前回、前々回に続き、インフレや円安についての話題です。アメリカなどでは原油や食糧品など資源価格の高騰や半導体などの生産供給不足の他、都市封鎖(ロックダウン)後のペントアップ需要膨張などの要因によって7~8%にも上るインフレが発生しています。日本ではアメリカほどではないにしてもインフレの気配が出始めています。またドル高・円安基調が続いていますが、前回の記事でそれも日本側が高騰した原油や食糧品を調達するために多くのドル通貨を準備しなければならないために起きている可能性が高いと筆者は述べました。

金融緩和打ち止め誘導の「悪い円安」論 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

しかしながら、この円安状況について「(異次元金融緩和によって)日本の国力が衰退したためだ」「円が回避されている」「日本は貧しくなった」と言う評論家たちが出てきています。その例をいくつかあげてみましょう。

例 その1 加藤出氏

 

例 その2 野口悠紀雄氏

 

加藤出氏と野口悠紀雄氏は安倍政権と黒田東彦日銀体制時代からはじまった異次元の金融緩和政策を反対する立場の人であり、様々な理由をつけてその政策の妨害を続けてきています。異次元金融緩和のポイントはしっかり景気と雇用回復が定着するまで日銀が金融緩和政策を徹底して続けるという確約をし、それをインフレ目標2%というかたちで市中に示すことですが、彼らはその意図をきちんと理解していません。金融政策の基礎がまったくわかっていないのです。マスコミも同様でインフレターゲットの意味を「物価を上げれば景気がよくなる」「給料があがる」などというトンチンカンな解釈を広めています。順序が逆でしょう。

 

金融緩和政策の目的と効果は(継続的な)金利の引き下げとその予想によって、企業がモノやサービスの生産のための投資を積極的にするよう促すことです。その結果として関連企業や人員補強による雇用拡大、賃金分配の上昇を生み出します。多くの賃金を受け取った労働者は消費というかたちで積極的にお金を遣うようになり、最終的に物価上昇につながります。この状態を目指すことがリフレーション政策であり、雇用と消費意欲が十分に回復したという目安として物価上昇2%を目標として掲げているのです。加藤出氏や野口悠紀雄氏は金利と投資、雇用の連関がわかっていないのです。

 

彼らは異次元金融緩和によって円安誘導を進めたことで、企業は何もしなくても日本円建ての収益が膨らむために、円高でも収益を確保できる高付加価値を生み出す技術革新や構造転換を怠ったと考えています。そのために日本の企業の国際競争力が弱まって、いまの円安を招いていると説いているのです。筆者はその見方を否定しています。日本企業や産業の弱体化は1990年代の三重野康日銀総裁とその以後の金融政策の失敗が元凶であるとみており、長年の慢性的デフレ不況と日銀の金融政策の迷走が国内企業の大胆な投資行動を抑制してしまったことで進んだと筆者は結論づけています。

 

デフレとは景気と消費の低迷により一定期間以上、物価が連続的に下落してしまう現象でありますが、こんな状態では企業は収益増を見込めないために投資を抑制せざるえません。日本は1997年以降からだらだらとデフレスパイラルに陥り、企業は薄利多売の安売り路線に転じざる得なかったのです。デフレで薄っぺらい利幅しか獲得できない企業は次世代技術のための研究開発を行うための投資まで削減せざるえない状況でした。企業が多くの投資をして高付加価値の商品を開発しても、安さ重視の日本の消費者はそれを買おうとしません。デフレはイノベーションを阻害します

 

高金利や自国通貨高を望む論客は構造改革や清算主義的思考を持っています。彼らは低収益しか得られない既存のゾンビ企業をどんどん市場から退場させ、高付加価値路線で高収益を獲得できる新進気鋭のユニコーン企業が自国経済を牽引していけばいいという主張をしています。金融緩和政策で金利を抑えつけ、円安誘導を計ることはゾンビ企業の延命になってしまうからやめるべきだと言っているのです。しかしこの論法は大きな矛盾を抱えています。自分で銀行などから資金を借りて新しい事業を興そうとする起業家にとって、彼らの主張は無茶なものに見えるでしょう。

まず先ほど述べたようにデフレという状況は消費者が高付加価値の高額商品よりも、低付加価値の低額商品を選択するようになります。日頃デフレ容認発言をしている論者が片方でイノベーションだとか言っているのは支離滅裂です。高付加価値商品が売れるようになるにはデフレ脱却が不可欠です。

 

そしてもうひとつは金利です。現在イケイケで急成長を遂げているアメリカやアジアの企業は創業当初から分厚い利幅を獲得できていたのでしょうか?いわゆる新進のベンチャー企業は事業を興した当初は「そんな事業なんか成功するわけがない」などと周りからいわれていたということがたくさんあります。以前ここでフランク・ナイトの不確実性の話を引き合いにし、起業家たちは不確実性のなかからチャンスを獲得して大きな利潤を獲得しているという話をしました。

 

 

中央銀行が高金利政策を行えば低収益しか得られない既存企業が淘汰されるという論法ですが、そうなる前に将来高収益が獲得できる可能性のあるベンチャー起業家たちの芽が摘まれてしまうという可能性が思い浮かびます。企業よりも潰れる企業の方が多くなってしまったら自国産業崩壊になってしまうでしょう。誰もが簡単にすぐ儲かるとか高金利を支払えるほどの高収益を創業時から獲得できるような事業だったら、日本だけではなく他国企業も真っ先に飛びつきます。砂の中から金粉をすくい出すように、ほとんどの人が成功しないと思っているアイデアの中から成功の芽を見出し、辛抱強く事業を育てていくのがベンチャーです。

 

画期的な新技術を育て上げるにも、年単位の時間を要します。さらにそこへは莫大な開発資金も投じられます。もし仮にその研究途中で長期金利が上昇してしまったらどうなるでしょうか?中央銀行の態度如何でいつ金利が上がってもおかしくない状況の中で、長期視野に立った大胆な投資ができるわけがありません。銀行などの金融機関は借り手の都合を無視して目先の自行の金利収入のことしか考えず、金融緩和政策を妨害し続けました。金融機関への天下りを考えている日銀プロパーや財務省官僚も金融緩和を阻止しようとし、マスコミや金融機関の御用学者を使って金融緩和危険論や無効論を展開してきたのです。その犠牲となったのは優れたモノやサービスの開発や提供を志してきた民間企業です。

 

昨年の12月13日にも書いたことですが、岸田総理と同じ派閥の宮澤洋一議員が会長を務める自民党税制調査会において呆れた発言が飛び出していました。

 

彼らは民間企業経営者らに対し

「企業がイノベーションよりも経費削減や値下げに競争力の源泉を求め続けた結果、経済全体としては縮小均衡が生じてしまってきた。」とか

「リスク回避や横並びの意識を排してアニマルスピリッツを取り戻し、イノベーションに挑戦することが期待される。」などと批判を行っていたのです。

宮澤洋一議員らは財務官僚色が極めて強く、財政規律偏重主義といわれてきましたが、こうした人は金融緩和政策についても消極的です。企業がイノベーションに挑戦できるようにするためにはその開発資金の調達容易化や長期的な金利抑制というかたちで政府と中央銀行が協力しなければなりません。しかしながら宮澤議員たちはイノベーションに挑戦する民間企業を背後から銃で撃つようなことばかりしてきたのです。

 

岸田総理や宮澤洋一議員、外務大臣を務める林芳正議員らが所属する宏池会は親中派の議員が多いと云われます。穿った見方になりますが、金融緩和政策を妨害することで日本の産業衰弱を加速させ、中国共産党の「中華版砕氷船理論」に協力しているのではないかと思えてきます。そうだとしたら岸田宏池会政権はとんでもない売国政権です。

 

とにかく「金融緩和が日本の国力を衰退させた」「日本国民を貧しくした」などというのはとんでもないデマです。民間活力の増強やイノベーションの促進、高付加価値産業の育成には適正な金融政策とデフレ脱却が不可欠であります。

 

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