彼女の黒い瞳は宙に浮いたまま微動だにしない、その虚ろな瞳の中に輝いていたはずの生気の光は消失している。
彼女の小さい肩が小刻みに震えているのが分った。
季節は夏に入るとは言っても幾分かは寒さが残る。特に夜風があたればなお一層寒さを感じる微妙な季節であった。
しばらくすると彼女の頬を伝う一筋の雫が月夜に照らされてちらりと光る。彼女の長い睫毛は瞳から膨れる雫に濡れてぴんとした張りを失っていった。
いつもなら朱に染まる彼女の唇は灰色の影を感じさせるようにげんなりと血色を失っているのが見える。
そのようにして彼女の小さな身体は何かに怯え悲しみ、その負の感情が胸の中に溢れていく様子がまじまじと感じられた。
自分と言う小さな存在を自分で認識するために、誰かに存在を認めてもらうために、彼女はしがみつく。
しかしそのしがみ付いたものが空虚に消え去ったとしたら彼女は何を頼りにすればいいのだろうか。
いや頼れるものなど何一つ無い、はじめから彼女は分かっていたのだ。
自分と言う空虚で無いにも等しい存在、無いも同然なら消え去ってしまって何の問題が生じえようか、そう彼女は自らの生命を絶とうと言う想いが胸にふつふつと沸き起こっていた。
彼女と言う存在がなくなったとしても世界は当たり前のように周り、明日にはお天道様が暖かい日差しをこの地に届けてくれる、そうやって当たり前のことがただただ繰り返されるだけだの話だ。
彼女が事を起こすまであとほんの一歩の勇気を身体に起こさせるだけであった。