花のお江戸は今日も活況を呈している。


おん歳二十二を数える八兵衛も大工職人として毎日を生き生きと過ごしていた。


今日は友人の又吉に連れられて江戸の不夜城の異名を取る吉原遊郭に足を運んでいた。


「なあ、又吉。吉原に銭持って来たはいいが、本当に大丈夫なんだろうな?」


「なに心配はいらねえだ、おれにとっておきの考えがあるだ」


 又吉はなにやら意味深い表情を顔に浮かべながら答えた。


八兵衛の胸中は不安と期待で零れ落ちそうであったのだ。


何しろ人生ではじめての吉原遊郭だ。庶民の少ない稼ぎを貯めてせいぜい数度行けるか行けないか位の場所である。


とっておきでなければ満足できないものも無理は無い。


そんな時、背筋をしゃんとのばしたお侍が通りかかる。祖度振り合うも縁のうち。


「のう、主らも吉原へいくのか?」

「そうですじゃ」


「やめとけやめとけ。最近の吉原はとんと良い娘が居ないというぞ」

「はあ」


「特に舞姫だけはやめておけ」


「どうしてですじゃ?」


「むう。いいからやめておくんだ!」


お侍は突然強い調子の声をあげた。


勘のいい八兵エはぴんときた、そしてにやついた表情を浮かべる。


「なるほどですじゃ。なるほどですじゃ」


「主、なんじゃ?」


「舞姫か、覚えておきますじゃ」


「むう」