ここ最近ネット上でにわかに目立ちはじめた臨時定額給付金再支給を求める動きについて考えていきたいと思います。ツイッター上で「#二回目の現金一律給付を求めます」といったハッシュタグまつりが行われたり、インターネット署名サイト「Change.org」でも定額給付金再支給を求める署名が7万2000人以上集まっています。

 

まず定額給付金再支給の是非について、こちらの意見と見解を述べますと、やってほしいし、再給付の必要が再び高まっていると思います。財源の問題も心配ありません。

 

コロナ増税をしなくていい理由 ~国債と通貨発行のカラクリ~ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

とはいえどそれよりも医療機関の支援や緊急事態宣言の再発令で苦境に追い込まれる飲食・観光・卸売り業・介護などの業界支援や投資および雇用維持を優先すべきであるというのが私の見解です。(←意見ではありません) このことは「今後の経済対策の方向性 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」という記事でも書きました。経済学者の飯田泰之さんがツイートされたものをもう一度紹介します。

 

うん
ここが大切で,非常時で生きるか死ぬかだからこだわってるんだよね.

もう一度一律10万給付したとして,倒産した(しそうな)ホテルや職を失った個人事業主がどの程度助かるんだろうか.事業の継続にどの程度効果があるんだろうか. https://t.co/XzBEqCTbh1

— 飯田泰之 (@iida_yasuyuki) December 25, 2020

 

そして,現時点で金融上の優遇,融資活性化への財政支援,租税の延納,雇用助成の延長・拡大,ダメージの大きい業界への支援……の優先度が高い

そして経済全体を活性化することで生産部門の毀損を防ぐ……ことを重視するなら,一律給付よりも財政支出の方が効果が高い.

— 飯田泰之 (@iida_yasuyuki) December 25, 2020

コロナ経済対策については昨年春の緊急事態宣言のときと状況が異なっていることを頭に入れておかねばなりません。経済的打撃を受ける業種とさほど影響を受けない業種が分かれている点や感染拡大防止策や経済活動の自粛が全面的なものから局所的な方法に転換していることです。いちばん深刻な経済的打撃を受けている事業者や個人にとって単発10万円の定額給付金は焼石に水です。そういう事業者や個人に手厚い給付をしないといけません。昨年春のときは行政機関が混乱し、さらにそこで感染クラスタ発生につながる危険性が考えられたために、全国民一律の臨時定額給付金を支給すべきだということになったのです。私もそれを強く主張しました。

 

しかし今年1月にコロナ感染者数の増加から緊急事態宣言が再発令され、経済活動の制約が強まっています。所得が大きく減少してしまう人は一部に限定されないでしょう。おまけに火力発電で使うLPGの輸入がしにくくなり、冬場の電力需要拡大によって電気代の負担も増えてきます。さらに言いますと日本の場合デフレ不況再発の兆候が顕れたときにコロナ禍に巻き込まれました。そういう観点から無条件の現金給付政策を否定すべきではないですし、今後その議論の必要性が高まってくるでしょう。

 

そういう意味で私は定額給付金の再支給を求めること自体には反対しないのですが、問題は日頃から経済政策についての勉強をしないでおいて、政策の優先順位を考えず、特定の政党や政治イデオロギーに染まった人たちが安易な政権批判ごっこのためにこれを利用する動きです。私はこれに感心を持てません。

自分が鼻白んでしまっているのは、安倍前総理や菅現総理憎さのあまりに、定額給付金の財源調達にも関わっていた量的金融緩和政策や、昨年春に予算化された予備費10兆円積み上げに反対してきた人たちが「#二回目の現金一律給付を求めます」などと突然言い出していることです。自分たちで財源調達の妨害をしておきながら、あとでそれを財源とした給付金をくれくれとおねだりする態度に呆れてものがいえません。下で説明するような経済や財政に関する知識がまったく身についていないのです。

 

寿司屋でシャリの上にのっているネタだけをつまんで食べてしまう行為は「追剥ぎ」といわれていて、最大のマナー違反だとされています。気難しい寿司職人だったら「てめえに食わせる寿司はねえ、帰りな!」と怒り出すことでしょう。「#二回目の現金一律給付を求めます」というハッシュタグを見てしまうと寿司ネタの追剥ぎを思い出します。

 

今回のコロナ禍における経済対策の基本的考え方は今まで自立した経済活動ができていた人ができなくなってしまうことをいかに防ぐかです。金融・経済アナリストの森永康平さんは2020年に休廃業・解散した企業の業績をみると半数以上が黒字経営であったと指摘します。コロナ禍がなければ立派に経営存続していた企業が休廃業に追い込まれたということです。私はこれを「サプライサイドの壊死」と呼んでいます。

森永康平@金融教育 / 経済アナリストさんはTwitterを使っています 「(帝国データバンクより) ・2020年の企業の休廃業・解散は全国で5.6万件  →2年ぶり減少、抑制傾向で推移 ・ただ、休廃業・解散した企業の業績をみると、2020年は全体の57.1%で当期純利益が黒字  →黒字での休廃業・解散の割合が過去最高を更新 https://t.co/8iEKteAghN」 / Twitter

 

いまの政策のポイントは経済的自立ができない人が増えるのを少しでも食い止めることが先決です。私は政府の経済対策で最優先とすべきは1に医療体制補強、2に深刻な経営的打撃を受けた事業者への支援と申し上げてきたのはそのためです。菅総理の言葉ではないですが「自助・共助・公助」の順が基本です。

 

あと自分のツイッターとこのブログのフォロワーさんである方が興味深いツイートをされていました。

SHINYA58 ReさんはTwitterを使っています 「これは優先度高い一大プロジェクト。実務は基礎自治体が担う。 となると、やはり基礎自治体が実務担った前回同様のやり方での定額給付金は難しいだろうな。 https://t.co/AyEJ4MB6tr」 / Twitter

 

臨時定額給付金の再支給を行った方がいいけれども、それより優先すべきことがいくつもあるということを念頭にいれないといけません。「一般庶民の生活より企業が大事なのか」と怒る人たちがいますが、庶民の雇用を生み出し、所得分配を行っているのは多くの民間企業であるという現実を忘れてはならないのです。われわれの生活に必要な食糧や衣服などの物資をはじめ、各種サービスの生産を担っているのも民間事業者です。これを根絶やしにしてしまえば社会主義国家と同じこ末路を辿ります。

 

さらに開いた口が塞がらなかったのは「#今すぐ返せ給付金は預けた税金 」というハッシュタグでした。これについてはここのブログを読んでいる人なら「何を寝ぼけたことを言っているんだ」と言いたくなるでしょう。昨年春に安倍前政権が行った臨時定額給付金の財源は税でなく国債を財源にしています。政府が発行した国債を日銀が買い受けることで政府+日銀=統合政府の市中に対する(債務性が高い)負債が実質ない状態にすることができ、後の国家財政悪化や増税を心配する必要がなくなるのですが、これも黒田日銀体制からの量的金融緩和政策の一環として行われています。

 

量的緩和政策による財政ファイナンスと大型財政出動 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

「#今すぐ返せ給付金は預けた税金 」なんてハッシュタグ運動をしてしまうような人は国会審議の流れや予算をまともに見ていないのでしょうか。政府の金庫に預けて貯めてあった税金を吐き出してコロナ対策費を賄っているのではありません。国債を発行して財源を賄ったことは新聞やニュースでも報じられています。

 

そうしているうちに麻生太郎財務大臣が「国民に一律10万円の支給をするつもりはない」「(給付金は)国の借金でやっている。後世の人に借金を増やすのか」「『あなたのために後世の借金を増やすのか』と(報道機関から)言ったらどうか」という発言をしました。「#今すぐ返せ給付金は預けた税金 」なんて言っている人は麻生大臣をどう論破するのでしょうか?(笑)

 

麻生氏「後世に借金増やすのか」定額給付金に難色 - 社会 : 日刊スポーツ (nikkansports.com)

 

 

一律10万円の再給付「するつもりはない」 麻生財務相 - 産経ニュース (sankei.com)

 

 

麻生大臣を論駁するには量的金融緩和政策や日銀の国債買受、貨幣と国債の関係、通貨発行益などの仕組みを理解していないとできないのです。

 

菅政権はこれまで持続化給付金や雇用調整助成金、個人向けの住宅確保給付金、緊急小口融資制度の延長を行うなどの経済対策を打ち出してきましたが、こうした制度の対象から漏れてしまい、生活困窮状態に陥ってしまう人が出てくることが想像されます。最終的には生活保護という制度もありますが、利用しづらいですし一度それを利用してしまうと簡単に経済的再自立ができにくくなるという問題があります。だからこそ「定額給付金をもう一度」と言いたくなってしまうかも知れませんが、完全に所得や資産を失ってしまった人にとっては一回か二回限りの給付金ではとてもとても足りません。生活困窮者には定額給付金とは別の所得保障スキームを用意すべきではないでしょうか。

 

いまのドタバタした状況においては既に実施されている持続化給付金や雇用調整助成金、個人向けの住宅確保給付金、緊急小口融資などや、生活保護など他の社会保障制度を柔軟に活用して防貧や所得棄損者対策を行うしかないのですが、定額給付金にこだわるよりマイナンバー制度と菅政権の目玉政策のひとつであるデジタル庁を活用した給付付き税額控除制度の導入を目指すという道を考えた方がいいのではないでしょうか。

 

この給付付き税額控除は今回のコロナ禍や巨大災害、大きな経済危機、あるいは病気や怪我などによって著しく所得が激減してしまった人に還付金を支払うような形で税額控除や給付金支給を行う制度です。

 

この制度を活用すれば制度対象から漏れてしまっていた生活困窮者にも、給付金が自動的に振り込まれることになります。平時のうちにこの制度が整備してあれば昨年の定額給付金の手続きみたいなゴタゴタがなく、お金がもっと早く振り込めますし、厚生労働官僚や地方自治体職員の事務負担がうんと軽くなったのではないでしょうか。しかもこの制度であれば、高所得者層からはあとで税徴収する仕組みなので結果として必要な人に必要な分のお金だけ支給できることになります。前回の定額給付金はお金持ちに支払った分まで払いっぱなしでしたが、なぜ給付付き税額控除方式にしなかったのか不思議です。

 

自分はいまの菅政権が目指す縦割り行政解消や、デジタル庁創設、厚生労働行政改革といった動きにうまく乗る形で、多くの人が恩恵を受けやすい所得保障制度の導入を訴えることの方が得策であると考えます。


「新・暮らしの経済手帖」は国内外の経済情勢や政治の動きに関する論評を書いた「新・暮らしの経済」~時評編~も設置しています。

 

画像をクリックすると時評編ブログが開きます。

 

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

 

人気ブログランキングへ

 

バーチャルアイドル・友坂えるの紹介です