第2回メタルファンの集い(後編) | 僕のメタル学習帳

第2回メタルファンの集い(後編)

高まる胸の鼓動。
…落ち着け、練習どおりやればいいんだ。
2次会直前、一人アスリートのように集中力を高める俺。

皆がリラックスした表情で席に座る。
しかし、俺にとってここは戦場。
「油断するな、皆の笑顔は般若と思え。

自分に言い聞かせ、メニューを開く俺。

今回の2次会、自分なりにOzzy等の武器は持ってきたが、
他のメンバーに比べて武器の種類や数が見劣りすることは否めない。
武器を使用するタイミングが重要である。

今回の基本的な作戦は以下のとおり。
① 基本的に目立つことはせず、飲み会でよくある光景に同化する。
② 自分の武器が使えるポイントでは、身を乗り出してアピール。
③ 発言の順番が回ってきた時は、残酷なまでに自分の知識を投下する、遠慮はしない。
④ 発言する際は、早口にならぬよう留意。ゆったり喋ることにより、言葉に奥行きを持たせる。
⑤ 皆が自分をリスペクトしても、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の精神を忘れないこと。

          *          *          *

「何飲もうかな?」
「うーん、どうしよう…」
迷うメンバー達。
そこへメニューを持った店員が鋭くカットイン。
「珍しいお酒も幾つか入ってますが、如何ですか?」
「お!赤霧島のボトル!珍しいな!」叫ぶ総長。

…この空気…ボトルオーダーが決定しそうである。
よし、この流れを利用してやろう。
俺は心の中で、自分がボトル管理者となることを決意した。
ボトル管理者になれば、皆が会話している間も、空いたグラスに酒や水を注ぐ等の作業で、自分が会話に参加しなくても、何ら不自然ではない。
まさに、上述した①の作戦が実現できる。
更にこの作戦、ボトルを飲む人数が多ければ多いほど効果が高い。
…もう一押しだ…。俺は不自然に思われぬよう注意を払い、皆に訊いた。
「男性はみんなボトルでいいっすかね?」

次々と頷くメンバー達を見て、笑いをかみ殺す俺。
しかし、次の瞬間、NG氏の無慈悲な発言に俺は耳を疑った。

「俺、グレープフルーツサワー。」

…おかしなことを言う人がいるもんだ。
明らかにこの流れは、みんなでボトルを飲もうといった流れじゃないか。
すかさず総長も突っ込みを入れる。

「え、焼酎飲まないの?」

いいぞ!もっと言ってくれ!
全力で頷きながら総長に同意し、NG氏を睨みつける俺。
そして、俺も総長サイドに付き、焼酎を勧める。
「飲みましょうよ!飲みましょうよ!」
「いや、僕はサワーで。」

やれやれ、皆さんも何か言ってやって下さいよ、という顔で皆を見まわす俺。
そして、総長が口を開いた。…ガツンとお願いしますよ、総長。
「ま、いいか。」

!?
仕事ではあんなに押しが強いのに、もう引いてしまわれるのですか?
ほら…同じ酒を飲んで、メタルファンの結束を強めようとか…こう…いろんな理由があるじゃないですか…。

畜生…。
俺は、心の中を読まれている気がしてNG氏を見た。
…メガネ越しの彼の眼が暗く光るのを俺は見逃さなかった。

          *          *          *

飲み物が運ばれてきて20分ほど経っただろうか。
ボトル管理者の俺を差し置いて、次々とメンバーの水割りやロックを作る総長。
俺はといえば、マドラーを持ってあたふたするばかり。

「総長は働かなくていいっすよ!」

…言えない。突然こんな発言をしても、あまりに不自然である。
気付かぬうちに、俺はボトル管理者からマドラー係に格下げされていた。

そして、そんな俺に追い打ちをかけるように、左側から心無い言葉が飛んできた。

「アボカド食います?あはっ、アボカド食いますか?あはは!」

前回の集い で、アボカドを食えず涙した俺への侮辱!許せねぇ…誰だ!?
左を見ると、ニヤニヤした顔で、アボカドサラダ的なものを手に持つMK氏の姿…。
…君は…入口のメタル冷蔵庫の会話で理解しあえた筈じゃ…。
あまりのショックに言葉も出ない。俺は、アボカドを貪り食った。

          *          *          *

更に数十分後。
他のメンバーが1次会の話題に華を咲かせている横で、静かに飲み続ける俺。
しかし、予想していた通り、皆の会話はこの「メタル学習帳」の話題へ移った。

「レビューを見たけど、ヒロイデンはイントロに厳しすぎるよね。」
「本当は、皆に気を遣って書いてるんじゃないの?」
「メタルは奥深いから、これからのレビューが楽しみですね。」
この流れは悪くない。

「ですね。」
「そうっすか?」
「いやいやいや…。」
「う~ん…。」
といった曖昧な肯定・否定の言葉を駆使し、会話を少しずつ盛り上げる俺。
このまま盛り上がってきたところで、Ozzy、Judas、MSG、Dokkenの知識や好きな曲を挙げれば、「彼、割と出来るよね」的な雰囲気になる筈である。

でも、最初のレビューがDokkenってのはねぇ…。」
…あれ?なんか、否定的な聞こえ方をしたけど…気のせいだろう。

「Dokkenから入っちゃったよ、って話してたんですよ~(笑)」
「…ちょっと懐かしすぎるんだけど(笑)」
皆が邪悪な笑顔で俺をチラ見しつつ笑っている。

何かがおかしい…。
俺の持っている数少ないメタルのCDでも、最もジャケットがメタルっぽいのを選んだはずじゃないか。
何がおかしいんだ?
俺は勇気を振り絞って訊くことにした。

「何か…変でしたか?メタルですよね、Dokkenって…。」
「勿論メタルだけどさぁ…ウフフ。アハハ。」

最初にDokkenをレビューした俺をネタに盛り上がる一同。
…笑われている理由が分からない。
しかも、その理由を教えてくれる様子も無い。
皆の冷笑には「獅子は千尋の谷へ我が子を落とす」的な温かみは無かった。
これを世間一般では「苛め」と呼ぶ。

このまま馬鹿にされたままで終われるものか…。
窮鼠と化した俺は最後に一矢報いてやろうと、皆が喰い付きそうなな話題を提供した。
「でも、Ozzyは本当にカッコいいですよね。鶏とか食いちぎるし!」
「…うん、そうだね。」
「そうなんですよ。」
「……。」

…俺の放った矢は当たらずにどこかへ消えた…。
そして飲み会は終了した。

唯一楽しかった思い出…IH氏とメタルの語源で盛り上がれたこと…
この思い出一つで、年を越せるのだろうか。
そんな不安が残る中、俺は戦場を後にした。