(私は、被乗数に助数詞を付けて名数にすることで、被乗数と乗数は種類の違う数ということをはっきりさせることがありますが、助数詞を付けなくても以下のように議論ができます。)
と表すと、多分多くの人が違和感を感じると思う。
違和感が生じるのは、掛算の二つの2を同じ●●で表すところだと思う。(私は、そう) 【後註1】
足し算の二つの2と掛け算の内の一つの2は、何を1とした2かと言うと、●を1として数えた2です。しかし、掛け算の残りの2は、●●の集まりを1として数えた2です。前者の掛け算の2は被乗数と呼ばれ、後者の2は乗数と呼ばれる。被乗数と乗数の違いをはっきりさせるために、
(●●)+(●●)=(●●)×2
と書けば、違和感は減るでしょう。右辺の(●●)が被乗数で、×2の2が乗数です。(もちろん、
(●●)+(●●)=2×(●●)と書いても可です)。
加減数と被乗数を( )の中に入れて表すと、●●●+●●●は、(3)+(3)、あるいは掛算で (3)2または2(3)と表せるし、 (x)をy個加え合わすことを、(x)+(x)+…+(x) あるいは(x)yまたはy(x)と表せる。
この表記を使えば、乗法の交換法則(普通はxy=yxと表す)の証明は、次のようになる。
(x)+(x)+…+(x)
= (x)y
=((1)+…+(1))y
=(y)+…+(y)
= (y)x
つまり、(x)y= (y)x 【後註2】
交換法則xy=yx は、(x)y= (y)x となり、(x)y=y(x)ではないことになります。
( )を使う流儀は、被乗数・乗数の別を左右の位置の違いで表すのではなく、( )の有無で表すため、交換法則(x)y= (y)xは、(x)y=x(y)とも表せます。こう表わすと、交換法則が示しているのは、一つの数を被乗数とすることも乗数とすることも出来るということで、別に被乗数・乗数の別が無くなるわけではなく、x 、yのどちらかが被乗数とか乗数になるわけではないので、因数と呼ぶということが分かります。
一方、(x)y=y(x)という式は、(x)をy個加えることを二通りの式に表せることを示しています。この式は、数学では伝統的に交換法則とは呼ばれることはなく、敢えて言えば、同一事態を表わす異なる式ということになるのでしょうが、被乗数×乗数の順で書く流儀が大勢を占めていた時代では、そもそもy(x)という書き方が認められていなかったということになります。
以上の流儀は、被乗数に助数詞を付ける代わりにカッコで括った(括っただけとも言える【後註3】)わけですが、カッコを使う以外に、数字は、ローマ数字とインドアラビア数字で区別し、文字は、大文字と小文字で区別するという流儀も考えられます。
Ⅳ×2=Ⅷ、3×Ⅴ=ⅩⅤ、Ⅵ÷Ⅲ=2、Ⅵ÷3=Ⅱ
などと、かなりのところまでは計算はできるようだが、煩雑になるのは避けられない。
冒頭で触れたように、被乗数と乗数は、単位1とするものが異なるのに、その違いを意識することなく、小学校以来ずっと計算してきて、それで支障が生じなかったというのは、あらためて考えると不思議な思いに囚われます。
【後註1】
●●=●●×● と書けば、違和感はもっとはっきりする。
しかし、こういう書き方に違和感を感じない人もいる。R.クーラント、H.ロビンス共著『数学とは何か』(森口繁一監訳)3頁には次のようにあります。しかし、これに違和感を感じなくなることが、数学が分かるようになることではないようです。
【後註2】
交換法則の証明を、被乗数と乗数の区別にカッコを使わないと、次のようになる。
x+x+…+x
= xy
=(1+…+1)y
=y+…+y
=yx
つまり、xy=yx。
こう書くと、xのy個の累加で定義した2行目の式(被乗数x×乗数y)から、4行目の式が等式変形で導かれるということ、
xy=y+…+y
は、(被乗数x×乗数y)の式が、乗数yの被乗数個x分の累加(乗数y×被乗数x)として表されているわけで、(被乗数x×乗数y)=(乗数y×被乗数x)の証明ではないのかという疑問が、やはり生じる。
xyの代わりにabを使い、被乗数を大文字とローマ数字で、乗数を小文字で表すと、
A+A+…+A
= Ab
=(Ⅰ+…+Ⅰ)b
=B+…+B
=Ba
つまり、Ab = Ba。
2行目と4行目を見れば、
Ab=B+…+B
だから、(被乗数A×乗数b)=(乗数b×被乗数A)の証明になっているのではないかという疑問は生じません。
【後註3】
2×3を、2(3)、または、3(2)、とかく方式は、次のような展望も開ける。
2×3×4を、2(3(4))、または、4(3(2))、と書けるし、
1×m×nを、n(m(1))と書くと、m、nを関数や写像と看做せる。