時評編のブログ記事でも書きましたが、先日令和2年10月14日に自民党内の政策勉強会である経世済民政策研究会が菅義偉総理大臣に緊急経済対策案を提出しました。この提言書はこの勉強会の講師として招かれた上武大学の田中秀臣教授とともにまとめられ、政府と日銀の連携強化によるいっそうの金融緩和政策推進や医療・福祉・観光・飲食・興業などコロナ禍で経済的打撃をうけた業種への支援などを盛り込んでいます。しかしネットやマスコミで一番大きく取り上げられ反響を呼んだのは定額給付金の再支給する提案でした。

 

 

勉強会メンバーの細野豪志議員や長島昭久議員がいうように、この緊急経済対策の提言書は給付金のことだけではなく金融政策や他の財政政策についても注目していくべきですが、今回の私のブログ記事は現金給付の話を中心に進めていきます。この勉強会の政策提言に関する総評は上の記事を読んでいただけたらと思います。

 

ネットやマスコミで盛んに伝えれた定額給付金の再支給ですが、私のようにそれを期待する声が圧倒的に多い一方で相変わらず財政規律のことばかりしか頭にない人たちや緊縮財政思考の強い人たちが給付金について文句をつけてきています。何度か申し上げてきたように、コロナ危機での財政出動は国債を財源にしており、それを日銀が買受することで統合政府的にみたら市中や海外への負債を増やさずに済んでいます。ただお金の量が増えるだけのことです。

どんどんインフレが加速している中でこうした財政調達の手法を用いてしまうとインフレがますますひどくなってしまいますが、著しい需要低下でデフレの再発すら進みかねない状況のなかでは逆にお金の量を増やす必要が強まるぐらいです。上の田中秀臣教授や高橋洋一さんの試算では失われている有効需要は40兆円もあります。提言書に書いてあるように最初すべて予備費を吐き出すためにひとり5万円あたりの定額給付金を出しても失われた有効需要を補いきれませんので、第3次補正予算でさらに追加の給付金を支給していかねばなりません。

にも関わらず給付金のバラマキをやると国家財政が破綻してハイパーインフレを引き起こしかねないとか言い続けているのですが、さらには国民に現金給付を行っても預貯金にまわるだけで消費拡大につながらないというような屁理屈も出ています。恒常所得仮説とかを引き合いに出して「消費に回らないから給付金は意味がない」とか言っていますが、今回の場合は急激かつ一時的な所得の激減に見舞われた人たちが多かったために支給された給付金です。これは一時しのぎであり、所得が激減している間のつなぎをするのが目的です。それなのに恒常所得仮説を持ってくるのはナンセンスな話です。定額給付金は景気対策であると同時に所得保障(補償)として実施されました。

 

自分が聞いたり読んだりしてもっとダメだと思ったのは定額給付金を全国民にバラ撒くよりも雇用保険や生活保護の改善で対応すればいいのにといった意見です。こういう人たちは今年4月~6月までの間の状況を忘れたのでしょうか?失業保険については完全に会社都合で解雇されてしまったとか、会社そのものが倒産・廃業してしまって失職した人には当然給付が行われています。しかしながら自営業やフリーの人で最初から雇用保険に加入してしなかった人で所得急減した人はどうするのか?あるいは解雇されていないけれども一時帰休とかパートやアルバイトの人はどうなるの?という問題が出ました。

生活保護を利用すればいいじゃないかという人に至ってはこの制度のことをまるで理解していません。生活保護を利用できる条件は誰からみても明らかにもう就労が不可能な状態で、さらに持ち家や自動車、貯金などの資産を全部処分し、他の社会保障制度を利用してもなお生活困難な事態になっていることです。コロナ危機という一時的かつ特殊な状況のときだけのために自分の家とか自家用車まで全部処分しないといけないのでしょうか?コロナ危機という事態において生活保護という制度は使いものになりません。何かにつけて「生活保護があるじゃないか」という人はそれを簡単に利用できる制度だと思っているのでしょうか?某市の福祉事務所職員ではないですが「HOGO NAMENNA」です。生活保護という制度はかなり切羽詰まった状況に追い込まれても簡単に利用できないものだと思っておくべきです。

 

そもそも安倍前総理がひとり一律10万円の定額給付金を全国民に支給することを決断した理由は国民や各事業者の所得状況を政府や役所が把握することが極めて困難だったことや、それをすることで役所内での感染クラスタが発生したり、役所の職員がウィルスに罹患するとか市民に感染を拡げてしまうような事態を招く恐れがあったからでした。にも関わらず迅速な給付が求められたのです。もうひとつは雇用保険や生活保護制度といった既存の社会保障制度は制度利用条件や対象者が小さく限られていて縦割り式であるために、コロナ禍で発生した広範かつ多様な所得急減という事態に対応できなかったのです。縦割り行政の解消を旗印に掲げる菅総理にとってもこの問題は無視できないでしょう。

 

今回コロナ禍で所得激減に見舞われてしまった人たちの事情や置かれている状況は千差万別です。細かく利用資格が決められ利用条件や制度対象者が狭まられている既存社会保障制度ではそうしたすべての人を救済することは完全に無理です。漏給を防ぐには10万円の定額給付金のように無条件支給というかたちを採るしかありませんでした。

 

そうはいっても「現金給付はほんとうに生活に困っている人だけに支給するべきじゃないか」「その方が困っているに手厚く給付できるのに」と思う人が多いでしょう。コロナ危機で失職したままだとか、収入が落ち込んだままだという人にとっては10万円の定額給付金は焼石に水です。ならば所得制限を設けて所得が著しく落ち込んだ人だけに一定以上の期間現金給付を続けた方がいいじゃないかということになってきます。

 

そこで出てくる案が給付付き税額控除制度という考えです。所得税の場合は現在の日本でも年末調整で税申告すると過剰徴収した分が還付金として戻ってきますし、確定申告のときも最初から基礎控除がついていてその分の所得は非課税となっております。しかし所得が極端に低い人は所得税非課税になっても給付があるわけではないです。給付付き税額控除は基礎控除以下の所得の場合、それを満たさない分が給付金として支払われる仕組みです。

現在の日本はマイナンバー制度が導入されましたが、歳入庁の創設までは実現していません。所得税や法人税、消費税、老齢年金や公的医療保険、介護保険などの社会保険料(税)の徴収が国税庁、厚生労働省などと管轄が分かれてしまっており、各税制や社会保険料の徴税は担当省庁がバラバラで行っている状態です。「クロヨン」とか「ゴートーサン」と呼ばれるように税の徴収漏れがかなりあると云われています。反対の給付も同じです。徴税には国民個人や法人の所得や資産状況に関するデータが必要で徴税を行う各省庁が別々に管理しています。ですので公正な徴税と給付がやりにくい状態となっています。これもまた縦割り行政の弊害といえるでしょう。菅総理がメスを入れたがる問題だと思います。

 

歳入庁の創設は過去にも取り沙汰され、民主党がそれをマニフェストに盛り込んだものの、官僚や一部既得権者などの抵抗が強く実現しませんでした。菅総理がデジタル庁の創設を目指していますが、これはサイバー歳入庁としての機能も期待できるものです。国民個人や法人の所得・資産状況を正確に把握し管理データを一元化することで税の徴収漏れを防ぐとともに、給付資格の有無も役所側が判断しやすくなります。歳入庁が存在したならばもっと円滑に公正的確な現金給付ができていたことでしょう。


今年のコロナ経済危機は特別定額給付金や持続化給付金などといった特別措置で対応しましたが、今後も巨大な自然災害や深刻な経済・雇用危機がいつ発生するか予測できません。泥棒をみて縄をなうみたいなことにならないように、現金収入が著しく落ち込んでしまった人に自動的に現金が給付されるような仕組みがあった方がいいでしょう。生活保護制度のように行政の選別性が強すぎて利用申請がものすごくやりにくい制度では緊急時に対処できません。

 

給付付き税額控除と似たアイデアですがベーシックインカム導入の話が再浮上した理由も生活保護制度など既存の社会保障制度があまりに硬直的すぎてコロナ危機に対処できなかったという反省から出てきたものだとみてもいいでしょう。ただしベーシックインカムについては予算規模がかなり大きく、税制と既存社会保障制度の見直しが不可避です。いまの時点で導入は極めて困難だと思われます。そこで既に他国でも既に導入されている給付付き税額控除という制度をベーシックインカムに先行するかたちで導入するという案が出てきます。この制度ならば財源規模はさほど大きくなく数兆円程度でも実現できそうです。先の歳入庁創設で税の徴収漏れを防ぐことでも数兆円程度の財源が確保されると期待されます。

 

どういうわけかベーシックインカムの導入には反対するけれども、給付付き税額控除には賛成という人が結構いることも確かです。まずはベーシックインカムよりも給付付き税額控除の実現を目指した方が手っ取り早いのではないでしょうか。

 

経世済民政策研究会のメンバーである三宅伸吾議員は今回『社会保障給付の情報基盤の整備』について提案し、菅総理も非常に前向きな姿勢をみせたといわれます。三宅氏の提案内容を詳しく知りませんが、マイナンバーとデジタル庁を組み合わせた給付付き税額控除実現へとつながる動きだと期待できそうです。

三宅伸吾議員と菅総理

 

最後に元参議院議員の金子洋一さんが提案されていた給付付き税額控除制度の案についても紹介しておきます。

http://blog.guts-kaneko.com/archives/936

 

 

 

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