中田敦彦氏の「Youtube大学」にて公開されている「緊急提言 国債で減税していいのか 金融財政が抱える”難病” アベノミクスとMMTの功罪」という動画とMMT(現代貨幣理論)に関する批判記事で本編第二回目です。
https://www.youtube.com/watch?v=g1yMZxeqiCk&t=3683s
中田氏はリフレーション政策の考えを採り入れた第二次~安倍晋三政権による経済政策パッケージ”アベノミクス”とMMTを混同し、デタラメな経済提言を行っています。中田氏の間違いはかなり深刻なものであり、筆者としては看過できず記事を書いています。
筆者は第二次安倍政権発足前よりリフレーション政策の導入による長期デフレ不況からの脱出を求めていました。これは完全にデフレ不況を脱出するまでの間、大胆な金融緩和政策と積極的財政政策を徹底して続けるというものです。アベノミクス以前にもゼロ金利政策や小泉政権+福井俊彦日銀総裁時代における量的金融緩和政策が実施されてきましたが、完全にデフレ不況体質から脱出するまえに緩和解除を行って、再び経済失速するという過ちを繰り返してきました。アベノミクスの異次元金融緩和政策はインフレターゲットを導入して需要活性化による2%の安定的物価上昇に達するまで金融緩和を継続するというコミットメントを加えたものです。
ここで金融政策とはどういうものなのかという話をします。
金融政策とは政策金利を上下させて、民間の投資意欲・生産活動意欲を調整することです。これによって景気と雇用の安定を計ります。ここでいう投資とは民間企業がモノやサービスの生産活動を行うために原材料を購入したり、工場や店舗などの設備を整備したり、従業員を新たに増やすといった支出をすることや個人が住宅やクルマを買ったり、学費を払って資格を取るといったことになります。投資は英語でいえば"invest"であり、より大きな収穫"Harvest"を獲るための種まきということになります。
アベノミクスの異次元金融緩和政策で目指したのは民間企業を中心にこれまで貯めこんでいたお金を生産活動への投資という形でどんどん遣わせることで市中に循環させることです。中田氏が言っているようにトリクルダウンではありません。「太陽政策」で企業から市中へお金を吐き出させるものだと考えるべきでしょう。
適正な金融政策、すなわち金利設定はどうするべきでしょうか?
それは民間の投資意欲や景気・雇用・物価状況を鑑みて行うべきです。不況で民間企業の事業活動が萎縮していたり、景気や雇用が芳しくないときは政策金利を下げることで資金調達コストを下げてやります。逆にバブル期のように景気が過熱し、乱暴な乱脈融資や乱脈投資が繰り広げられ、物価上昇が止まらないようなときは政策金利の引き上げで投資意欲を抑制します。スウェーデンの経済学者=クヌート・ヴィクセルのいう自然利子率に上手く政策金利を合わせることがセントラルバンカーの腕の魅せどころでしょう。
参考
野口旭
「MMT(現代貨幣理論)の批判的検討(3)─中央銀行無能論とその批判の系譜」
https://www.newsweekjapan.jp/noguchi/2019/08/mmt3.php#google_vignette
ここで強く注意しておかねばならないのは中央銀行の金融政策は為替操作や財政のバラ撒きのためにやっているわけではないし、やってはいけないということです。この二つの間違いを中田氏とMMTerは犯しています。そして二者で共通することは金融政策が景気と雇用に与える力はほとんどないという認識を持っており、それは異次元金融緩和の抵抗勢力であった日銀守旧派官僚や金融機関関係者、マスコミと同じものです。(いわゆる「日銀理論」というもの)
まず中田氏の方からですが動画内で「ゼロ金利というのは、お金を借りやすくするということでは、あまり効果がなかったんですが、この国債を刷りまくるということに対しては効果があった。」「アベノミクスが円安を進行して金融政策の利下げゼロ金利で景気を良くしようとした。デフレを脱却しようとした。ですがそのお金はどこへ行ったのか。大企業と銀行だけでした。銀行に潤沢にお金を渡したのに誰も借りようとしませんでした。」と言っています。その一方で中央銀行が金利の上げ下げで景気にアプローチできるといった矛盾した説明も行っています。
実はこの中田氏の説明はMMTerのアベノミクスや異次元金融緩和政策批判と同じです。そしてアベノミクスに抵抗してきた日銀守旧派官僚の言い分でもあります。
下は筆者がかなり以前に作成した図表で中央銀行が市中銀行に積み上げたマネタリーベースが民間への融資によって市中へマネーサプライとして行き渡る流れを説明したものですが、MMTerたちや日銀理論を支持する反アベノミクス派たちは中央銀行がマネタリーベースをブタ積みし市中銀行に融資させようにも民間が資金を借りようとしないからマネーが供給されないという批判をしました。
リフレーション政策の導入を進言し続け、後にアベノミクスが始まると共に日銀副総裁に就任された上智大学教授(当時)の岩田規久男氏と日銀官僚である翁邦雄氏がマネーサプライに関する大論争を展開したことがあったのですが、翁氏も民間の投資意欲が減衰し信用乗数が著しく低下している中でマネタリーベースの積み上げをやってもマネーサプライを増やすことはできない。中央銀行は市中が必要とするだけのマネーを受動的に供給するだけであると岩田氏に反論しました。これはMMTerの金融政策無効論と同じものです。筆者は積み上げたマネタリーベースがすべてマネーサプライとして市中に出ていかなくても問題はないと考えています。信用乗数についてもどうでもいい話だと思っています。積み上げたマネタリーベースはダムの貯水と同じで、貯水率が高ければ下流の人たちが水不足を心配しなくても安心して水が使えるのと同じであると考えています。
コロナ危機で再認識させられた量的金融緩和政策の意味 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~
信用乗数に関する話です。
マネタリーベースとマネーサプライの関係 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~
アベノミクスやリフレーション政策の目的は雇用の安定と拡大です。その成果はきちんと出ていました。
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いずれにしても中田氏・MMTer・日銀守旧派たちは金融政策の雇用や景気に対する影響力を過少評価しすぎており、このことは不適正な金利設定によって不況や雇用難に陥ったときに対処できなかったり、逆にバブルのような事態が起きてもそれを放置してしまう危険性を孕んでいます。
中田氏はアベノミクスの目的は輸出企業を儲けさせるための円安誘導であると説明しますが、これは大きな間違いです。冒頭で述べたように金融政策は為替操作ではありません。先ほどの岩田規久男氏らをはじめとするリフレ派といわれる経済学者たちも量的・質的金融緩和の波及経路のひとつとして円高是正による輸出増加や企業収益の向上を挙げてはいますが、中田氏のようにそれが主目的であると見てはいけません。主要波及経路は設備・住宅投資の増加に伴う雇用需要増加であると考えるべきです。
為替操作を目的に金融政策を行うと、企業活動を冷やし込んで雇用を悪化させたり、逆に企業がさほど収益が望めないような事業にまで過剰投資を行ってバブルを発生させる危険があります。その失敗例が1980年代プラザ合意後に起きた円高不況への対応で行き過ぎた金融緩和を行ってしまい、バブル景気を過熱させてしまった澄田智日銀総裁です。ちなみにこの当時岩田規久男氏は逆に日銀に対し金融緩和政策が過剰であるという批判をされています。金融政策の目安はあくまで国内景気と雇用、企業の投資意欲を見計らって行うべきなのです。
あと中田氏が行っている説明で日銀が金利を上げられないのは政府が発行した国債の金利が上がってしまい、財政悪化につながるからだというものがありますが、これもデマです。アベノミクスで低金利政策を続けた主目的はあくまで中小企業や事業を立ち上げて間もないベンチャー企業を含めた民間企業の金利負担を下げるためです。政府の財政のためではありません。というかそういうことをする必要性もないです。政府が発行した国債の買い手は日銀が多くを占めています。仮に国債金利を上げた場合は確かに政府から日銀への利払いは増えますが、それはまた日銀から政府への国庫納付金として戻ってきます。さらに日本政府の場合金融資産を多く保有しており、その利息収入も入ってきます。
(一部用語の間違いがあります)
第二次安倍政権以降は税収増によって少しづつですがプライマリーバランスの収支も改善されていました。日銀が急速な利上げをしないのはそれによって中小をはじめとする企業がバタバタ倒産し、雇用が急速に悪化するような事態を避けるためです。筆者は植田和男現日銀総裁に批判的ですが、いくら彼でもそういう馬鹿げたことはしないでしょう。
このブログにおいて深刻なデフレ不況におかれた状況ならば政府が国債を発行し、それを中央銀行が引き受けて貨幣である中央銀行券を発行し、財政政策を行う手法があることを紹介したことがあります。量的金融緩和のときに中央銀行内に設けられた市中銀行用の当座預金口座にマネタリーベースを積み上げるときもこの手段を用いています。
量的緩和政策による財政ファイナンスと大型財政出動 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~
リフレーション政策で相互補完する金融緩和と財政政策 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~
しかしながら筆者はMMTerらの「金融政策で国債金利をゼロにペッグさせればどんどん財政支出を拡大できるのだ」「どんどん国債を発行すれば逆に国債金利が下がるのだ」という発想については賛同できません。ニューケインジアンの経済学者であるポール・クルーグマンとMMTの代表的論客のひとりであるステファニー・ケルトンが大論戦を繰り広げたこともあります。
MMT(現代貨幣理論)とリフレーション政策の違いは何か? | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~
下は野口旭先生(現日銀政策委員)がNewsweekで書かれたMMT批判の記事(MMT(現代貨幣理論)の批判的検討(4)─クラウド・アウトが起きない世界の秘密|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)から拝借したものですが、リフレ派を含めた通常の経済学者たちは左図のように財政拡大をした場合、金利はr0からr1へ上昇すると考えますが、MMTerたちは右図のように金利をゼロ(r0)に固定すればいいと考えます。
この発想がまずいのは経済状況が完全にデフレ不況を脱し、完全雇用を達した後もゼロ金利を続けることで、景気の異常過熱やインフレ、そして澄田総裁時代の日銀のようにバブルを発生させかねないことです。
中田氏のように円高にするために金利を上げろという発想も、MMTerのように好き放題財政支出を拡大したいから国債金利をゼロにペッグさせろという発想も、金融政策の基本や本道から外れた暴論に他ならないのです。
もし中田氏の提言をそのまま受け入れたら、海外の原油や食糧品高、そして気候変動を起因とする国内産の農産物の不作を原因とするコストプッシュインフレを解消できないまま雇用と景気を悪化させ、国民生活をますます厳しいものにしてしまう恐れがあると筆者は想像します。またMMTerたちの国債金利ゼロペッグは金融政策の悪用といえるものです。
なお中田敦彦氏の動画については次の動画においても批判しています。筆者と違う斬り口ですのでご覧ください。
中田敦彦は増税論者!法人税増税はいらない!〈第24回:減税!社会保険料引き下げの本当の話〉 #減税TV #石川まさとし #金子洋一 #名嘉眞要 #東徹
中田敦彦は増税論者!法人税増税はいらない!〈第24回:減税!社会保険料引き下げの本当の話〉 #減税TV #石川まさとし #金子洋一 #名嘉眞要 #東徹
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