今回はミュージカル『ノートルダムの鐘』の主人公、カジモドの障害について突き詰めていこうと思います。




カジモドは、ハンディキャップを負った青年です。



ディズニーアニメでの特徴は、
・大きく前弯した背中
・できものによって塞がれた左目
・上を向いた鼻
・悪い歯並び
・歩くと足を引きずる
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劇団四季ミュージカルでの特徴は、
・大きく前弯した背中
・左目をすぼめ、右の口角を上げて、顔に墨を塗ることで表現された顔の歪み
・内股(X脚)
・難聴
・発語の障害
・(知的障害??)
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※カジモド役:飯田達郎




それぞれこのように表されています。




なお、ヴィクトル・ユゴーの原作では、カジモドについて

『四面体の鼻、馬蹄形の口、もじゃもじゃの赤毛の眉毛で塞がれた小さな左目、それに対して、でっかいいぼの下にすっかり隠れてしまっている右目、まるで要塞の銃眼みたいにあちこちが欠けているらんぐい歯、象の牙みたいににゅっと突き出ている一本の歯、その歯で押さえつけられている、たこのできた唇、真ん中がくびれた顎』

『立てば背にこぶ、歩けば外股、面あ見りゃ独眼、しゃべってみてもきこえやがらねえ』

このように描写されています。



うむむ、ユゴー氏、少しぐらい救いを与えてくれたまえよ。
散々な書かれようではないか、哀れなカジモド…。



さてさて、統合して見てみると、アニメ版ではカジモドのハンディキャップは少し軽めに書かれていますね。


ディズニー映画はテンポよく展開するので、難聴という設定ではやりにくかったのかもしれませんね。




とりあえずここでは、劇団四季のミュージカル版でのカジモドについて考えていきます。



カジモドが赤ん坊の頃、初めて顔を見たフロローはその醜さに驚愕し、父親であるジェアンに対して
「怪物だ!これは神の裁きだ。悪人は罰を受ける!」
と言い放ちます。


カジモドは、生まれた時から醜く歪んだ顔だったようです。


赤ん坊の頃の描写はとにかく少なく、顔以外に何かのハンディがあったのかを知ることはできません。
なので想像で進めていきます。


カジモドの大きく歪んだ背中。
エピローグでも、カジモドは「背骨が大きく曲がった男」と表現されています。

その原因として考えられるのが、『くる病』です。



くる病とは、ビタミンDの欠乏によって起こる骨の病気です。

ビタミンDをはカルシウムを吸収する働きがあります。
つまりビタミンDが不足すると、カルシウムが十分吸収されず、結果として骨に障害が出るというわけです。


そして、ここがポイント。

くる病となる原因の1つ、それは『日照不足、日光浴不足」なのです!


カジモドはフロローに引き取られて以降、ずっとノートルダム寺院の鐘楼に閉じ込められて育ちます。

そのため、日光浴不足→ビタミンD不足→カルシウム吸収障害→くる病
となり、あのように脊椎が変形してしまったと考えられるのです。


また、くる病の症状には、足の変形(X脚、O脚)や歯の奇形(エナメル質形成不全)などもあります。


カジモドの歪んだ背中と足、そして歯はくる病によるものでまず間違いはなさそうですね。




次に、難聴について。
こちらは、劇中でカジモド本人が
「鐘のせいなんだ。少しは聴こえる」
と発言しています。

街中に響き渡る鐘を、長い間1人で衝き続けたカジモド。
その音量はどれほどのものでしょう。

20年もの歳月は、やがてカジモドから音を奪っていってしまったのです。


原因となるのは、音響外傷による騒音性難聴になるかと思います。




カジモドの発語障害も、難聴によるものと考えられます。

劇中、フィーバスに「ろくに喋れないのに」と言われてしまうカジモドですが、発声や滑舌に障害はあるにせよ、言いたいことはそれなりにきちんと表現できています。




そして、もう1つ。
カジモドには知的障害があるのか?ということについてです。


カジモドは悪いことをしたときに自分の手足や頭を叩く癖があります。

これが、自閉症患者などに見られる自傷行為にあたるのでは、と考えられなくもないのです。


しかしよく見てみると、カジモドは自戒的なニュアンスでそれを行なっています。


・許しが出る前に食べ物を取ってしまった手を叩く
・思うように動かない自分の足を叩く
・エスメラルダに自分の空想のようなことを話してしまい、思わず頭を叩く
・父親の堕落した話を聞かされ、その血が流れる自分を叩く


などなど、何かの欲求を自分にぶつけるというよりは、自分がいけないんだ、自分を罰しなければという意図で自らを叩いているのです。



カジモドは随所で表現される通り、筋力的な面においては非常に強靭な身体を持っています。

長年 鐘を衝き続けた賜物か、エスメラルダやベンチを軽々抱え上げたり、大の大人であるフロローすら投げ飛ばすほどの怪力の持ち主です。


フロローはそれを知っていて、その力が強力な暴力性を孕む可能性があることを見抜いて、カジモドに幼いうちから『自戒』することを教え込んでいたのかもしれません。


カジモドのコミュニケーションの障害については、20年もの間鐘楼に閉じ込められ、話し相手がフロローしか存在しなかったという過去に起因するものでしょう。


カジモドは外の世界に憧れを抱く一方、非常に恐れてもいます。
実際に民衆に手酷い扱いを受けてしまい、『知らない人』に対するカジモドの恐怖心はますます強まるのです。

そのため、エスメラルダが訪ねてきたときも、物語終盤で警備隊の副官がフロローと話すためにきたときも、カジモドは怖がって背を向け柱にしがみついてしまいます。


これらは障害というよりも、カジモドの過去に起因するものではないでしょうか。





まとめ
・カジモドの脊椎前弯、X脚、歯並びはくる病によるもの
・難聴は音響外傷による騒音性難聴
・発語障害の原因は難聴によるもの
・知的障害については不明だが、あっても軽度。恵まれない環境が原因とも考えられる




今回は以上になります。
ふむむ、なかなか奥が深いよノートルダム。











参考
ノートル=ダム・ド・パリ(岩波文庫)
ユゴー作
昶・松下和則 訳

Wikipedia