ベーシックインカムの話になって申し訳ありませんが、未だにこれについて気になるネット上の発言が次々と出てくるので今回も書かせていただきます。ベーシックインカム構想についての誤解やいまの社会保障制度に対する無理解と無関心のひどさ、コロナ禍での経済危機への対応として安倍前政権時代に決行してくださった国民全員に一律10万円の特別定額給付金とベーシックインカムとの混同を無視することはできません。

 

先に私の意見を申し上げますと、菅政権も特別定額給付金の第2弾を実施してほしいと思っていますし、ベーシックインカムについてもいまのコロナ危機が落ち着いてから導入議論を深めてもらいたいです。

とはいえど両者を混同してしまって、同じ制度主旨や制度設計、財源だと思ってしまうことは非常にまずいです。無選別で国民に全員一律で現金を給付するという意味では同じ政策に見えてしまうかも知れませんが、両者は違う政策だと切り分けて理解してほしいと私は要望します。一部マスコミや学者などからコロナ危機を契機にベーシックインカム導入を真剣に検討すべきだという提言が出てきていますし、例の竹中平蔵氏も「今がベーシックインカム導入の好機」とおっちょこちょいなことを言い出していますが、私はコロナ禍や大規模自然災害、恐慌などの経済危機といった有事の場においてベーシックインカム導入の議論をすることは決して適切であると思っていません。これは平時に落ち着いて議論すべきことです。今政府がすべきことは経済的に困窮している人や企業にいち早く生活費の補償や補助金を行き渡らせ、生活や事業再建を促すことです

コロナ特別定額給付金とベーシックインカムの根本的な違いは何でしょうか?それは前者が緊急時の経済対応として単発的に行われているもので、後者は平時を含めた国民の最低所得保障として恒久的に給付を継続していくものです。当然のことながら財源もかわってきます。

コロナ特別定額給付金の財源は国債や通貨発行益です。しかしながらベーシックインカムのように毎月毎月国民全員に同じ金額を給付し続ける恒久的政策については国債や通貨発行益を主財源にすることはできません。年金や医療費もそうですがベーシックインカムの主財源は所得税などの税収となります。

 

こういうとベーシックインカムの主財源をなぜ国債にしてはいけないのかと思う人が多いかと思われます。ベーシックインカムの進言を行っている井上智洋さんや森永卓郎さんだって国債や通貨発行益をベーシックインカムの財源にすればいいと言っているじゃないかと言いたくなるでしょう。しかしながら国債や通貨発行益を活用した財政出動は

  1. 1年か2年間程度の急激な経済落ち込みや戦争、自然災害、疫病蔓延などによって短期間のみ極端な歳入減・歳出増加が起きたとき緊急回避的に財源不足を補う必要があるとき。
  2. 深刻なデフレ(物価下落)に見舞われているとき
  3. 将来世代に投じた財政支出以上の大きな資産や受益という収穫(hervest)が見込まれる公共事業や科学技術振興、教育などへの公共投資(invest)として行うとき
  4. 巨額の税負担を一部の世代だけではなく何十年あるいは百年以上の期間に渡って分散した方がいい場合。(「大岡越前」の五貫裁き)

といった条件のときに適切です。

 

今回のコロナ危機や東日本大震災レベルの自然災害などではこの手がうってつけです。高橋洋一さんの動画で説明しているとおりです。特別定額給付金の財源も国債発行と日銀買受で調達されました。

 

ところがベーシックインカムや年金、医療費は毎年毎年、景気不景気あるいはインフレ・デフレに関係なく毎年、毎月決められた額を国民に給付し続けないといけないもので恒久的な財政支出です。一部でベーシックインカムに限らず年金や医療費も国債を財源にして税や社会保険料負担を減らすべきだという発言をする人がいますが、そうなると毎年、毎月国家財政の赤字がどんどん膨張し続けることになります。コロナ危機やリーマンショック、東日本大震災のときの財政出動は巨額ですが、せいぜい単年度とか二か年度だけのことです。国家財政という風船玉に空気を吹き込めば膨らみますが、途中でそれをやめれば風船玉は割れることがありません。しかし次から次へと空気を風船玉に吹き込み続けると破裂します。国債や通貨発行益でベーシックインカムやら年金、医療費などの財源を賄えばいいというのはそれと同じです。

 

上の高橋洋一さんの動画でも「(日本銀行が)国債を買いすぎるとインフレになっちゃうんだけどインフレにまだなっていないから」「インフレになったら決定的にダメということはないけれども、20%、30%のインフレになったら困るでしょ?物価が上がりすぎると給料がついていけなくなるから、そこまでになっちゃいけない。凄いインフレはダメ」というようなことを仰っています。深刻なデフレ不況が続いている間は国債や通貨発行益でどんどん積極的に財政政策を進めていいけれども、日本国内の生産力や供給力が追い付かないほど需要が膨張してしまったら財政支出を止めないといけません。

 

先に述べたようにベーシックインカムや年金とか医療費は毎年毎月決まった額の給付をし続けないといけないものです。インフレになったからそれらの給付をやめますということができるでしょうか?まずできないでしょう。インフレになろうが好景気になろうが病気やケガをする人は絶えませんし、BIならびに公的扶助や年金がないと生活できない人は存在します。

MMT(現代貨幣理論)はデフレや不況下では政府が財政赤字を発生させ、逆に景気が以上加熱したりひどいインフレになってきたときは租税強化や財政引き締めでそれを抑え込むというアバ・ラーナーが提唱した機能的財政論を採択しています。上の高橋洋一さんが仰っていることと同じじゃないかと思われるかも知れませんが、財政政策だけで景気や物価、雇用の動きを統治しようというのは無理です。その理由のひとつが急激な物価上昇が発生したようなときに、時間がかかり混乱が予想される国会審議を通して、それに対応できるかというとやりにくいでしょう。とくにベーシックインカムや年金、医療費の給付額は可変させにくいです。ですのでこれらの恒久的な政策や制度は毎年得られる税収や社会保険料を財源に給付し続けていくべきものです。

 

コロナ禍で行った特別定額給付金はベーシックインカムというよりもヘリマネ給付金に相当します。急激に所得を失ってしまった人たちへの緊急的な所得補償のひとつでありますが、経済政策の一環という意味も含まれます。ベーシックインカムの場合は経済政策や景気対策というよりその動向に関係なく続ける恒久的な最低限の生活保障であり、高所得者や高収益をあげる企業から低所得者への所得再分配政策です。政策や制度の設計思想や財源が異なるというのはそのことです。

 

こうした政策の使い分けができない人たちが、特別定額給付金からベーシックインカム、あるいは年金や公的医療保険まですべて混ぜこぜにしてしまったことで、議論が混乱してしまっています。例の竹中平蔵氏のベーシックインカム提言を「社会保障費削減が目的ダー」「緊縮シバキ主義者メー」「弱肉強食の新自由主義ダー」と騒ぎ立てたり、逆にベーシックインカム擁護をしていても税収ではなく国債やら通貨発行益で財源を賄えばいまの社会保障給付を全部のこしたままベーシックインカムを導入すればいいのだなどという横着な発言をする人たちはどちらも実は同じ穴の貉です。とにかく国はもっと借金を増やせだの金を増やせということしかできない幼稚な人たちだといえましょう。こうした人たちに限って「経世済民」だの庶民のためだのと口にしますが、いま生活保護を利用している人たちとか、それすら利用できずおそろしく低所得で生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている人たちのことをどれだけ考えているのか常々私は疑問に思います。こういう人たちに限って今の社会保障制度のしくみを理解しようとしていません。

 

話を戻しましょう。

そもそもこの時期になぜベーシックインカムの話題がまた出てきたのでしょう?それはもちろんのこと10万円の特別定額給付金が期間限定のベーシックインカムように見えたからだと思われますが、先ほど申し上げたとおりこの給付金はいきなり無収入や所得急減に陥った人たちが広範に発生し、迅速にその人たちにお金を配る必要があったのが実施理由です。

しかしながらベーシックインカムは制度に対する誤解や偏見がひどく、おまけに既存社会保障制度のことをよく理解していない人があまりに多いために、その議論は混迷し続け実現に漕ぎつけることは期待できないでしょう。絵にかいた餅みたいなのがベーシックインカムです。

 

2020年10月現在おいてコロナ禍による経済低迷や雇用再悪化によって経済的苦境に立たされている人たちが大勢います。その人たちにベーシックインカムの実現が待てるでしょうか?その導入議論をゴタゴタ続けている間に破産したり自殺する人たちが数えきれないほど出てくるでしょう。私は今の時点においてベーシックインカムの導入議論をするよりも、菅政権にもう一度特別定額給付金の支給を求めるなり、苦境に陥った企業を救済するなりすることの方が大事だと思います。

 

コロナ禍が完全に落ち着いても、再び大規模の自然災害に見舞われたり、大きな経済ショックが発生する危険性が十分にあります。それによって突然の所得喪失や急減に見舞われた人を迅速に救済するための手立てとして、マイナンバーを活用した給付付き税額控除という案があります。

生活保護の利用を申請する場合、重い障碍などで誰がどう見ても就労が困難な状態で、さらに家や自動車などといった資産をすべて処分し尽くした後でないと福祉事務所が保護開始を認めません。例えば病気や怪我、倒産、失業などで所得が急減あるいは無収入になったとしても生活保護が使えるわけではないのです。短期間だけの所得急減に生活保護制度は対応できません。そこで出てくるのが給付付き税額控除です。これですと何らかの事情で一時的に所得を失ったり減らしても、所得申告さえしておけば自動的に現金給付が行われます。数か月とか一年程度の減収でも対処してもらえることになります。これなら社会復帰や経済的自立の妨げにならないでしょう。この制度ならベーシックインカムより手っ取り早く導入ができますし、今回のコロナ危機や大規模自然災害などといった有事が発生した場合にも対処できます。

 

私はここ数か月常に申し上げていることは、いまの時点で最も危急を要し対処すべき問題を優先して解決させることの必要性です。正直申し上げてベーシックインカムの議論は決して優先順位が高い事柄でないと私は思います。今やるべきは特別定額給付金の再交付や苦境に陥った民間事業者を支援するための財政政策です。

 

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