テーブルの前に腰掛けると麦が焦げたような香ばしいトーストの匂いがした。


さっそくトーストを皿の上から取り上げ、たっぷりと乳白色のバターを塗りつける。


香ばしさとバターの脂っぽい匂いが絶妙に溶け込み、よだれをそそるような旨みのある香りを放っている。


そのトーストに向かって大きく口を開けてかぶりつく。


舌の上で脂の旨みが広がると共に、喉の奥が水っ気に飢えたような渇きに襲われた。


すぐさま何か飲み物がほしくなり右手に置かれたコーヒーを手に取る。


カップを唇まで運ぶと珈琲豆の苦い香ばしさが鼻腔に漂う。


すうっと鼻から息を吸い込むと喉の奥に、苦味のある香ばしい空気を感じた。


そのままごくんとコーヒーを飲み込む。


うまい、朝はトーストと苦いコーヒーが一番好きだ。


「おはよっ」


 ふと顔をあげると、新妻が向かい側に座っているのが見える。


特段無視していたわけでは無かったのだが、腹が減っていたせいか食い物にばかり目がいってしまっていた。


「おはよう」


 おれは微笑を向けながら言った。


妻からは緑色した初々しい視線が朗らかな表情と共に送られてきた。


 うむ、わが人生に一生の悔い無し。


心の中でそう呟いたのであった。