還流策の代表例「リパトリ」導入に後ろ向きも…首相が決断すれば済むはず(1/2ページ) - zakzak:夕刊フジ公式サイト

 

 

筆者は何度も説明してきていますが、仮に日銀が政策金利の引き上げを急いだとしても円安を抑止することは無理に近く、ただ雇用や賃金の低下だけを招いて、ますます国民生活を逼迫させることになりかねません。自国の生産力や供給力の強化を地道に続けることがインフレ対策でもっとも大事なことです。

 

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