安倍元総理の暗殺で後回しにしていましたが、前々から書いておかねばならないと思っていた財政政策や金融政策の判断をどう決めていくべきかという話です。

コロナ禍以降、世界各国で高いインフレ(物価上昇)が目立つようになり、政府の財政支出を抑えるべきだとか、金融緩和を縮小していくべきだという論調が目立ってきています。とはいえど今回の物価や商品価格の上昇の動きは各国で異なっており、さらにはロシアによるウクライナ侵略戦争によって原油・天然ガス・小麦などの食糧資源価格が急騰してしてしまいました。そういう意味で単純に金融緩和を解除したり、政府支出の抑制をすれば価格が抑制できるというものではないことを念頭に入れる必要があります。

 

手短に今回の結論を先に述べますと、積極財政にするか緊縮財政にするかの判断は需給ギャップ(GDPギャップ)に基づいてやります。

総需要が総供給より下回れば不況や失業の増加と賃金低下、倒産・廃業の増加を招きやすく、物価は下げ圧力(デフレ)がかかります。需要不足で人手や設備を持て余し、企業がモノやサービスの生産のための投資を抑制すれば、雇用が縮小し、従業員や関連企業への所得分配が進まなくなります。その結果人々の消費意欲がさらに衰え、モノ余りとなり物価が下がっていきます。ですのでデフレギャップが発生しているときは政府が財政支出を増やしたり、減税を行うことで不足する需要を補わなければなりません。財政政策や金融政策の判断はまずGDPギャップを確認することが第一であると思っておいていいでしょう。注意すべきは物価、いやある特定品目の価格だけをみて財政政策や金融政策の態度を決めてしまってはいけないということです。企業の事業拡大・投資増大→雇用拡大→消費拡大という流れで起きた物価上昇なのかを確認すべきです。あと何度か指摘してきていますが、物価と(個別)価格を混同してはなりません。さらに物価もすべての品目を網羅した総合物価指数と気候に左右される生鮮食料品価格を除いたコアCPI,それに加えエネルギー資源を除いたコア・コアCPIがあります。これらは国内の金融政策や財政政策以外の要因で価格変動を起こしやすいので政策判断材料から除きます。

 

現在起きている物価や資源価格の高騰は新型コロナウィルス感染拡大による生産活動の抑制や、ロシアによるウクライナ侵略戦争による原油・天然ガス・食糧などの生産供給不足が大きく関わっています。またアメリカの高インフレはアメリカのバイデン政権がかなり巨額の財政出動を行ってしまったために、景気が異常加熱し雇用が逼迫していますが、日本の場合はアメリカほど需要が膨張してしまっているとは言いにくい状況です。この違いを把握しておかねばなりません。現在日本の場合はGDPギャップが20~30兆円ほどあるといわれています。(内閣府の集計によれば20兆円ほどだが、実際にはさらに10兆円ほど開いているとされる。)欧米ではここまでのGDPギャップに開きはなく、需要側の方が供給を上回っているぐらいです。エネルギー価格や輸入食料品の価格高騰に引っ張られるかたちで日本もそれらの価格が上昇していますが、その一方で国民の所得がさほど伸びておらず家計を圧迫します。生産者側は原材料などの仕入れコストが上昇しているにも関わらず、消費者側に価格転嫁したくてもなかなかできない状況でデフレ圧力も同時に働いています。板挟みになった企業は利益が圧迫され、従業員に所得分配したくてもできなくなるでしょう。需給ギャップを埋めるべく30兆円規模の財政出動をしないと、石油関連商品や食料品の価格が下がらないまま、雇用だけが悪化する恐れがあります

 

このような主張をすると、「インフレなのに財政出動やら減税をしたらもっと物価が上がる。」と言い出す人がいますが、現在のコアコアCPIは前年度比2%ほどであり、しかも昨年春に菅義偉政権が行った携帯電話料金値下げの分を加味していません。まだ日本は他国と比較してかなり弱いインフレのままであると見るべきです。原油や天然ガス、輸入食料品の価格が上昇したといっても、その利益は日本国内の企業ではなく海外へ流出していき、日本の就労者たちに分配されません。一般個人の家計が潤わず、食料品や石油関連商品などの価格だけが上昇したら、ものやサービスが売れず、生産も縮小していく恐れが出てきます。

海外要因で上昇してしまっているエネルギー資源価格や食料品の価格を下げることはできません。しかし商品の価格を下げることができなくても、収入側を政府の財政出動で補えば家計の痛みは軽減できますし、企業も価格転嫁しやすくなって利益を確保できるようになるでしょう。この価格上昇が永久に続くものではなければ財政出動の財源を国債で賄って、後で長期に渡り広く薄く負担を分散すればいいのです。また現在円安によって大手を中心に輸出企業が業績を伸ばしています。となってくると所得税や法人税の税収が伸びることが期待できます。その税収を一般家計の所得補填に回せばいいことです。いまの日本の状況で需給ギャップを埋める分だけの財政出動ならエネルギー資源や食料品価格上昇の分を除いた部分の物価上昇はひどく進まないと考えていいでしょう。

 

きちんと需給ギャップがどれだけあるのかデータを見もしないで、これ以上減税や積極財政、金融緩和をやったらインフレが止まらなくなると言ってみたり、逆に実施したら予算規模が30兆円を超えてしまうようなひとり毎月20万円の定額給付金をやれなどと言っている人がいました。ひと月分だけで24兆円であり、それを毎月やったら現在のアメリカより高インフレになるでしょう。

ついでに言いますと日本のコロナ経済対策は雇用調整助成金、持続化給付金や休業補償などを中心にして、企業の倒産や廃業、従業員解雇を極力抑える方法を採りました。定額給付金は当時の安倍総理が全国民一律10万円給付を一回やったことを除いては住民税非課税世帯などに限ったものにとどめています。アメリカは企業が潰れたり、従業員の解雇が進むことを止めない代わりに、特別給付金や失業手当の増額で失職者の所得補償を手厚く行いました。コロナ禍後アメリカで失職した労働者が職場復帰しなくなってしまう大離職(the great resignation)現象を起こし、雇用逼迫で賃金高騰とインフレの加速を招いています。一度職場から離れてしまった労働者が職場復帰するには、大きなエネルギーを要し、結果として生産・供給力の回復が遅れてしまいました。このことがアメリカにおける高インフレの一因になったのではないかと筆者は推測しています。

 

経済学でいちばん大事なことは需要と供給です。経済政策の基本はそのバランスを高次元で均衡させていくことであります。望ましい物価や雇用はそれによって保たれていきます。次回は金融政策の態度をどう決めるのかという話をします。

 

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