第2回メタルファンの集い(前編) | 僕のメタル学習帳

第2回メタルファンの集い(前編)

金曜夜9時。ようやく今日の仕事も終わった。
同僚達と、最高の週末を過ごすことを誓い合い、オフィスを後にする俺…。


寒い…。
当たり前だ、もう12月中旬なんだから。
しかし、コートは着ない。いや、着てはいけない。
何故なら、熱いソウルを持った熱いメタルファンの熱い皆さんが俺を熱く待っているから…。


そう、今日は第2回メタルファンの集い。
既に19時から始まっており、彼等の興奮は、今まさにピークを迎えようとしている筈だ。
やることはやった。逃げちゃダメだ。
そう自分に言い聞かせ、タクシードライバーに行先を告げる。
そして、タバコを取り出し火を点け…てはダメだ。
今、東京のタクシーは全て禁煙だ。
しかし、ここで火を点ける等のアウトローな行動に出れば、俺もメタルファンの集いの中でランクが上がるかもしれない…と悩んでいるうちに、会合場所の銀座パセラに到着。


今回の会場は完全個室でAV設備も整っている店である。
前回、普通の飲み屋でメタルミュージックを流すという暴挙に出た彼等も、僅かながら「社会性」という言葉を忘れていなかったようだ。


さあ、入ろう…と思ったが足が動かない。
怖いのか?…そんな自分に皮肉な笑いを浮かべつつ、足を2発、3発と殴り、ここ数か月間の自分の努力を思い出す。
メタルのCDを数枚聴いた。レビューも書いた。アーティストのプチ情報(コウモリとか鶏とか)も覚えた。
前回よりは、かなり会話に食い込める筈だ。もうアボガドはいらない。


再度、自分の武器を確認する俺。
・Ozzy Osbourne
・Judas Priest
・Michael Schenker Group
そして忘れてはならないDokken。
この辺の話に持ち込めば俺の勝ちだ。


ふと気持ちが軽くなり、足が動く。
やってやる…やってやんよ!
勢いよく個室のドアを開ける俺に注がれる皆の死線、いや視線。
「お疲れ様!」等の嬉しい労いの言葉が皆から投げかけられる。
今回から参加されているIH氏も温かく迎えてくれた。
歓迎ムード一色である。
そして、コーナー状のソファーの真ん中に通される俺。


メタルファンって本当にいい人達ばかりだな。
こんな俺に優しくしてくれるなんて。
落涙しそうだ。
タバコを吸ってごまかそう。
「Smoke Gets In Your Eyes」作戦である。


そして乾杯。注がれたビールを口に流し込む。
うまい。温いビールは冬にぴったりだ。


暫くこの余韻に浸りたい…。


…総長が立ちあがった。
「何で遅くなったの?仕事は大変なの?」
…なんて質問が飛んでくるのかな…と思いきや、何故か総長は俺に背を向け機材をいじり始めた。


流れる爆音。どうやら予め準備していたCDを流しているようだ。
「分かるかな、この曲?」
不覚!
完全に安心しきっている俺に、セカンドから凄い変化球が飛んできた。
いきなり言われても答えられない…いや、嘘だ…こんな曲聴いたことない。
「いや、ちょ…ちょま…」
意味不明な言葉を発する俺を邪悪な笑顔で見つめる他のメンバー。


やりやがったな!俺はキレた。
しかし、コーナーソファの真ん中に陣取る俺に退路は無い。


総長が回答を言いながら、次々と流れるメタルミュージック。
予習してきた問題が全く出ない。。。
…そんなときは…そう、「彼お腹空いてたみたいだね」作戦だ。
前回も発動したこの作戦、一般人の0.5倍のスピードでつまみを食し、その場をやり過ごすという基本的な作戦だ。


食べ物はどこだ!


…殆ど食べ物が残っていない…。
唯一時間をかけて食せそうなピザがあるテーブルへ続く道は、参謀のNG氏が、がっちり膝でガードしている。
…謀られた…耐えるしかない…。


10分後…カラオケタイムが始まった。紅一点のMM氏がマイクを握る。
どうやら、この歌でデスボイスを俺に教えてくれるらしい。
勿論、教えてくれと頼んだ覚えはない。


曲が始まる。
…普通に上手い。デスボイスって言ってたのは空耳だったのか?
俺の心に平穏が戻ってきた。
これなら全然ありじゃないか。メタル初心者でも全然問題なく聴ける。というか、ノリノリだ。


…と油断していたその瞬間…「ズゴー、ウェー、ワヤー」というこの世のものとは思えない声が響き渡った。
ふと横を見ると、そこには下を向きながらマイクを抱え込み、陶酔した眼で何かを叫んでいる女性の姿があった。
あぁ、これがデスボイスってやつか…。画面を見ると「Scream Aim Fire」の文字…。
聞き取れないし…意味も分からない。ベルリッツ行ったのに…。
「喉を潰せば出るようになるよ♪」…いや、だから頼んでいないと言ってるじゃないか…。


数分後、1次会は終了した。


母さん、僕は今日、見てはいけないものを見てしまった。
白かった僕の心にまるで墨汁が垂らされたかのうようだ。
年末に実家に帰って雪景色を見たら、もう一度僕は白くなれるかな。


(続く)